66. 会議は踊る1
「悩む必要なんかないんじゃない?ガストンくんはうちに来るのが既定路線でしょ?」
魔王宮の会議室。
円卓の中央に大魔王様。
そのまわりには宰相ジルベスト、魔導長官ジュディアーナ、魔王軍団長ベノン。さらに秘書アンジェリカ、念話会議で参加している竜王。オブザーバーとして剣聖ビャッコ老師、魔王軍補佐官ゼブブ、そして人族勇者あらため魔王軍指南役のベッチーもいる。「魔王国でガストンより強い存在は全員集合っ!」というメンバー構成なのだった。
ガストンの新しいポストを決める重要な会議。
彼も本当の意味でワールドクラス強者の仲間入り。今後の魔王国の行く末にも影響する。
じっくり成長を見守りたいのはみんな一緒だ。でも魔王国でも多分にもれず人材不足。
ガストンは「酸いも甘いも噛分ける」交渉のできるタイプでもあり、それでいて部下の面倒見もよく慕われる。
器用であり人望もあり頭もまわる。
ぶっちゃけこの会議はガストンの取り合い会議なのだった。
真っ先に口火を切ったのはジュディアーナ。
当然だ、今回の件でガストンは研究所にくるものだと勝手に算用していたのだし。
それに真向から反発するのはジルベスト。猫とネズミの間柄。
「何を言う。強者の仲間入りをしながら頭もまわる、交渉もできる。ワシのところへ来るしかあるまいて。大魔王様ひとつこのジジイの直訴をきいてくれまいか」
大魔王様を見上げるジルベストの目が潤んでいるように見える。ジュディアーナ内心で「チッ」舌打ちするのだがもちろん顔には出さないのだ。
「思う通りに語るがよい、ワレが信頼する宰相ジルベストよ」
ジュディアーナからすれば大魔王の前でこのジジイとの舌戦に勝利することで片を付けるつもりだったのに。まさか大魔王へ直訴に向かうとは。
「いずれの部署も人が足りておらぬことは違いない。じゃが魔王軍にはベノンがおるしその隣にはゼブブ殿がおる。指南役として勇者ベッチーも滞留してくれておる」
「うむ。確かに魔王軍はガストンを抜いても以前より戦力は増したとみるべきだろうな?」
「おっしゃる通り。しかし考えてみてくだされ、軍部にそれだけの人材がおるのに政治を司る人材がおらん。魔王国は特殊な立ち位置の国じゃ、交渉も統治も相応の実力者がやらねばナメられる。ガストンは次世代の宰相になれる稀有な人材、将来の魔王国のことを思えば今からワシの元で学ぶべきですわい!」
ジルベスト立ち上がって拳を振り上げる大演説会。魔王軍からは特に反発の声はなし。
老獪なジルベスト舌戦では他を上回る。
彼が語ったのは今ではなく「将来の魔王国」。
そこには一切の私欲が入ることがない。あふれるのは未来の魔王国への憂慮と忠誠。
深々とうなづく大魔王様、見事な演説でジュディアーナを否定してみせたジルベストへ感嘆の声をあげる魔王軍団の面々。
精神支配のプロである元悪魔軍総司令官ゼブブは面白そうに聞いて微笑んでいるだけ。
ゼブブからすればガストンへ手を貸すのもやぶさかではない腹積もり。ベノンからのプロポーズに一役も二役も買って出た男だ。だけれども。
これならどちらへ転んでも悪いようにはならないでしょう。大魔王様もいらっしゃいますし。出番は無さそうですわね?
誰からも見向きもされないようであれば私が鍛え上げて軍団長にはなっていただくつもりでしたけども。
そうなればベノン様は軍務卿というところでしょうか?そろそろ政治と軍略の世界へと導いてさしあげませんと?
