63. 魔王軍団のルール
大魔王様の演説が続く演習場。
控えの間では差し向かいで軍団長ベノンと副官ガストンがソファに座り打ち合わせしているところ。二人には珍しくどちらもしかめっ面。
「団長?どうするつもりスかね?」
いつも仲良しのガストンから詰められて上司であるベノンの方がタジタジしている状況だ。
「いや俺も悪かったと思っている。なんだか勢いがついてしまったというか、思わず口をついて出たというか・・・落ち着いてみると誰に対しても失礼な話だった。そんな半人前の俺が妻を娶るなど100年も早い。己を磨くところから始めねばならん、と反省していたところだ」
予想を裏切らないベノンの回答。聞いた瞬間にガストンの額に深いシワが刻まれることになる。
ほらみろやっぱりこのアホたれめ。
このまんまじゃあの悪魔は数年単位でプロポーズを待たされるぞ。
「そうじゃないでしょ!団長は自分がヘタレだってまだ気づいてないんですか!!プロポーズなんて勢いつけてズドンッすよ、せっかく火がついたのになんでさっさと済ませちまわないんすかっ!!」
相変わらずのチキンっぷり。なんでもかんでも反省すりゃいいっつーもんでもないでしょうに。
俺がアンタの背中を押してやれることもなくなるのだから。
思いっきりやらせてもらいますよ。
「へ、ヘタレ・・?いやまあそう言われても仕方ないかもしれないが。上官としてより友として助言するが、仲良き間柄でも礼儀がなくてはならんのではないか?」
「なんでスか。そういう言い訳でプロポーズしないつもりっすか!?俺が昔から知ってる"ベノンさん"はもっと格好いい漢でしたけどね!ちょっと言い訳がましいんじゃないスか!」
攻める攻める。
普段の彼であれば、ほどよいところでベノンをからかって笑いに替えて終わるはず。
ガストンがベノンにここまでキッパリと立てついたのは初めてだろう。
この二人の言い合いには強固な信頼関係が根っこにある。
まわりはそれがわかっているため、少々の「そこまで言っていいの?」というガストンのツッコミも笑ってスルー。
ガストンの軽口やツッコミは結局ベノンのために言っているのだから。
軍団長ベノンは世界的な強者であり魔王軍のトップに君臨する漢、恐れ多くてみんな思ったことを口に出すわけにはいかない。
そんな相手にズケズケとした物言いでベノンの背中を押すガストンは周りにとってもスッキリなのだ。
実際あの悪魔は団長にもってこいの女性なんだよな。他には探してもいないくらいに。しかも本人同士もすっかりその気のくせに。
こんなレアなめぐり逢いを逃したらこの人は死ぬまで筋肉だけを愛しちまう。
ガストンには二人がその信念の通りに深く愛しあい大切にしあうのが目に浮かぶのだ。それこそ来世も再来世も未来永劫に。
互いに世界的な超高位の強者であるというレアな存在、それでいて相手を信頼し認めあうパートナー。
そんな二人が出会い相思相愛になるなど宝くじに当たるようなものだ。
レアレアがラブでレアレアレアレレレ?
まさにこの悪魔がいう「運命の相手」あながち方便ではなく的を得ているのだった。
「惚れた女を泣かすなんて団長らしくねぇっスよ」
「な、なにを言う。俺はゼブブさんを泣かしてなどないぞっ!」
ベノンの魂を司るのはひとえに守る心。
大切なものを守ることこそ彼の信念である。
泣かすなどあろうはずがない。できるハズもない。
「見えてないんスね。きっとあの悪魔は団長が煮え切らないんで夜毎に泣いてますよ。女性があれだけ堂々と団長への愛を謳ってるのに想いが返ってこないんですからねっ!!」
ぶっちゃけフカしたガストン。
あの悪魔が泣くはずがない!
同じ理由であれば夜毎に「いかにベノンからハッキリした言葉を引き出すか」戦略につぐ戦略、悪だくみから呪いまで計算しつくした仕掛けを準備しているに違いないのだから!
「・・・言い過ぎだぞガストンっ!俺は彼女を大切にしているぞ!!」
ブワリッ
真っ赤な情熱のオーラがベノンの後ろから噴き出した。
燃えるような色と熱。
触れるだけで溶けだしそうな灼熱のオーラ。
やれやれ。
言い合う表情はいっさい緩めることなく、それでもガストンは改めてベノンのオーラの強さに舌を巻く。
力をつければつけるほどベノンの強さがわかるようになる。
普段自分に泣き言を言ってのたうち回るベノンは、それでもガストンからすれば格上の強者なのだ。
固い信念の漢。
ヘタレなところも含めて優しく頼もしい漢。
世界的な強者のくせに自分の気持ちはいつも後回し。
ガストンはそんなベノンが好きなのだし、だからこそ一肌脱ぐのは当然のことだっだ。
「団長、仲間内でこういう諍いが起こった場合の魔王軍団のルールはわかってますよね?」
「む?俺は諍いだとは思っておらんが。お前がそう思うならいいだろう。久しぶりに手合わせしてやる」




