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ドラゴンブラッド  作者: カシワデ
竜人領生活編
10/25

10話 “眠りの天使”

「はっ!?」


メギドラが目覚めると辺り一面真っ暗な空間に倒れこんでいた。

“無”が広がっている空間、メギドラの中。精神世界だ。


「また随分と早いこと来たなぁ」


暗闇の先から男の声が聞こえた。メギドラの精神世界に住み着いている存在、キナンカの声だ。


「俺の想定じゃあもっと後に来る想定だったんだが・・・まだ一週間ぐらいしか経ってないぞ」


「仕方ないだろ、ああすれば助けられると思ったんだから」


「だからって無茶し過ぎだ。もう少し自分を大切に扱え、それか自己回復能力を身に着けろ。人間の頃より頑丈になって死にづらくなったとは言え、死ぬときは死ぬんだからよ」


「・・・善処するよ」


最初はキナンカの説教が始まり、そこから竜人になってからの力についての話になった。


「“逆鱗”“竜の血(ドラゴンブラッド)”・・・ほとんど考える時間が無かったからって言っても少し安直すぎやしないかい?」


「いいんだよ、シンプルなのが一番いい」


「そうかい、まぁ俺は好きにすればいいと思うが・・・あと、起きたらもう少し色々と練習しろよ。強くなるためのアドバイスだ、よく聞いとけ。まず逆鱗の使い方、あれはまだまだ御粗末なもんだ。次に武器術、お前の場合は剣が一番合ってるとは思うが、それ以外も試して自分に合うものを見つけろ。あとは移動だ、飛行もそうだが、まずは脚を、下半身を鍛えろ。遅いんだよ、もっと速く移動しろ。それからそれから───」


「───ちょっと待て」


マシンガントークでどんどんと言ってくるキナンカを手で静止する。それでもキナンカは止めずに続けていく。


「そんなに言うことか?」


「当たり前だろ、お前が次にいつここに来れるか分からないんだし、言えること全部言っときたいんだよ。さっさと俺が見れてあいつの声が聞こえるくらいの実力を───」


「───あいつ?」


「おっと今のは空耳だ忘れろ。とにかく、お前には強くなってもらわないと困るんだ。ヅィギィアとか言う奴らはお前に友好的でも、全ての竜人がそうって訳じゃないんだ。そいつらに殺されないように強くなってもらわないと」


「友好的な人に会ったのは、俺の運が良かったってことか」


「そうだな、元より竜人と人間は決して仲のいいものじゃない、あんな巨像なんかを送って、戦争がずっと続いてるような関係なんだよ。元よりその理由は、人間が竜人を恐れる感情から来たものらしいが、はははっ!人間ってよく分からないなぁ。互いに関わらなければ、それが平和だってのに」


キナンカは何か悟ったようなことを言う。彼がどのような存在で何を見てきたのかは分からないし、理解が追いついていない。それでも、何故かその言葉の意味を聞くことはできなかった。

暫くすると、再びゴォーンと鐘の音が響き渡り、暗闇に光が差し込んでいく。

どうやら時間のようだ。


「あぁそうだ、最後に一つ伝言だ」


光が強くなっていく中、キナンカは続けた。


「”例えば道に迷ったとき、壁にぶつかったとき、どうしたらいいのか分からなくなったとき。そんなときに直面したら後ろを振り返ってみろ。過去の自分の経験が、研鑽が、軌跡が、その先へと進む道標となるはずだから“ってな」


キナンカがその言葉を言い終えてすぐ眩い光に包まれていった。




ーーーーーーーーーーーーーーーー




「・・・・・あぁ」


次にメギドラが目を開けると、おぼろげな部屋の天井が目に入った。

まだ視界がぼやけ、体が重く、ベッドに深く沈み込む。身体の至る所に包帯が巻かれ、ガーゼが貼られている。

斬った右腕はまだ痛みがあり、微かな血の臭いが漂ってくる。


「起きたか」


視線を落とすと、ヴィドルがフルーツ籠を持って立っていた。


「どうだ気分は?」


「悪くはない。俺はどのくらい寝てた?巨像の中にいたあの子は?無事か?今どこにいる?」


「一気にそんなに質問するな。一個一個順に答えてやる。まずお前は丸一日寝てたよ、今は翌日の夕方だ。そんでお前が助けたあの子はまず無事だ、けどまだ目を覚ましてない。今は別の場所でベスティアが診てるよ」


