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ドラゴンブラッド  作者: カシワデ
竜人領生活編
11/25

11話 “夜風”

「“逆鱗解放(げきりんかいほう)”“竜の血(ドラゴンブラッド)”」


巨像との戦いから数日、メギドラの傷は充分に癒え、キナンカに言われた通りに逆鱗を練習していた。

出血多量にならないように僅かな量の血を操り、宙に浮かしながら形を自由自在に変えていく。

これが意外と集中力のいる作業であり、少し集中が途切れるとすぐに形が崩れて地面に落ちてしまう。本当にあの戦闘中にこの能力が使えていたのだろうかと心配になってくる程であった。


「やってるね」


その声を聞いて振り返った先にはヅィギィアが立っていた。その後ろにはヤトが剣や弓、槍など、無数の武器を持って準備していた。


「そろそろメギドラの武器を見繕った方がいいかと思ってね、色々持って来たんだ。この前ユニコーンの巨像が来たときは合わせる時間が無かったから剣にしたけど、改めて一度手に馴染むものを選ぶべきだ」


「はぁ」


「これは全部常世(じょうせい)武具(ぶぐ)だけど、結構質のいいものを集めたから、気に入るものも見つかると思うよ」


「・・・常世武具って何ですか?」


「あぁそうだった、ついでにそれも教えるつもりだったんだったよ」


そう言ってヅィギィアは自身の腰に差した片手剣を引き抜き、ヤトも自身の大鎌を持ち出してきた。


「竜帝国には大きく分けて三種類の武具が存在する。希少性が低い順に、常世武具、永世(えいせい)武具(ぶぐ)生世(せいせい)武具(ぶぐ)の三種類だ」


そう言ってヅィギィアは自身の片手剣を指差して続けた。


「まず常世武具、これの武具の特徴は大した特殊能力もなく比較的安価であるということ。私の持つ片手剣『魂絶(こんぜつ)』やアルマが持つナイフ『クレセントムーン』、ラーノルドの持つ刀剣『古太刀(こだち)』などが例に挙げられる」


ヅィギィアは続ける。


「次に永世武具、この武具の特徴は壊れても直るということ。その上もっと特異な能力を持っていることもある。この武具はヤトの大鎌『鎌首(かまくび)大蛇(おろち)』がそうだ。この大鎌は自己修復能力があり、折れたり刃毀れしたりしても再生する。まるで脱皮を繰り返して復活、再生する蛇のようにね」


ヅィギィアは更に続けた。


「最後は生世武具、この武具はかなり希少でね、竜帝国でもほんの数名しか持っていない程なんだ。この武具の特徴は何と言っても生きているということ。永世武具のように再生能力などの特異な能力を持っている上、使用者が成長すると同じように成長を繰り返して強度が上がったり、特異な能力を得たりもする。そして、名前を呼べば変形する。剣が伸びて鞭みたいになったり、銃が変形して鎧になったり、槍が肥大化して斧になったりね。昔は空間そのものになる武具もあったみたいだ」


ヅィギィアは最後にこう付け加えた。


「でも永世武具と生世武具はそう簡単に手に入るものじゃない、その上強い武具を使いすぎると成長を妨げてしまう恐れもあるからね、今は常世武具を使って基礎から鍛えるのがいいよ」


そうして話が終わり、メギドラは無数の武器の中からいくつか手に取った。

これは武器だけに言えたことではないが、選ぶときに大切なのは自分に合うということ。他の者が合うからといって自分にもそれが合うとは限らない。

新しいもの、古いもの、形が整っているもの、歪なもの、滑らかなもの、粗いもの。どれであろうと一度手に取り扱うこと。それで合わないと感じれば、別のものに変えること。それが大切なことであると、メギドラは知っていた。

例え剣を扱っていたとしても別のものの方が手に馴染むかもしれない。メギドラはそう考えて武器の一つ一つを手に取り、軽く振って合うものを探していく。

剣、槍、弓、斧、鎌、斧など、鉤爪や三節棍などの珍しい武器も扱った。これだけ種類があれば剣以外にも合うものが見つかる───


「───って思ってたんだけどなぁ。結局これが一番合うみたいだ」


メギドラが最後に手にしていたのはユニコーンの巨像と戦ったときに手にしていた剣とほぼ同じものだった。あのとき使った剣はもう寿命を迎えてしまったためこの剣は新しいものだが、形や握り心地がほぼ同じだった。


