65. 長い友との始まりに
改稿は本文の表現修正とあとがきの間違い直しです。
団長に俺の成長を見てもらいたい。
ここまでこれたのはあんたのおかげだから。
ここ最近のガストンは、ジュディアーナの研究につきあって夜毎に「ほぼ死」の連続。
勇者ベッチーが爆笑したあの椅子のおかげで毎日のルーチンが「死」。
え?これって仕事じゃないよね?拷問?さっぱりわからない。
最近ではジュディアーナに対して「いやこの人ほんとーに頭は大丈夫ですか魔人の限界とかわかってますか俺のこと実験動物としか考えてないですよねっ!?」
本人の前でもあからさまにふてぶてしい態度をとる。
迫力あるガストンのクレームにジュデイアーナはニッコリ笑顔。なにせ旧大魔王パーティの一員だそんなもので怯むような肝っ玉ではない。むしろ本音をガンガン垂れ流すガストンにお喜び。
「大分キミもわかってきたじゃないっ!研究って楽しいよねっ!?」頷きながら指先ひとつで次の指示を出す。
昨夜は生き返った瞬間にブリザード・ドラゴンが巻き起こした氷雪の嵐へと放り込まれた。夜通し激闘から徹夜明けのまま入団試験の試験官をお手伝い。回復の早い魔力もせいぜいが五分目ほど。
もちろんガストンはそんなことを口に出したりしない。
「剣技も試しやしょう。魔法も使わせてもらいますよ?」
「望むところだ。受けてやるから何でもやってみろっ!」
なんでも受けて立つ宣言。
自分が成長させてきた部下が力をみてくれと言っているのだ。
ベノンが拒絶することはない。
パバババンッパンッパバンッ
高速で剣を打ちかわす軽い音が連続する。
詰めと離れ、力で押さず剣技で挑む。
一撃より手数だ。パワーよりテクニックとスピード。
さすが団長はすげえっ。
ガストンは本来スピードと技術重視の戦闘スタイルだ。
細身の剣を高速で繰り出し、相手の剣は躱していなしす。出来た隙へと飛び込んで一閃する。
対するベノンは大剣使い。
受けようとした相手の剣ごと真っ二つにする豪の剣。
大剣使いは一撃必殺が常であり、剣を繰り出すにはタメがあり、速度より力強さが優先される。パワーに劣る技巧派ガストンはその隙をつくのが常套手段。
だがベノンにそんな常識は通用しない。
ガストンが繰り出す多彩な高速剣の全てを大剣ではじき、剣を絡めようとすると逆にクルリとヒネリを入れてガストンの剣が空転する。
剣の腹でいなそうとした瞬間に、その側面めがけて剣をたたき割ろうと打ち下ろされる剛剣。引いた瞬間には次の斬撃がガストンを襲う。
ガストンの剣より重く太いくせに。ガストンの剣より早く繊細に繰り出される。
大剣を振り回ているのに技巧派を上回るスピードとテクニックを見せつける。
圧倒的なパワーと洗練された技術が共存している。
「ずいぶんと腕をあげたなガストンッ!お前が使うならこういう技もあるぞっ!」
ガストンを上回る高速剣に多彩なフェイントが入る。しかも残像の見えるいくつかの剣には炎が纏わせてあり、ガストンの周囲では炎が渦を巻いて窯のフタをあける。
ガストンにはこの漢の上限がまったく見えない。
自分の全力を涼し気に上回り、闘いの最中にガストンは指南されているのだ。まるで勇者ベッチーが一兵卒にするかのように!
「ああもう!何をやってるんだいガストンくんはっ!!」
観客席で歯ぎしりする魔導長官ジュディアーナ。
研究では狂気の研究者。今日はすました顔でガストンの応援は先ほどまで。
押されまくるガストンの応援に熱がこもる。なにせガストンのパワー・アップもジュディアーナの研究テーマなのだから。
「あら、いいじゃありませんか?このままガストンさんが負けちゃえば、大手をふって正規の研究モルモッ・・・正研究員としてウチに引き込めるでしょう?」
「それはそうなんだけど、負けてくれなきゃ困るんだけどっ!でもくやしいじゃないかボクらが育てたモルモッ・・ガストンがベノンなんかに一太刀も浴びせられないなんてっ!」
必死にベノンと剣を交わすガストンの額に怒りマークが浮かぶ。
おいおい聞こえてるぞお前らっ!!
俺は育てられていない、そして実験動物じゃないっ!!
「さあこれくらいは躱してみせるのが強者の務めだぞガストン!」
ベノンの忠告と同時に。
ガストンの周囲で這い出ていた炎が渦まき龍の形となって絡みつく。幾重にも幾重にもガストンを取り囲み、やがて灼熱の繭となりガストンを覆いつくしてしまったのだ。内は数千度にもなる超高温であろう、そして炎の結界が標的の脱出を拒みのだから。こうなればカスも残らず燃え尽きるのが定め。
さあどう返すかと身構えるベノンに向けて。
ボシュッ
炎を突き抜けてガストンの剣先が迫るっ!
