71. 大魔王様と天使の子
コツコツコツ。
魔王宮の廊下を歩く二人。
会話なし。
軍服に身を包んだ小さな影はやがて大きな扉の前に並ぶ。
時間より少し早いけど扉をノック。
「大魔王様、指南役ベッシリーニおよび第三部隊員サーシャリーまいりましたっ!」
いらえを受けて大魔王様の執務室へと入るベッシリーニこと勇者ベッチー7歳。
上官ベッチーは前回からすっかり一人前の空気感。
責任は人を大きく成長させるのだ。
「うむ。ちょっと待っブフォつがムムよォい」
何かに口をふさがれたようなお返事の大魔王様。
見るとまさにその通り。
大魔王様の両肩に後ろから足を踏ん張って立ち上がり、頭の後ろから大魔王様のお顔をグルンとのぞき込む小さなお子ちゃま。
ブッチュッ♡
ベタベタベタ
ブチュッ♡
ベタベタタタ
チュチュッチュ♡
大魔王様のお顔にチュウしてホッペにベタベタまたチュッチュしてペタペタ。
小さくてかんわいい妖精のような子供が大魔王様の頭を後ろから抱きかかえるようにジャレついて、上下さかさまになった顔を近づけペタペタしてるのだった。
大魔王様のお顔がヨダレだらけなのはいうまでもない。
そのまま勢い余って頭からデングリ返し、すっぽりと大魔王様のお膝におさまってニッコニコ。
「だ、大魔王様、その子は・・・っ?」
アワアワアワ。
ベッチーの指先がプルプルと震えて子供を指す。
「うむ、しばしの間預かっておってだな、おっとっと」
両手を上げてキャッキャと動く子供がお膝から落ちないように、おなかに手をまわす大魔王様。
「そ、そ、そんな、そんなこと大魔王さまに、ありえないっ、ダメじゃないですか!」
プルプル震えるベッチー、大人の責任感に目覚めたベッチーはまるで普段の秘書アンジェリカのように注意する。
ちなみにアンジェリカは不在である。
「よいよい。子供のやることだ」
口角が3ミリもあがっている大魔王様。ポーカー・フェイスに見えてデレデレだ。本人が気付いてないだけでいつも大魔王様を見ている部下達にはバレバレだ。
キラーンッ
子供の勇者ベッチーの目が光る。
子供なら許される?ならワタシもイイノデスネ?
「え?それって何歳までですか?」
当たり前のように質問するベッチー7歳まだ子供。
「うむ?無邪気な子供というなら5歳くらいまでではないか?」
何を聞かれておるのかわからぬわ、と苦笑まじりの大魔王様。
キリリと大人の顔で部下を引き連れていたベッチー、あっという間に顔から力が抜けて満面のあどけない笑顔。
そうまるで幼い子供のような笑顔がバチリと貼りついた!
「だいまおうちゃま、じちゅはね、じちゅはね?」
うむ?
これは小芝居であるか演劇であるか?
一人前になったはずの魔王軍指南役ベッチーがまるで幼い子供のようである。
「あたちほんちょは4しゃいなのーーーーー!!!」
だいまおうさまーーーっ 叫びながら抱き着きにいくベッチーもうすぐ8歳!
スパアァンッ!!!
蛇腹状に折りたたまれた厚紙のようなもので後ろから頭をはたかれたベッチー。
「えっ?」真顔で振り返る。
「我が家に代々伝わる魔道具"ハリィセンッ"ですわ!!」
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【魔道具 ハリーセンッまたは針千ッ】
旧魔王国貴族シルバニナ伯爵家に代々伝わる魔道具。
蛇腹状に折られた厚手の魔力紙を魔力ヒモでまとめあげた祭具であり解呪具である。
対象の頭にふるうことで「スッパアンッ!」といい音がし、対象者の呪いを吹き飛ばす作用がある。
なお人族の東の国にある<ハリセン>とは別物であるので間違えないでほしい。魔王国ではお笑いではなく治療である。
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「えっ?」
思わずもう一度繰り返す勇者ベッチー。
「大人のあなたが何を血迷ってますの?」
冷静沈着・落ち着きはらった淑女の鏡。旧貴族の娘サーシャリーである。
「えっ?わたち4ちゃいこども?」
ほっぺに指をたて「なにいってるんでちゅかこのちと?」不思議な顔。
「自分では気づけないのですね?もうあなたにはプニプニのホッペもツルツルのお肌も戻らないことにっ!」
「えっ?えっ?えっ?」
「あなたはもう大人なのですよ!プルンプルンの赤ちゃんお肌にはもう戻れませんことよっ!そうでなければワタシの上官として認められませんわっ!」
「えっ?えっ?えっ?」
ベッチー真顔のキョトン顔。
それはそうだ。
まだ7歳やっともうすぐ8歳のベッチー。
自分としては「子供の体に大人の頭脳っ!」だと思っていたのに堂々と大人を言い渡された?
「ワタチ。ワタチまだコドモだもん!!!」
ぷいっと口をとがらせソッポを向くベッチーなのであった。




