<幕外9> 魔人パーティ 戦闘開始
「おっ・・オレも残ります。俺のせいであんたたちだけを危ない目にあわせらんねえ」
「ぼくも残る!」
村落からみなが避難を続ける中、先ほど助けた親子がグラディウスのもとにやってきた。
父親は手にクワを持ち小さな子供も子供用のスコップを持って戦う気でいる。
近くでどうしようかウロウロしているご婦人は知り合いなのか親戚なのか。おそらくこの父親から子供をつれて逃げてほしいとお願いされているのだろう。
父親は子供をそちらに押しやろうとするが、服の端を握りこんで意地でも離れようとしない。その子供の目にも強い意志が宿っている。
「心配する必要はなしだ。我らが揃えば悪魔ごときに遅れはとらぬ」
さきほど顔を出した剣豪が子供の頭をなでて安心させるように語り、気持ちだけいただこうとうなずくのだ。
厳しい顔しかしないビャッコの顔がほころぶのはこういう瞬間であり、軟弱者は徹底的に鍛えるがそれは心の弱さに対してである。
それを見ていたグラディウスがふと思いついたように仲間達になげかけた。
「ふむ。ジルベスト、そしてジュディアーナ。どう思う?」
グラディウスがあえて二人に声をかけるのだから何らの意図があるのだろう。
声をかけられた二人の間では目線がバチリと衝突したが、すぐに声を上げたのはジルベストだった。
「われらの雄姿を見てもらうのも悪くありませんな」
チッ、とジュディアーナの舌打ちが入る。同じことを言おうとして先を取られたからだろう。それでもジュディアーナは向き直る。
ブスリとしながらも、いいんじゃない、と同意をはさんでから。
「早くしないとね。そうしないとみんなの希望が消えちゃうから」
哀しくて強い瞳を大魔王に返してキッパリ断言するのだ。
悪魔にも誰にも私たちは絶対に負けない。
でも生き残っている魔人たちが絶望してしまったなら。
始まるのは悪魔が行う魔人大虐殺だ。
性の悪い悪魔たちは絶望して完膚なまでに闇に染まった魂が大好物なのだ。今この瞬間も着々と魔人の希望を刈り取って滅亡へと導いている。
希望を失って黒く染まった魂はその瞬間に悪魔の手中に握られる。身も心も魂も悪魔に隷属してしまうのだ。
やつらは罠を張って待っている。
魔人たち全ての心が闇にそまってしまうその瞬間を。
すべての魔人たちから希望の灯が消え去り、悪魔たちの奴隷となるときを。
「こういう作業みたいな魔法って好きじゃないんだけどね。でも悪魔たちの計画をぶっ壊して魔王国を再建するためだから。つまりこれは実験の裏付け作業みたいなものだから仕方ない」
森の中の集落が見渡せる景色のよい場所。
3人は切り立った崖の上に立っているのだからキッパリと目立つ。
ジュディアーナが周囲の地面にブスブスと魔法具を突き刺していく。
「守るだけじゃつまんないし。ちょっとは新しい実験も入れておかないとボクの心が闇に落ちちゃうから」
誰に言い訳するでもなく、ヒヒヒと怪しい笑い声をあげながら作業は続いていく。
親子二人とジュディアーナの特等席作りだ。
これだけ目立つ場所にしたのはこの親子に悪魔の大軍が壊滅するのをしっかりと焼き付けてもらうためだ。ホントは悪魔をさらした見晴台でもよかったけど。
あえて距離をとり目立つ場所にしたのは彼女の実験魂がうずいたからだ。
二人を守るという役目の押し付け合いでジルベストに負けたジュディアーナ、ただでは起き上がらないのだ。
余談であるがたかだか数百数千レベルの敵や遮蔽物の多い場所では様々な魔法を自在にあやつるジルベストが活躍する。ジュディアーナの出番はもっと大型の仕掛けをするときで「数万の悪魔をこの森ごと消滅させる」場合などである。
今回は深い森、展開する悪魔、規模もせいぜい中規模の一千程度が見込まれるため、ジルベストが魔法戦力となるのはグラディウスの指示だ。
守るものを傍で面倒見た方が「マッド・ジュディにオイタをさせない」ですむ計算もこっそりと。
「でもわしら、こんなところでノンビリあんたたちが戦うのを眺めているつもりじゃ・・・」
父親が必死にジュディアーナへと嘆願するが彼女はあっさり振り切った。
「見てればわかるさ。それより良くみていてよ」
「え、ええ。でも。それじゃあ」
まあまあ、とてのひらを上下にふるとジュディアーナはニンマリと笑った。
「それよりボクたち魔人の強さをよく見ていてよ!あんな悪魔が何万体集まったってボクたちをどうすることもできないことを!!」
崖の上で仁王立ちのジュディアーナ。やっとお出ましだねとつぶやくと、遠い空から黒い影がやってくる。数えきれない影が近づいてくるつれ暗闇が広がっていく。
「ざっとみても1万は超えるね。これだったらボクがあっちに残ったのに」
想定外の数の多さなのだろう。
本来ならおびえるか必死に対策を考えるかだろうに彼女は地団太踏んでくやしがっている。
父親は頭のおかしいものでも見るようにふくれっつらの女性を眺めるしかできなかった。
こんなもの敵うわけがない。
一匹の悪魔に魔人が数人がかりで敵わないというのに。ひとりに千も万も攻撃してくるのだ。
何が起こっているのかもわからないうちにちぎられ、げずられ、喰われ、散り散りに飲み込まれて、瞬きのうちに細切れで存在が消失してしまう未来がすぐそこにある。
悪魔の本気に魔人が敵うわけがない。
その存在からすれば。神々と戦う力を持つ闇の存在からすれば、魔人など所詮虫けらと同じなのだ。
最後に口をついてくる言葉、思い鎖のようにこの世の魔人たちをしばる言葉が自然と口から洩れる。
「やっぱり・・・」
その目からすっかり生きる力が抜け落ちる親子。
しかし二人を眺めるジュディアーナの口は下半月に笑い、目は細くしぼめられた。
「そうかい?おっと始まった。二人とも一瞬も見逃しちゃダメだからね?それがキミたちの役割なんだから!」
ドッコオオォォーーーーーーンッ!!!!
