7. 魔王国の宰相 3 (sid:ジルベスト2)
人族の代表が魔王国へ訪れた日の夕方。
やっと開いた衛門まで出迎えたワシを、人間どもが真っ赤な顔をして愚弄しよる。
ワシとしては最大限に妥協して深々と頭を下げて詫びを伝えたが、聞く気もないとみえる。
「これが正式に訪問の許可を願った我らに対する魔族の作法か?」
「魔族とは礼節も外交もわからぬ蛮族か?」
ぬぬぬ。
確かにこちらに非があるとはいえ、代表団の連中は口々に言いたい放題言いよるな。
非礼を詫びるしかないんだが。
「我らを愚弄する所業であれば決して許されませんぞ」
「人族の代表としては大変遺憾と言わねばなりますまい!」
・・・シツコイの。
ワシ、謝ったじゃんさっき。
いつまで文句を続けるつもりじゃ?
「まっとうな外交は魔人には早かったようですな!」
「我らが教師として教えてしんぜようか?なかなかに出来が悪そうですがな!」
唾を飛ばして文句を続ける顔が何とも醜い。
これがクレーマーというやつか。
口に雑巾でも突っ込んでやりたい。
宰相ジルベスト。
頭を下げて謝っても罵詈雑言を並べる人族の代表に、若干イラついていた。
今でこそ各種族の論客と喧々諤々に議論し合う理知的な男で知られているが、それは魔王国で自分の役割を果たすための仮の姿だ。
齢を重ね甘い物を取ることで我慢と忍耐を培ってきた彼だが、実は短気である。
自分の性根すら厳しく律する男。
彼を支えているのは大魔王様への忠誠と、そして・・・甘い物であった。
魔王国に降りかかる無理難題を、自分の身を削り捌き続けるジルベスト。
甘い物に依存気味である。
もちろん彼はそんな自分をもコントロールする。
今日も交渉が困難になることを計算に入れ、緻密な時間計算の元に朝から脳にたっぷりと栄養を与えていた。
昼頃から始まるという前提の交渉に向けて・・・。
今日の彼は衛門が開かないという想定外の事態に、昼食をとる時間などありはしなかった。
軍団長ベノンへの怒りと魔王軍への指示で、彼の脳の栄養ゲージはみるみる下がり今に至る。
彼の我慢力ゲージ・・・ゼロ。
それでも外交団に笑顔でお詫び対応しているのは、これまで宰相として培った経験値のおかげだったが・・・どうやら限界に達したようだった。
もう、ええんじゃないの?
こいつら灰にしてしまえば。
すでにジルベストの思考は黒く染まりかけている。
”大魔王様には話だけ聞いたが無礼過ぎたので制裁をくらわせた、ということにすればいいのでは?”
精密かつ超高回転な彼の頭脳、しかし脳の燃料が無い今の回転率は通常の十分の一もなかっただろう。
ぶっちゃけ彼は頭を働かすのが面倒であり、二択からの決め打ちであった。
「生かすか殺すか」ぶっそうな二択である。
ひとつパチンと指をならせば街が灰になる、ふたつならせば国が灰になる、みっつならせば大陸ごっそり・・・
彼の頭の中には、100年前に人間達をビビらせるために作った「ジルベスト数え歌」が頭になり響く。
黒歴史の扉を開いてしまっていることに気付いかないほど、彼の思考力は低下しているのだ。。。
ジルベスト・ブラック、人類を滅ぼす大魔導士。
もちろんこの呼び名も黒歴史。
変身完了まであと僅かである。