「そうか・・・無事なら良かった」


「今は自分の怪我を治すことに集中しろ、お前の方が重症なんだからよ」


優しさを帯びたその声掛けとともに、ヴィドルはフルーツ籠からレモンを取り出し投げつけてきて、部屋を後にする。

「何でレモンなんだよ」と思いながら、眩い黄色が目を移す。強烈な酸味を想像すると口の中が自然と酸っぱくなる。


「・・・食うか」


そのままレモンにかぶりつくと、酸味が口いっぱいに広がり、思わず顔をしかめた。今度は独特な苦味が舌に残り、後味としての主張が激しく残る。

そんな独特な味が癖になりそうで少し怖かった。


「う~ん」


「・・・レモンをそのまま食べたのかい?」


声のした方向を見ると、ヴィドルから目が覚めたことを聞いて駆け付けたであろうヅィギィアがそこに立っていた。

ヅィギィアは部屋の隅にあった椅子を寄せて、視線を合わせるようにベッドのすぐ横に座る。


「意外と癖になりますよ、ヅィギィアさんもどうです?」


「いや、遠慮しておくよ」


そう言ってメギドラの差し出したレモンを笑って断る。そうして雑談を繰り返している内、急にヅィギィアが黙り込んで雰囲気が変わり、言葉を待った。


「さてと、まぁ色々と聞きたいことは山積みなんだけどね、とりあえず聞かせてくれないかい?君の逆鱗の能力について」


ヅィギィアの言う能力とは、血を操る能力の他に、巨像の中から探し出したあの能力のことを言うのだろう。逆鱗を発現してまだ少ししか経っていないため、能力についてよく分からず話せることはそう多くない。


「・・・俺もよく分かってないんですよ、血を操る能力なんて結論づけてますが、今のところ流した血を固めて武器に変えたりするくらいしかできてません。でも、多分何か特異な性質だと思いますが、巨像に俺の血が触れると・・・聞こえるんですよ、声が」


「声?」


「はい、声です。助けてと呼ぶ声が聞こえるんです。呼ばれたら大体の位置が分かるので、そこから巨像を掘れば、丁度そこにいたっていう話です」


分からないことは、うまく言語化できないため、たじたじに話してしまう。それでもヅィギィアは怒ることなく、時折相槌を打って話を聞いてくれる。


「・・・メギドラの力は、もしかすると私たちの救世主となれる力かもしれない」


話を終えると、次にヅィギィアがそう話し続ける。


「私たち竜には、巨像に囚われた仲間の位置を把握する力が非常に少ない。ムートさんが治める北西部に、“位置把握(グラスプポジション)”という敵味方の位置を把握するという逆鱗を持つ者がいるが、精々そいつ一体だけで、私たちが位置を探すにはああいう周りから少しずつ削るやり方をしなくちゃならない。そうして時間が掛かれば、当然戦死する可能性も上がっていく。でも、君のその力があれば今よりも少し楽になる。仲間を確実に助けることができる」


「・・・この逆鱗が救世主になれる力ですか?俺は、今よりも強くならなきゃいけないんです。まだまだ弱いから、生きていけるように。俺が強くなれば、そっちにも都合がいいってことですよね」


「そうだね、どうしたいかは君が決めたらいいけど。君が望むなら、君が救世主になれるように、君が生きていけるように強くすることができる。私にはその力がある」


「・・・俺は、一人です。故郷は滅んで、帰る場所はない。ここに居れるなら、俺は強くなります」


その言葉を聞いて瞬間、ヅィギィアはニッっと笑い、落ち着いて目を閉じる。話を終えて立ち上がり背を向けて歩き出して言った。


「今は体を休めてリハビリ。傷が完治すれば修行開始だ。それと───リハビリついでに、君が助けたあの子に会いに行くといい。彼女は君が助けたんだから」


そう言って、ヅィギィアは部屋を出ていった。




ーーーーーーーーーーーーーーーー





「・・・見舞いに行くならって、なんか色々と渡されたけど・・・」


メギドラは、巨像の中に囚われていた子がいる部屋の前まで来ていた。道中アルマやラーノルド、ヤトなどに「見舞いに行くなら」と、本来メギドラの見舞いに渡す予定だった品と付け加えて大量に渡してきた。ふざけるな。

そうしてメギドラに手には、花束やフルーツ籠、菓子の詰め合わせなど、大量の見舞いの品が握られていた。


「これだけ持って見舞いに行ったら困るだろ」


そんな愚直をこぼしながら、扉をコンコンとノックする。中からの返事は無いが「入ります」と言ってドアノブに手をかける。

その瞬間、色々な考えが頭をよぎった。

彼女は被害者だとしても、生まれ故郷を滅ぼし、家族を惨殺したユニコーンの巨像の中にいた。惨殺した原因に彼女の意思が少しでも無かったのだろうか?

彼女を巨像と重ねて怨みの感情が生まれないだろうか?