不意を突かれたベノンが剣をはじくが、突きの追撃がやむことはないっ!
やがてその剣は、さきほどベノンが炎を纏わせたように、しかし灼熱の炎ではなく暗黒の闇をまとってベノンにおそいかかるのだ!
「せっかく教えてもらった魔法剣技だ、俺流に使わせてもらいますよ!」
ベノンは暗黒の闇を一瞥しただけで紙一重に避ける。
しかしそのベノンが覗いた暗闇から一筋のレーザー・光線がベノンへと襲いかかった!
「むおっ!?」
ブロックした腕を光線が貫通し、突き抜けた光があらぬ方へと飛び去っていった。
ベノンの腕にはコインほどの穴があき血がボタボタと流れる。
完全に予想を上回ったガストンの攻撃。
観客席の兵士たちから驚嘆の声がもれる。
魔王軍団長ベノンが攻撃されて流血するなど見たことがないのだから。
そして驚きはすぐに大きな歓声へと変わる。
もちろんガストンを賞賛する大歓声があがったのだった!
「うちの今の上司がね、単純な魔法を使おうとすると怒るんですよ。創意と工夫、意外性と笑いを追求しないとひどい目にあうんですよアイツらアホだからっ!」
ベノンは舌を巻いた。
確かに創意と工夫と意外性だ。笑いはわからないが。
闇属性のブラック・ホールから一筋の光線が飛び出してくるのだから想像を超えている。
あれは輝竜、光の竜であり単純な光線などではない。
ベノンが魔力を溜めた腕で変質させなければ、この空中で何度もベノンに襲い掛かってきただろう。
闇魔法と光魔法の2属性魔法を同時に絶妙に組み合わせる技術の高さ、操作の精密さ、そして格段に上がった魔力量。
全てを吸い込んで闇に封印するブラック・ホールから光の竜が襲ってくるなど正気ではない。
ブラック・ホールを発生させるだけで大量の魔力を使用するのに、その絶対的な引力を振り切って光の竜が突き進むのだ。莫大な魔力量と魔法技術そして才能と鍛錬が無ければできない技だ。
「それなら俺もお前の"意表"を突くとしようか!」
大剣を背中にしまったベノン、腰に差した小刀を握る。
せいぜい50センチもない刀だが、魅惑的な刃紋から名工の逸品であることがわかる。
そして握るグローブから、ブーツから、マントから。
ベノンの全身からプシュンプシュンと蒸気が立ち上がる。
腰を低く構えたベノンの表情が消え、目だけが怪しく光ると。
「一閃」
口に出したその瞬間にはもう。ベノンはガストンの遥か後方まで過ぎ去っていた。
超光速移動、光の竜を操るガストンですら全く目で追うことができない刹那のことだった。
「ありゃりゃ」
ガストンの刀がガランと落ちた。
握っていた手のひらには全く力が入らず、自分の意思で指一本動かすことができない。まるで自分のものではないかのように。
表情から緊張が解けて笑みが戻る。「こりゃお手上げ」だ。
「何本かの魔力回路と筋繊維を切断したから今すぐ回復できはしまい。どうだこの辺りで?」
「なんスか今の?魔王軍の剣技じゃないっすよね」
血の一滴も流れない腕を反対の手でギュウと握りこむ。
綺麗に切断されたために何の傷もないように見えるが、握る力を抜けば瞬間に骨の近くまでパックリ割れて血が吹き出る。それほどの切れ味。
「ビャッコ老師、いや剣聖白虎を倣った"居合"という剣刀術だ。相手は自分が切られて死んだことにすら気づかない」
ナイフを空中でクルリンまわしてスポンと腰のさやに差し込んだ。
その優雅でダンディな仕草がゼブブの記憶回路に永遠に焼き付けられたが今は関係ない。
「これだから魔王パーティのメンバーってのはズルいんすよね。初めて見る技のオンパレードなんだから」
クククとうつむいて笑うガストンに、さも当然とばかりにベノンも笑う。
「何を言う、おまえはすでに俺とジュディアーナの弟子だろう。そして大魔王様の部下であるお前は、ビャッコ師からもジルベスト宰相からも強さを学び放題なのだ!お前は旧魔王パーティ全員の能力を受け継げる資格があるのだからな!!」
いつの間にか俺が弟子になってる。
笑っちまう。
「友よ」
満足げな軍団長ベノンがガストンに向けてさも当然のごとく宣言する。
「さっさとジュディアーナに治療してもらってこいっ!今晩ゼブブさんにプロポーズするシチュエーションからセリフの一言一句、服装からディナーのメニューまでたっぷり相談に乗ってもらうぞっ!!」
いつも「大魔王様」ご覧いただいてありがとうございます。
水砲3作目となる新作はじめました。
「神様に辿りつく少年 」
https://ncode.syosetu.com/n3839ki/
ノンビリ楽しんでいただける作品がモットーの(?)大魔王様とはテイスト違うのでお口に合わないかもなのですが。「辿りつく少年」毎日更新してますぜひご覧下さいませ。