「まぁ一番最初に選んだものが一番いいってことはよくあることだからね。それに、使っていく内に合わないと思えば変えてもいいしね」


「武器は選びましたが・・・俺はこれから何をどう鍛えれば?」


元よりメギドラには剣術も逆鱗の使い方も飛行術もままならない。それを独学でやるには時間がかかりすぎる。まずは有識者たちから教えてもらうべきだ。


「メギドラはまだ自分の戦闘スタイルが決まってないから、剣術メインか、逆鱗メインか・・・それはおいおい決めたらいい。まずは全部の根幹、肉体から鍛えていこうか」


「分かりました」


「ちなみに私はスパルタだから、覚悟してね」


「え?」





ーーーーーーーーーーーーーーーー






「・・・あ・・・あぁぁ・・・」


数時間後、メギドラは大の字で寝そべっていた。

重力が数倍になったかと思うほど体が動かなかった。


「うん、筋力、体力はまずまずってところかな。竜になって日が浅いから、強くなった体にまだ慣れてないね。それでも充分筋はいい方だ。これなら数日鍛えていけば、かなり楽になると思うよ」


「そうですか・・・話変わりますけど、あの子、セシリアはどうなりましたか」


メギドラは数日前に見舞いに行った後から一度も見舞いに行っていなかった。あの怯えた目で見られるのがとても嫌だった。


「彼女かい?傷は着々と治ってきているよ、でも結構遅い方だね。メギドラは元から治癒能力が高いから分かりにくいと思うけど、彼女は平均とかと比べたら遅いんだよ」


「・・・それは元から治癒能力が低いってことですか?」


「いいや、違う。竜・・・生物というのは肉体と精神が密接に関係してる。彼女は、精神の方に結構な傷がある。その証拠に傷の治りが遅いし、翼も治ってない」


メギドラはヅィギィアたちに習っていた。竜は人間よりも再生能力が高い。例え腕や脚がもげたとしても再び生えてくる。ツノや尻尾、鱗に翼ですら再び生えてくる。しかしそのトリガーは───


「───強い覚悟と強い精神」


「そう、それが無ければ傷の治りは遅く、欠損した部位も治らない。巨像から救われた竜の精神が弱っているのは普通だよ、どれだけ非道(ひど)いことをされたのか・・・話せないようなこともあるだろうし・・・屠竜監獄(とりょうかんごく)で何があったか───」


ヅィギィアはその言葉を言った瞬間に「しまった」とでも言わんとするように口を手で塞いだ。

暫くするとヅィギィアは深呼吸して口を開いた。


「メギドラ・・・私たち竜は・・・ほぼ全員が人間を嫌っている。君は・・・私たちが人間を嫌っている理由を聞いても、元人間として、傷ついたりしないかい?」


ヅィギィアはそう聞いてきた。それに対してメギドラは間髪入れずに答えた。


「俺は竜ですよ?」


その言葉を聞いてヅィギィアは笑い出した。肩の荷が下りたかのように穏やかな表情になり、話し始めた。


「竜と人間の争いは、何千年も昔からずっと続いている。人間が竜を襲い、それを竜が防衛する。その繰り返しで戦いが行なわれていた。その中で人間はあることを発見した。竜はその身に莫大なエネルギーを持ってるということを、そしてその力はまるで城、動く大地と称される巨像を一体で動かせるほどだった・・・巨像を使って竜を弱らせ、弱った竜を捕まえて捕虜にする、そして、新しい巨像を創り出す。これが人間のやり方だ」


「随分と外道なやり方ですね」


「そうだ。そして、捕らえた竜を閉じ込めておく監獄、それこそが屠竜監獄『ジーフリト』。竜は仲間を見捨てないから、殺すと脅されれば攻め入ることができない。人間と捕虜の交換をしようとしても、人間どもは簡単に見捨てる。かといって屠竜監獄(ジーフリト)を襲おうとしても、全員を救い出せるだけの足が足りない。ならば、巨像としてでも帰ってこれる方に賭けなくてはならない」


「そうした捕虜たちを逃がさないように、翼をもいだり、心に傷を負わせたりするってことですか・・・それでセシリアは・・・」


「違う、メギドラが元人間だから怯えられてるわけじゃない。君の人間の臭いはもうほとんどしてないし、私も怯えた目を向けられた。誰だろうと怯えてるんだよ、何があったのかはわからないけど」