何とかプロポーズを終えたベノン、もちろんゼブブの答えは瞬殺でYESだったのだが今回はその話ではない。
ギリリと歯噛みをして流れをひっくり返すタイミングを狙うジュディアーナ。しかし声を上げたのは彼女ではなくリモート参加の竜王であった。
「ジルベスト宰相の言い分もわかる。だがそれを言うなら領土の北方を守護するワシのところも忘れられては困る。ヤツはなかなかに見どころがある。そしてワシはヤツになら竜王国をまかせられると思うておるのじゃよ」
竜王は大魔王へと視線を向けた。
大魔王も口角を2ミリほどあげて興味深げ。
「そうすればヤツは世界開闢以来初めて!竜種を従える魔人になりうるのだぞ!おぬしらも見てみたくないか!?」
うっ・・・
元来竜種と魔人とは相反する種族。
今は竜王が大魔王に惚れ込んで共闘しているという関係だ。
竜王はそこに新しい世界の景色を見せるという。
大魔王様の大好きな未来予想図Ⅱを!
魔人と竜種がガッチリ肩を組みあう未来。
竜王ではなく大魔王様でもなく、田舎の魔人であったガストンが。竜種を、竜王国を率いるというのだから!
なんて血肉が踊る未来となるか。
皆の心がかなり傾いた「そりゃ見てみたいっ!」
ここ最近の魔王国は新しい景色だらけ。
人間の勇者ベッチーが魔王軍の指南役をする姿。
悪魔軍総司令官ベールス・ゼブブが魔王軍団長ベノンの婚約者となる姿。
次々と塗り替えられていく世界の常識。
その一端をただの田舎のあんちゃんであったガストンが担うというのだ。
「竜王待ってよ!いくらなんでもそれじゃ竜たち納得しないじゃん、竜の国だから竜王国なんだから!」
あわててジュディアーナが口をはさむ。
すでに大プレゼン大会となっているこの会議、ジルベストの提案は「おっしゃる通り」みながウンウンとうなづく内容。だが竜王の提案を聞いたみんなお目目がキラキラ高鳴る鼓動がダンシングっ!
なにせ口をはさんだジュディアーナ本人が「え?そうなったら竜王国を定点観察しなきゃ」思った瞬間にこれはマズいと気づいて反発したのだった。
竜王は横を向き、画面のわくに収まっていない方向へおいでおいでと手をふった。
オズオズと現れたのは、シルバーの長い髪も美しい優し気な女性。
ところどころに水晶のように輝くうろこが残り腰から太い尾が出ている。竜種が変化したものであるのは一目でわかる、そしてポッとほほを赤らめるのはガストンを憎からず思っている証。
「大魔王が首を縦にふりガストンも受け入れるならば、ワシの娘をめとらせようと思うておる。努力家な娘じゃそのうち完全な人化もできるようになろうて。竜王の一人娘をガストンがめとり次代の竜王となるというのはいかがかな!?」
フフフンッ♪と鼻歌でも歌いそうな竜王。
その場にいる全員が竜王の準備のよさに舌をまく。
つまりはそれだけ竜王がガストンを気にいっているということだ。
だいたいにしてここにいるのはワールドクラスの存在のみ。
恐れられうかつに話しかけられることもない上位存在達であり、ぶっちゃけ割と孤独である。
それなのにガストンとくれば、ベノンをイジり、マッド・ジュディにぶちぶちと文句をつける。竜王に突っ込みを入れる。ジルベストやアンジェリカの間違いも平気な顔で指摘するし、勇者ベッチーのことはツンツンした妹として楽し気にかまっている。
そう、余談であるが勇者ベッチーはガストンに対してはツンである。
ブリっこキャラは彼女の人生の集大成として演じているのであり、気の置ける相手に対してはわがままキャラなのだ。
根っこは甘えっこ。本来はめんこいタイプなのだが自分ではまだ気づいていないのでそれは別のお話へ。
「なんなら軍団長ベノンと補佐官ゼブブの結婚式をわがセイサン山脈の竜王宮で行うというのはいかがかな?その際わが娘とガストン殿との結婚式も合同で執り行えば手間も省けるじゃろう。軍団長と補佐官のお二人が出会った思い出の場所で婚礼!竜の神もを祝福されるものだと思うのじゃが!?」
それを聞いた瞬間、ダンッとテーブルを叩いて大男が立ち上がった!
「乗ったその話っ!!」
もちろん男の名はベノン。
プロポーズが終わりホッとしたのもつかの間、一夜明けて「これからどうすりゃいいんだ」面倒は脳筋が受け付けないところで渡りの船。
思いっきりジャンプして飛び乗ろうとしたのだった。




