14話 “鏡界竜 ジャバ”
「大体話は分かる、結論から聞こうか、言ってみな」
ジャバとヅィギィアは、茶菓子が置かれたテーブルを挟んで座り、ラーノルド、ヤト、アルマの三名はヅィギィアの後ろに立っていた。
穏やかなティータイムのはずなのに、重い雰囲気が緊張感を増す要因となっていた。
「話というのは、試練の話です」
“試練”それは竜の階級を上げるための試験のこと。
一般級から戦士級に上がるものを除いて、階級を上げるためにはそれぞれの試練を受けなくてはならない。
「試練を受けるのは誰だ?ヅィギィア自身か、後ろの三名の内の誰かか・・・」
「いえ、試練を受けるのは私でも、後ろの三名でもありません。試練を受けるのは、メギドラ、ヴィドル、ベスティア、セシリアの四名です。彼らを上戦士級に推薦します」
「・・・本気かい?」
「本気です」
ジャバは頬杖をつきながら深呼吸して言った。
「一応確認しておこう。上の階級へ上がるためには基本的に特定の試練を達成すること、そして試練竜と呼ばれる上の階級の竜たちと戦い上がることを認めてもらうこと。この二つを達成して初めて上の階級へ上がることができる。ただし戦士級→上戦士級になるのに試練竜は存在しない。正確には上の階級の竜から推薦をもらうことが試練の内容であるため、試練竜が存在しない。ここまではいいね?」
「はい」と、ヅィギィアが相槌を打ち、ジャバは続ける。
「《戦士級→上戦士級》の試練は通称『信頼と期待の試練』と呼ばれる。試練内容は上の階級の竜たちから推薦をもらうこと。上戦士級からは1pt、精鋭級からは3pt、将軍級からは5pt、元帥級以上からは10ptとして推薦を貰い、合計が10ptに達すると上戦士級に上がる資格を得る」
「そうですね」
「そうか、だから君たち四名でここに来たのか」
ジャバは納得して、相対するヅィギィア、後ろのラーノルド、アルマ、ヤトの順番に視線を移し、最後に手元の紅茶に視線を落とした。
「ええ、私将軍級ヅィギィア、精鋭級ラーノルド、上戦士級アルマ、並びにヤト、以下四名の名の下に彼らを上戦士級に推薦します」
将軍級×1、精鋭級×1、上戦士級×2の合計10pt、これでメギドラたちを上戦士級に上げることができる。
そのために四名で来たのだ。それをジャバは理解し、話しを続けた。
「ま、彼らが上戦士級になるのに僕が反対したり拒否したりする権利はない。ヴィドルとベスティアは元よりそのくらいの実力はあるし、残り二名もヅィギィアたちが認めるなら大丈夫だろう。気になったのは別のこと、なんでそれを僕に言いに来たのかってこと。元帥級は別として、階級が上がるのに僕の許可は必要ない。別に僕に言わなくても、彼らに直接言えばすぐにでも階級を上げることはできるだろう?」
「その通りですジャバさん。彼らを上戦士級に上げるのは、まだ先にしたいんです」
「・・・詳しく聞こうか」
「メギドラが元人間だと公表する予定の日、祭りの・・・覇竜饗宴のときに、上戦士級に昇格させようと思います。その間まで、この声明を保証しておいてもらいたいんです。念のため書類は残していますが、多くの信頼は得られない。しかしジャバさんに言ってもらえれば、皆一番信用できるでしょう」
「分かった、ヅィギィアの言うことは我らの神に誓って約束しよう。だが・・・その言い方、お前がその日まで生きていないような言い方だ」
ヅィギィアのその言い方は、まるでもうすぐ死んでしまうような言い方であった。
「勘違いしないでください。これは予備です。私たち遊撃隊は危険です。奇跡的に死者は出ていませんが、いつ誰が死ぬかも分からない。そんな部隊のリーダーが、何の用意もなく死ぬわけにはいきません。もちろん私も死ぬ気はありません。ただの予備です」
「ならいいんだけどさぁ・・・」
「話はそれだけです」
ヅィギィアは出された紅茶を啜り、そのまま一気に飲み干した。
「・・・ヅィギィア、やっぱり君は・・・いや、君たちはそのメギドラという男を気に入っているんだね。最初の方は、彼に巨像に囚われた仲間を救う力があるからだと思っていたけど、どうやら違うようだ。それ以上の感情を持っている。だが心を許しすぎるなよ、もしメギドラがスパイ行為など、僕らに対しての敵対行動をすれば、約束通り即刻処刑だから」
爽快な笑顔で物騒なことを言うジャバであった。
「分かってます。御紅茶ありがとうございました。私たちはこれにて失礼します」
「うん、頑張ってね」
ヅィギィアは立ち上がり、踵を返して歩いていき、残り三名もその後ろをついていく。
「───本当に気を付けろよ、ヅィギィア」
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「ヅィギィアさん、あの話どういうことですか?」