ヅィギィアは立ち上がり、メギドラの肩にそっと手を置いて言った。


「彼女のことはしばらくそっとしておくしかない。心の傷はそう簡単に癒えるものじゃないからね」




ーーーーーーーーーーーーーーーー





夜の静けさが広がる部屋の中、メギドラはベッドの上で横になっていた。カーテンの隙間から差し込む月明かりが、部屋をぼんやりと照らしている。

ヅィギィアとの修行で体は疲れているというのに、メギドラは一向に眠りにつけなかった。

「心の傷はそう簡単に癒えるものじゃない」ヅィギィアのその言葉がずっと頭の中を駆け回っていた。


「俺はどうなんだろうか」


数日前に両親が死に、村人たちが死に、生まれ育った故郷は滅んだ。

それなのに、メギドラはセシリアのように寝込む程のショックは受けていなかった。まるである特定の感情だけが不具合(エラー)を起こして悲しみを感じなくなったかのような。

そんな自分が怖かった。あの血を飲んで竜になったと同時に、まるで血も涙もない化け物になったみたいで。


「そういえば・・・みんなで巨像と戦うときも、一人孤独に巨像と戦うときも、あんまり恐怖は感じなかったな。やっぱり感情がおかしくなってるみたいな・・・」


どれだけ考えても答えは出ない。

心の中は、黒い靄がかかったかのように、すっきりとしないものが残っていた。


「・・・外行くか」


夜風に吹かれれば、少しは気分が晴れるだろう、そんな淡い期待を持って外に出た。

外は少し冷たい風が吹いていた。夜空は月と星が輝き、薄明かりが大地を照らしていた。

竜の視覚は暗闇でもはっきりと見えるため、人間の頃に感じた、自分が小さな宇宙の一部になったような感覚は全く感じなかった。

そんな状態で、心の靄が晴れるわけがない。むしろ更に深く、暗くなっていく。

これは無理だと諦めて部屋に戻ろうとした瞬間、視界の端に人影が映った。


「・・・あ」


そこには天使のような少女、セシリアが立っていた。

セシリアはメギドラを見つけると、再び怯えた目を向け、足早に去っていこうとする。


「ま、待ってくれ」


咄嗟に呼び止めてしまった。

ヅィギィアには、メギドラだけに対して怯えているわけではないと言われた。しばらくそっとしておくと言われた。

それでも何故か、嫌だった。彼女が苦しそうな表情を浮かべているのに、何もできないのが。


「・・・なぁ、セシリア・・・」


話しかけて呼び止めたのにも関わらず、次の言葉が出てこない。

あんな怯えた目をしている彼女だ、そんな子を励ます言葉を言葉が思いつかない。

思考を巡らせる中、どうしてセシリアのことをこんなに気にかけてしまうのか考えた。すると、答えはすぐに帰ってきた。


「・・・話してくれないか?君が何に怯えているのか、屠竜監獄で何があったのか」


セシリアは怯えた目でメギドラを見つめる。メギドラも、恐怖の宿った彼女の瞳を真っ直ぐに見つめる。両者の間には深い沈黙が流れ、やがてセシリアが小さな声で話し始めた。


「・・・どうして・・・私のことをそんなに気にかけるんですか?」


そう聞き返す声は今にも泣きだしてしまいそうな程に震える声であり、もう限界だと思える程絞り出したような声であった。

そんなセシリアに、メギドラは迷いなく答える。


「君が・・・俺と同じ目をしていたから」


セシリアは、メギドラと同じく、()()()()()()()()()()をしていた。

彼女の心の傷の原因がそれならば、それを解消してやりたい。


「ゆっくりでいい。話せる範囲まででいい。苦しかったら、辛かったら、無理して話す必要もない。俺は君の勇気を無碍に扱ったりしない。ただ君に、ずっとそんな目をしていてほしくないんだ」


そうして、再び沈黙が流れる。メギドラは、彼女が話始めるまで、真っ直ぐ見つめて待つ。

やがてセシリアは、深呼吸をし、口を開いた。


「・・・この話は、私の一番辛かった頃の話です───」


そうして、ぽつりぽつりと呟くように話し始めた。

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