13話 “連係”
「・・・何でこんなことになったんだっけ?」
メギドラは今、竜帝国内の市場に来ていた。商店街のように、大通りに数々の店が並んでいる。
辺り一帯を見ても知らない竜、知らない竜だらけ。
ここ数週間は、ほんの数名という少数としか会っていなかったため、大勢がいる中に放り込まれると頭が痛くなってくる。
「はぁ・・・早く帰りたい」
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「次は命令の方、メギドラ、君に買い出しに行ってもらうよ。竜帝国内へ」
「・・・・・は?」
意味が分からなかった。買い出し?俺が?竜帝国内へ?なんて頭の中をその言葉が回っている。
「・・・ヅィギィアさん、今何と?」
「竜帝国内へ買い出しに行ってもらうよ」
聞き間違いではなかった。メギドラは聞き間違いを願っていたが、その願いは儚く消えた。切り替えて辺りを見渡す。そこにセシリアがいないことを確認してから口を開いた。
「ヅィギィアさん、俺は元人間ですよ」
「知ってる。でも今は私たちと同じ竜だ」
「理由を知りました・・・セシリアから屠竜監獄で受けたことを聞きました。巨像のエネルギー源にするために非道な拷問を受けたことを知りました。竜は人間という種族全体を恨んでいます。それも殺したいほど。どんなに俺が良い奴だって言っても、俺が人間であったことに変わりはありません。きっと、みんな俺を殺そうとするでしょう。殺されるのが分かってるのに、自ら死地になんて行きませんよ」
話を強制的に終え、ヅィギィアから離れようとする。
するとヅィギィアは穏やかな表情から険しい表情へと変わり、物凄い勢いでメギドラの胸ぐらを掴んだ。
「メギドラ、お前は私がそんなことも考えずに言ってると思ったのか?」
ヅィギィアは胸ぐらを離し、メギドラの両肩を掴み、視線を合わせて言った。
「いいかい。君がまだ元人間だとばれていないのは運がいいだけだ。あまり竜帝国内の者たちが来ない場所であり、ここの遊撃隊のメンバーが温厚なだけだ。でもいつかばれてしまう。これは時間の問題だ」
メギドラの理解を待たないまま、ヅィギィアは続けた。
「君が元人間だとばれたら、きっと殺される。君自身から擦り寄るしかないんだ。君自身が竜帝国内の者たちと関わり、自分の価値を示すしかない。君が元人間だとばれたとしても、メギドラだから許される状況にするんだよ。これは賭けなんだ、まず手始めに竜帝国内の者たちと顔を合わせること、これが目的だ。分かってくれるか?」
「・・・不安です」
「だろうね、でもこういうことをやっていかないと君はここで長く生きられない。君に死んで欲しくないって思う者もここにいるよ」
「ずるいなぁ」と、そう思う。そんなことを言われて、悲しそうな表情を浮かべたヅィギィアを見ていると、メギドラは応えるしかない。
「・・・分かりました・・・分かりましたよ、行きます」
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「───ってなことがあって、俺はここにいる訳だが・・・やっぱりもうバックレたい」
ヅィギィアからは買い物リストと金を渡され、ほとんど説明もなく連れてこられた。
買い物リストには、数日分の食料、包帯や薬などの医療品、そして消耗品がいくつか。独りで買い出しするには、些か多すぎる量であった。
「その上売ってる場所も分からない。ヅィギィアさんめ、何が手始めだ。初っ端から難しいじゃないか」
だからといって行動に移さないわけにもいかない。メギドラは腹をくくった。
「聞くか・・・すいません、そこの・・・ダンディでハンサムなお爺さん」
「なんじゃ?」
メギドラはたまたま横を歩いていた白髪だが、紺色の地竜のイケオジに声をかけた。
思ったよりも簡単に釣れて驚いているが、動揺を見せないように気を付けながら聞いた。