ここにいると決めたけど、彼女はヅィギィアたちと同じように、元人間の竜人である自分を受け入れてくれるだろうか?

そんなどうしようもない不安な感情が心の中で渦巻いていく。

ふと、精神世界でキナンカに言われたことを思い出した。


「・・・キナンカ、こんな経験ないんだよ・・・振り返る程のな」


笑いがこみ上げてきて、肩の力が抜けていく。迷いや不安は残っているが、それでも進まなければあの三つは得られない。

勇気を出してドアノブを回し、部屋の中へと入る。

部屋の中では、ほのかな花の香りが漂い、温かい空気が肌に触れる。


「・・・・・天使・・・」


静かな病室の中、窓の外から吹く優しい風がカーテンをなびかせ、柔らかい光が差し込む先に彼女は眠っていた。

その寝顔はまるで天使のようであり、ついそう零してしまった。

もちろんそんなことは無く、翼は無いが、ちゃんとツノも鱗もある姿に、彼女が竜であることを確かめる。

メギドラはそうっと音を立てないように静かに移動し、見舞いの品をベッドの隣の棚に置いていく。

花瓶に花束の花を挿し、手ぶらになったところで椅子に腰かけた。


「・・・やっぱり天使か?」


彼女の美しい寝顔を見るとやはりそう思えてしまう。

さっきまであった心の不安は段々と薄まり、強張っていた身体が安らいでいく。

暫くの間、何も考えずに、静かにこの温かな空気に浸っていたかった。


「う・・・うぅん・・・」


幼げな少女の声がメギドラの耳に届き、意識は現実へと引き戻された。

目を移すと、彼女の瞼がゆっくりと動き始めていた。メギドラは息を吞み、静かに見守る。

やがて彼女の大きな瞳がゆっくりと開かれ、メギドラを見つめる。その瞳は美しいエメラルドグリーンをしていたが、その瞳に光は無く、虚ろな目をしていた。


「ここは・・・どこですか?」


彼女の声は透き通るような美しさがあったが、その声には微かな震えがあった。

メギドラには彼女に元人間であることがばれて怯えているのかもしれないという考えがよぎったが、勇気を出して声をかけた。


「・・・ここは竜人領の・・・竜帝国の南西部の外だ。気分はどうだい?起きれる?」


メギドラは少したじたじになりながら、ヅィギィアやラーノルドに教わったことを述べていき、彼女の体調を伺う。負担にならないように質問は少なめにして、彼女の言葉を待つ。

彼女は差し出された水を一口飲み込み、ゆっくりと答え始める。


「少し・・・体が重いですが、大丈夫です。あの・・・私は、どうなったんですか?」


「・・・君は・・・巨像の中に囚われていたんだ。それを俺たちが助けたんだよ・・・大丈夫、君が囚われていた巨像は誰一人竜を殺していないから、君が気負う必要はないよ」


彼女が要らぬ罪悪感を感じないように竜を殺していないと付け加える。そう、()()


「そうだ、俺の名前はメギドラだ。君の名前も教えてくれないかい?」


「・・・セシリア・・・私の名前は・・・セシリアです」


セシリア、その響きは美しく、優雅な印象を覚えた。天使とも思える彼女の容姿、声に相応しい美しい名前だと感じた。


「そうか、じゃあセシリア、色々とフルーツやら菓子やらあるけど何か食べるかい?」


「いえ、何か食べられるような気分じゃないので、大丈夫です」


「あぁ・・・そうかわかった。じゃあ、俺たちのリーダーを呼んでくるから、詳しい話はその方へ聞いてくれ」


メギドラはそう言って怯えた目をするセシリアを横目に部屋を後にする。





ーーーーーーーーーーーーーーーー





「・・・どうだった?彼女の様子は」


部屋を出ると、そこにはヴィドルとアルマが待っていた。


「彼女じゃない、セシリアだ」


「名前を聞いたところを見ると、彼女は起きたみたいだねぇ。それでヅィギィアさんを呼びに出てきたってところかな?ヴィドル、呼んできて~」


「・・・はい」


「それでメギドラの様子を見るに、彼女、セシリアちゃんの様子は芳しくないみたいだねぇ」


「ええ、その上怯えた様子でした。俺にまだ人間の臭いが残っていたのか・・・少なくとも心に傷があるのは確かにだと思います」


「そりゃあ難儀な話だねぇ。ともかく、メギドラはまだ傷が治っていないんだし、後のことはボクやヅィギィアさんに任せて、ご飯食べて寝ときなよ」


「はい・・・そうします」


アルマとそうした会話を交わし、メギドラは自分の部屋へと戻っていく。

その帰路は、まるで流水を逆流して進むかのように重たかった。

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