帰路を歩いているとき、ラーノルドがヅィギィアに話しかけた。
「処刑の話かい?当たり前だろう、今までも人間が竜に擬態して竜帝国に来ることはあったじゃないか。どれだけ技術が進歩しても擬態は御粗末なもので簡単に見破れたから、すぐにボロが出て即刻処刑したけどね。でもメギドラは違うだろ」
「そうですが・・・」
「特別扱いはできないさ、そう決めただろう?」
「そうですね・・・」
「その話よりボクは、もうヅィギィアさんがジャバさんに話をつけてたことの方がビックリしたけどね~いつ言ったんです?」
「セシリアを救出した後、遊撃隊みんながメギドラのことを認めたとき。あのタイミングでジャバさんに言った。ジャバさんも、「ヅィギィアが認めるならいい、けどもしもの場合の責任は持て」って言ってくれたよ。そのタイミングで相談して祭りの日に公表するように決めた」
「随分と早いですね~いつか公表しないといけない日は来るでしょうけど、祭りまであとどのくらい?あと~三週間くらい?」
「覇竜饗宴の時期くらい正確に覚えておきなさい。19日後だ。結構特別な日なんだから、覚えておかないと下の子たちの見本になれないよ」
「いいですいいです~あの子たちはきっとすぐにでもボクの階級を抜きますよ~」
「そんなこと言うな、階級はそうでも、実力は違うだろう。アルマもヤトも、すぐにでも精鋭級に上がれるくらいの実力はある。お前たちが上がろうとしていないだけだ。それに、そろそろラーノルドも将軍級に挑戦してみても問題ないだろう」
「それを言ったらヅィギィアさんも、元帥級に挑戦してみては?」
「そうだね、ボチボチ考えておこうかな」
そんな他愛のない会話を四名で繰り返しながら、帰路を歩く。
穏やかな風がそよぎ、木々の葉が優しく揺れる。彼らは楽しげに笑いあい、声は鳥のさえずりと混ざり合う。その場には幸福な空気が流れていた。
「腹が減ったな」
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「なぁベスティア、この地区を統治してるジャバって竜は一体どんな方なんだ?」
買い物を食糧庫や倉庫へと運び終わった後、ベスティアと一緒に飯の準備を進めていく間、メギドラはジャバという竜について聞いた。
「元帥級のジャバさんのこと?ジャバさんはここ竜帝国の南西部を治めている銀色の天竜。その強さから恐れられ、付けられた二つ名は“鏡界竜”。元帥級になったのは200年くらい前、その頃は別の方が統治してたけど、その方はかなりさぼり癖があったから、実質その頃から統治してたみたいだけどね」
ベスティアは続ける。
「ジャバさんは結構民衆に寄り添ってくれる優しい方で評判も良くてね、ヅィギィアさんも相当信頼してるみたい。抱える将軍級も四名で全地区最多。戦うところは全く見たことがないから、逆鱗の能力もよく知らない。けど、相当な強さを持っていることは確か。また、ジャバさんが抱える執事も粒ぞろい、精鋭級 “炎仕竜”トーヴァ、上戦士級 “氷仕竜”ヴォロコーブ、互いに実力者だよ」
「いつか試練を受けるときとか・・・俺の場合は別の理由とかで戦うことになるかもな」
「・・・そうならないといいけどね───」
一旦自分のやる分を終え、ベスティアももう少しで終わりそうだったため、一足先に手を洗い、両腕に金色の腕輪をはめた。
振り返るとベスティアはその数秒で作業を終えており、渡そうと彼女の金色のペンダントに手を伸ばした───
「触らないで!!」
急な大声に驚いて肩をびくりと震わせメギドラは伸ばす手を止めた。
濡れた手を拭うこともなく、奪い取るかのようにペンダントを取り、首にかけた。
「・・・悪い、そんなに大事なものだとは知らず」
「いや、私もごめん・・・とりあえず、これあなたの分とセシリアちゃんの分、持って行ってあげて。他のは全部近いから私がやっておくから」
「おう」
重い嫌な雰囲気から逃げるかのように、部屋から出てセシリアのもとへと向かう。
セシリアは傷が回復し、メギドラが初めて飛行したあの場所でリハビリを行っていた。数メートルの尖塔状の岩石が無数に立ち並ぶ谷のようなあの場所だ。
軽く飛び、その場所へと向かう。場所へと到着すると、細い木刀を振り回すセシリアがいた。
「あっ、メギドラさん!」
メギドラを見つけるとすぐに顔には笑顔が戻り、手を振ってきた。つい最近まで絶望し、もう戦えないような状態であったとは思えないものであった。
その笑顔は、メギドラに、やっぱり天使か、とそう思わせる。
「同じ戦士級なんだから、さん付けはやらなくていいって。飯できたから持ってきたよ」
「ありがとうございます」
「敬語も要らないって」
そうして、セシリアに飯を差し出した。飯と言っても、おにぎりとサンドウィッチのような簡素なものだが。
そういえば、セシリアの逆鱗って一体どんな能力なの?」