村へと飛来する悪魔に向けて、太い光の束がまっすぐに悪魔の集団の真ん中を貫いて天へと抜けていった。
光の通り道の先にいたはずの悪魔達はチリすら残らず消え去り、暗い闇に空いた穴からきれいな青空が見える。
固まった悪魔の本陣部隊が一瞬にしてこの世から消滅した瞬間だった。
「え?」
何が起こったかわからず悪魔たちの動きが止まる。そこへさらにその横、その横へ
ドッコオオォォーーーーーーンッ!!!!
ドッコオオォォーーーーーーンッ!!!!
数百メートルはあろう光の束が何度も打ち込まれて、その度に輝く通り道の悪魔が消えていく。
そして先にある闇が払われ青空が広がっていくのだ。
「ええ!?」
「本当にドンくさいなジルベストは!ちまちま核激魔法なんて打ち込みやがって。あんなのボクなら一瞬で消滅させられたのに!あとで大魔王に文句いっとかなきゃだね!!」
悪魔たちはやっと状況を理解したのか。
あわてて上下左右へと散開をはじめる。
闇の範囲はさらに広がったが密度がさがったために空が見え始める。
全くの闇が迫っていたはずだが、うっすらと明るみが見え始めているのだ。
それだけでも何かが変わり始める予感がする。
ドッカアンッ!!!
ドッカアンッ!!!
密度が薄くなり光線では効率が悪いと考えたのだろう。
悪魔の集団が少しでも集まるとすぐに中心で大きな爆発がおこり、周囲の悪魔を巻き込んで破裂していく。ジルベストの爆裂魔法がさく裂するたび、吹きとばされた悪魔の破片がバラバラと落ちていくのが見える。
「あ、あれがあなたたちの仲間・・・?」
父親が指さしながら振り返ると、ジュディアーナは悔しそうに地団太踏んでいるところだった。
「くさい、どんくさい!あんなA級程度の爆裂魔法でチマチマとっ!いつまでやってんだい!ほら見なよもうあんなに!!」
空では狙い撃ちされて形勢が悪いと悟ったのだろう、悪魔たちはいっせいに降下し森の木々の間へと消えていく。
これでは森に潜んだ悪魔がいつ襲い掛かってくるかわからない。
敵は少ない相手に対して数で取り囲む作戦に出たようだ。
悪魔たちはただの虫けらを踏みつぶす作業ではなく、互角に戦う相手へとマインドを切り替えたのだ。
ザザザザザッッッ!!!!!
村から一陣の旋風が森へと突き抜けた。
森の木々を揺らして突き進む突風は、途中で渦を巻き、かと思えば違う方向へとまた突き進むとさらに渦を巻いた。
そして大きな渦がどんどんと小さくなったところで
パッカアアァァァーーーーン!!!!
本物の嵐のような渦が空中に吹きあげ、そこには少なくとも数百の悪魔がこま切れとなって舞っているのだった。
「あ、あ、あれは・・・?」
「剣豪ビャッコ。ろくに魔力も使っていないのに『颯のように現れて嵐のように切り刻む』だから。あのどんくさい魔法使いよりよっぽど頼りになるよね、そう思わないかい!?」
私は間違っていないよねと自信満々のジュディアーナに聞かれると二人は頷くしかなかった。
もう何がなんだかである。こんなに離れていても、すごすぎて、早すぎて。
自分の目で見て彼女の説明を聞いてすら何が起こっているか理解できない。