「このリストにある物を買いたいんですが、どこに売ってるか知ってますか?」
「ん?あぁ!!知っとる知っとる、儂も今から行くところじゃ、一緒に行こう!」
「お、お願いします」
随分と元気でよくしゃべるお爺さんだな、と思いながら、ゆっくり歩く隣を歩いて行く。
市場は活気とエネルギーに満ち溢れ、普段ならば熱く感じるのだろうが、人間だとばれてはいけない緊張感で冷や汗が流れ、手が冷たく感じる。
「そういやお前さん見ない顔だなぁ、名前は何と言う?」
「・・・メギドラです」
「そうかァ、良い名じゃなぁ。儂の名はウガ。よろしくなぁ」
「よろしくお願いします」
ウガと名乗るその爺さんは、メギドラが緊張しているのを見抜いてか、はたまたただお喋りなだけなのかは分からないが、よく喋っていた。
ただの世間話程度のもので、あまり内容を理解できなかったが、段々と緊張感は和らいできた。
「しっかし小僧、お主一体全体どこから来たんじゃ?と言うより、どんな生き方をしておったんじゃ?」
「・・・どんな生き方なんて、至って普通です。何の変哲もない普通の生き方です」
メギドラにとって、竜の普通の生き方というものはよく知らないものであるが、ウガを誤魔化すためにそう答えるしかなかった。
人間であれば、竜星村に住んでいる人間ならば普通の生き方であることは間違いないのだが。
「そうかァ・・・あまり普通じゃないような空気、雰囲気?・・・いやぁ、オーラ?っていうのか。まぁそれが少し異質なように感じたんじゃが・・・違うならすまんのぉ、そろそろボケてきたかもしれんのう。がっはっはっはっは!!」
そう言ってウガは豪快に笑った。
そんなウガを横目に、メギドラには再び緊張感が走る。その異質な雰囲気が元人間であることから出ているのだと予想したためである。
「ほーれ、そうこうしているうちに到着したのう。ここじゃ、ここならお主の求める物が買えるじゃろうて」
ウガに連れてこられたのは、少し大通りから離れた部分の先にある、古い分趣のある屋台だった。
店先には食料品や医療品など、様々なものが売られていた。
「いらっしゃいウガの爺さん、そちらのお連れの方は?」
「この赤毛の小僧の名はメギドラ、最近ちと別ん所から来たみたいじゃから、仲良うしてやってくれ、タイブーン」
その屋台は、タイブーンという二メートルを超える巨大な肉体を持つ緑色の天竜の男が店番をやっていた。
タイブーンに買い物リストを渡すと、慣れた手つきで商品を袋に詰めていく。
「はい、26000DCだ」
DC、竜帝国での通貨、ドラゴンとコインを足し合わせた安直な名前が由来となっている。コインなんて名前をしているが、高い桁になると貨幣でなく、紙幣になる。1円=1DCという考え方で問題はない。
メギドラは財布から金を取り出し、払おうとするが───
「ほい、これで丁度じゃろう」
払おうとするメギドラを押しのけて、ウガが金を投げるかのように払った。
「ちょっと、ウガさん?」
「いいじゃろ、ここは黙って爺に奢らせな」
「いや・・・なんで?」
「お主、ヅィギィアの坊のところの遊撃隊じゃろ?そのリストの筆跡はヅィギィアのじゃ。彼奴等は竜帝国の城壁外、前線にて戦う者たちじゃ。そうやって竜帝国を守っている者たちに対して儂等ができるのはこれ位しかない、というわけじゃからここは儂に奢らせな」
そう言ってウガは納得させようとしてくるが、メギドラはそんなことを言われても納得できるわけがない。
「納得できんという顔じゃなぁ」
「当たり前でしょう、俺たちが買うものですし、不公平ですし、何よりほぼ初対面で奢られたら怪しみますよ」
「確かにのぅ・・・んなら───」
ウガは懐から銀色に輝くスキットルを取り出し、タイブーンの方に差出してメギドラの方を見ながら言った。
「お前さんが一杯奢ってくれ、今日は酒を買いに来ただけだしのぅ、それで支払いはチャラにしようぜぃ」