セシリアが座っておにぎりをほおばっている横で立って食べていたメギドラは、ふと気になって聞いてみた。
セシリア自身からは対して強い逆鱗も持っていないと言っていたが、本当にそうとは思えなくて聞いた。
「私の逆鱗ですか?メギドラさ・・・メギドラの『血を操る能力』とか、ヴィドルさんの『死者の魂を炎として顕現させる能力』みたいに強い逆鱗じゃないですよ」
「それでもいいから、教えてくれ」
「じゃあ、手を出してください。そのまま真っ直ぐ、ゆっくり、押すようにです」
セシリアの指示通りに行っていくと、しばらくして透明な壁なようなものに阻まれた。
ユニコーンの巨像のときと同じ、見えない壁に阻まれる感覚であった。
「次にあの岩でも・・・」
セシリアが指差す方向にあった岩に目を向けて数秒後、岩の一部が切り裂けた。
ユニコーンの巨像のときと同じ、見えない斬撃を放つ力であった。
「私の逆鱗の名前は“障壁空間”です。私の周りの・・・オーラって言うのかな?気とかかなぁ?それを操るの能力なんです。そのオーラはみんなに見えないけど、私にだけ見える性質がありまして。あと、集めて固めると硬くなる性質もあるんです。さっきの見えない壁はオーラを壁状に固めて、メギドラと私の間に置きました。そして、さっきの斬撃はオーラを三日月型に固めて放ったものです。でも私の能力は・・・本当にこれくらいで」
「・・・・・」
メギドラは絶句した。分かりやすく頭を抱えて考える。どうしたものかと思考を巡らせ、何と言葉をかけるべきかを考えるが、やっぱり面倒だった。思ったことを包み隠さず正直に述べることにした。
「セシリア、正直な俺の感想を聞いてくれ。セシリアの“障壁空間”、俺はその能力は弱くないと思う。少し前にヅィギィアさんに聞いた。一言で強い逆鱗、弱い逆鱗ということはできない、どんな能力も使い方次第だ。だから自分を卑下するな」
メギドラは続ける。
「強い弱いは別として、良い逆鱗っていうのはある。相手に充分にダメージを与えるだけの力があるということ。一辺倒ではなく、応用力があること。自在にコントロールできる高い制御性があることなど。他にも言ってたけど、セシリアの逆鱗に特に当てはまるものが今の三つ。セシリアが言うように弱い逆鱗であっても、良い逆鱗であることには違いないんだから。自信もって」
この言葉程度で自信を持てるわけがないということはちゃんと分かっている。自信というものは戦いで勝利することなどの行動や結果からくるものだ。
メギドラにある自信も、巨像から救出できたという結果からくるものであったからだ。
「よし、俺も修行を───」
腹ごしらえが済み、少し休憩を挟んで修行を開始しようとした瞬間───
遠くから、カランカランカランと、乾いた鈴の音が響いてきた。
「───警報!?またここで───セシリア!」
即座にセシリアの手を掴み、駆け出す。メギドラたちはすぐにでも戦場に行かなくてはならない。
困惑しながらも付いてくるセシリアに状況を説明しながら、集落の方に向かった。
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「ヅィギィアさん!」
到着すると、前と同じように全員が武器を持って集合していた。この前の巨像が来たときも緊張が走っていたが、今回はそれ以上に重い緊張感が流れていた。
何故か、前とは違う嫌な予感がしてきたが、何も言わず、ヅィギィアからの言葉を待った。
「集まったね。今回攻めてきたのは巨像だけじゃない。人間の軍勢も攻めてきた。巨像は合計四体、一部隊につき巨像は一体ずつ。三部隊が竜帝国へと進軍してきており、後衛で一部隊が待機している。そこが本陣、私たちはそこへ赴き、なるべく時間を稼ぐ。稼いでいる間、進軍部隊はジャバさんを筆頭とする部隊が相手する。私たちはなるべく消耗しないように戦う、いいね」
ヅィギィアから今回の状況や作戦を聞いていく。話を終え、最後にセシリアの方を向いた。
「セシリア、君はまだ、心の傷が癒えていないと思う。今なら前線に行かないという選択ができる。その上で君に聞きたい・・・やるか、否か。今なら逃げたって構わない。誰も責めたりしないし、恥ずべき行為でもない。どうする?」
ヅィギィアからそう聞かれた後、ちらりとメギドラの方に目を向け、大きく息を吐いて言った。
「やります。私も前線に行きます」
この一言だけでも、相当の覚悟がいる言葉だろう。
「分かった」
それを感じてか、この言葉以上のことは、何も言わなかった。
レイピアのような細い剣を手渡し、少し歩いて大きな翼を広げた。
「よし、準備完了、行くぞ」
メギドラはセシリアを抱き上げ、アルマはヤトの方に乗っている。
戦場へと、飛び立った。
嫌な予感からくる不安は、募るばかりであったが。




