74. これが私の生きる道
魔王城の一室。
人間の元勇者ベッチーが住処としているお部屋。
ベットサイドに佇む少女はもうすぐ9歳になろうかというお年頃。
少女であって幼女ではない。
「え?なんで??」
少し日に焼けた金髪の美少女が愕然と頭を抱える。
なんてこったい!ガッテームっ!
武術指導をしている兵士たちの口癖が移ったのか、心の中はときどきオヤジくさい。
自分では気づいていない。これもまた大人の階段だ。
どうしてココに座っているのかしらアタシは。
だいまおーさまの胸に飛び込んだハズなのに?
なにかいた?泣いた?
その後どうなった?
何故だか途中から記憶がない。
誰かに自分スイッチをオフされて勝手に操縦されたみたいに自分が自分でなくなってしまったようだ。
でも呪術で操られたような悪いオーラは感じない。
勇者であった自分がそんなものに操られるものか。
じゃあどういうこと?
コンコンッ
ノックの音が。
ガチャリと空いた扉から現れたのは面倒を見ているシルバニナ家ご令嬢サーシャリー、そして見覚えのある小さな女の子。
お子ちゃまはサーシャリーに抱かれてベッタリとなついており、なにかを耳元でささやかれてくすぐったそうにキャッキャ笑っている。
フンッなにさ!
まだまだ負けてないからねっ!
心の中で反発しながらも目線はキョロキョロと挙動不審。
人類の希望の星、正義の味方である勇者。
その今代勇者であり8歳の美少女であるベッチー。
純真無垢な神様の代理人。天使の微笑みがみんなを幸せにしてくれる。魔人も悪魔も『神に代わってお仕置きよ!』
・・・そんな存在。
もちろん人間界の貴族たちがプロデュースした人類の希望がかわいらしくて身近なアイドル。
そんな彼女をおぼやかすショッキングな存在がココにいるのだ。
自分より幼く可愛らしく誰からも愛される存在。
しかも自分のナンチャッテとは違うホンモノの純粋で清らかな存在が!
うろたえるしかない。
ベッチーは「可愛がられてチヤホヤされる」前提で今の人間関係を構築しており、その前提が崩れると自分がどうすればよいかわからないのだ。
「あらあら。自分が何をすればよいのかわからないのですね?」
上から目線でニヤつくのは魔王国の旧貴族ご令嬢であったサーシャリーだ。
彼女だって幼い頃は蝶よ花よと育てられた高貴なご身分。
そんなものは幻影だとすぐに気づくことになったのは旧魔王国の滅亡か父の死か、はたまた母のしつけか。チヤホヤもシビアでリアルも経験済み。
人間の勇者への恨みは別として。
くだらない打算とポーズで生き抜こうとするベッチーにイラっとくるのだ。
指南役としての能力は買っている、真の実力者であることもわかっている。自分より遥か高みにある実力者だと認めているからこそ余計に腹が立つのだ。
「だから、なによっ!」
もう部下に対する威厳もなにもあったものではない。
サーシャリーは立場が下のくせに両手のひらを天にむけて「お子ちゃまのカンシャクはお手上げね」ヤレヤレこまったものですわポーズ。
「迷えるあなたにワタシが道を指し示してさしあげますわっ!さあやっておしまい!!」
サーシャリーがプチュリとホッペにキスをすると、お子ちゃまはまかせられたとばかりに目を見開いてベッチーを睨もうとする。
可愛らしい小動物が一生懸命に怒った顔をするポーズみたいでコレがまた愛らしい。
「めっ!まーめやんなきゃめぇなのっ!」
誰か?に言わされた感マンマンだが本人はフンスと鼻をならしてご満悦。
そこへ追い打ちをかけようと。
ヒソヒソヒソ・・・・ねっ?
頑張って言いきったお子ちゃまの耳元に、真面目っこサーシャリーがさらに耳打ちする。
「きびちいくんれん、するのよっ!」
どやあ。
そのまんまサーシャリーの顔に抱き着いてホッペにプチュプチュ。
ベトベトホッペでも子供の扱いに慣れているサーシャリーはどこ吹く風。
それよりも『さあどうなるのかしら?』ベッチーを眺めて興味津々だ。
「・・・・はい」
ベッチーの目の色が薄くなり顔から表情が消えた。
カチャリカチャリと訓練用の鎧を身につけると、スタスタと歩いて部屋を出て行ってしまう。
後々まで『ベッチー教官ご乱心』と噂された地獄の教練がこれから始まることになるのだ。
最近はタイプの違う作品と混線しないように気を付けて創ってます。どんな気持ちで創っていたのかがわからなくなってしまうようで、コレでいいの?とか。おかげで筆が遅い遅い。
他の創作者みなさんスゴイですわ、とサーシャリーも感じてしまってます。