そんなことを言っているが、その一杯の値段は1500DCほど。メギドラが買った26000DCには全く届いていない。
まだまだ納得できていなかったが、その横でタイブーンが「この方の善意は素直に受け取っておきなさい。素直に受け取るのも礼儀だよ」と言われ、納得することにした。
「これを運ぶのは些か骨が折れるじゃろうて、半分よこしなさい、運ぶぜ」
半ば強引に荷物の半分を持たれ、一緒に帰路に就く。これも善意だと自分を納得させ、それに甘えることにした。
「ヅィギィアの坊のところで、上手くやれているか?」
「・・・えぇ、まぁ」
「そうか・・・お主がやっとるのは、随分と危険な仕事じゃ。いち早く前線へと駆け、巨像や人間と戦う仕事。遊撃隊のメンバーが階級以上の実力があり、幸運が加味して、今は犠牲者が出ていないが、いつ犠牲者が出るやも分からないような状態じゃ。だから決して油断するんでないぞ」
「分かってます」
「お主が嫌になったり、苦しんだりすれば、いつでも儂を頼ってくるがいい。竜は皆が家族、お主が助けを求めれば、手を差し伸べてくれる者は多くいる。そのことを忘れるなよ」
「・・・ありがとうございます」
きっと、元人間だとばれたらそんなことは言ってもらえなくなる。そう思っているメギドラにとって、その言葉は全く心に響かなかった。
ウガは良い竜だということは分かっているが、ヅィギィアのように特別に接してくれるわけがない。いつか手のひらを返して罵声を浴びさせられる、そう思っていた。
そうこう話している内、いつの間にか初めて市場に来た所まで戻って来ていた。
「んじゃあ、ここからなら帰れるじゃろう。儂はここまでじゃ」
「そうですね、今日はありがとうございました」
「うむ、今度暇がありゃあ一杯やろうぜぃ、んじゃあな」
そう言って、半分持ってくれていた荷物を渡し、颯爽と帰って行ってしまった。
渡された手荷物は、メギドラが持っているものよりも重く、ずっしりとした重厚感が感じられた。
「最初はどうなることかと思ったけど、思ったよりも簡単に買えたな・・・顔を合わせるっていう目的も果たせたし・・・帰るか」
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「今戻りました・・・ってあれ?」
昼過ぎ頃、駐屯地に戻ってきたメギドラは、買ってきた荷物を持ってヅィギィアの部屋へと訪れた。しかし、部屋の中にはヅィギィアの姿はなく、もぬけの殻となっていた。
「ヅィギィアさんは今留守ですよ」
迷っているメギドラを見かねてか、偶然通りかかったベスティアが声をかけてきた。
「なんだベスティアか・・・じゃあラーノルドさんは?」
「ラーノルドさんもいない、アルマさんとヤトさんもいない。今いるのは戦士級の私たち年少組しかいないよ」
「そんじゃああんたでいいや、これ全部どこに置いとけばいい?」
「・・・あなたが買いに行ったの?」
「あぁ」
「・・・元人間のあなたが?」
「あぁ」
「ヅィギィアさんは何を考えているの?」
「色々」
ベスティアは何とも言えないような表情をしていた。
「なんだその目は、やめろ、その表情をやめろ。早く置き場を教えてくれ」
「はいはい分かった、付いてきて」
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時を同じくして、竜帝国内、某所にて。
「最近はここに来ることが多いね、しかも今回は大所帯のようだ」
そこにはヅィギィア、ラーノルド、アルマ、ヤトの四名がとある竜と面会していた。
「また例の元人間の少年の話かな?少し前にまだ公表しないっていう話をしたはずだけど」
「その話じゃありません、今回はまた別の話をしに来ました」
「そうかい、じゃあ茶菓子でも準備しようか」
四名が相対しているその竜、銀色の天竜の男。
竜帝国 南西部統治者 元帥級
“鏡界竜” ジャバ
「さぁ、話を聞こうか」




