61. 魔王軍の入団試験3 恩返し
え?何コレ。
なんでベノン団長こんなところで公開プロポーズしてんの?
少しまともになったかと思ったら、やっぱりアホなのこのヒト?
魔王軍の副官ガストン。
久しぶりの魔王軍のイベントに参加してみたらやっぱりなことが起こっている。
魔王軍の入団試験は参加人数が多い。試験官は何人いても足りないのだ。
審査する側も技量と将来性を見抜く目が必要となるため、魔王軍団で表面上No.2のガストンは当然のようにお呼びがかかることになる。夜の魔王宮は派遣されているだけであり、彼は今でも魔王軍の副官なのだ。
実際の実力はゼブブと勇者ベッチーがいるためNo.2とは言えないのだが。そして本来のガストンはそんな順位なんて気にするタイプではなくゴミ箱に突っ込んで忘れてしまうタイプなのだが。
だが最近のガストンは違う。形だけでもナンバー・2というの結構大事。積極的に魔王軍のイベントにも参加しているのは忘れ去られたりしないためで危機感バリバリ。
最近のガストンは恐れているのだ。
いつジルベストあたりに呼び出され「明日からは正式に研究所の一員じゃ。魔王軍と両立させて悪かったの、これからはジュディアーナ長官の下で研究所一本でジックリ腰を据えて頑張ってもらうからよろしくの」なぞと言われることを。
えええ!?
そのうちやらかすかと思ってたから俺がいる時でラッキーだけどいきなり!?。
よく見ろよ!俺が筋トレメニューを教えてやっていたダナックも、あと元悪魔隊長の少年も!
自分たちが置いてきぼりになって何がなんだかポカン状態じゃないか!!
もう笑っちまうしかないガストン。
しょーがねー人だなーと腹を決める。
俺が団長にできる助言もボチボチこの辺りまでだろうしな。
大した事はできねーけど。
これでも一世一代の大仕事っつーところが自分の実力の無さってわけだ。
哀れな少年たちとやらかしたベノンにヤレヤレと首をふると、プロポーズ真っ最中の二人にスタスタ近づいて。
ヘラヘラと笑いながらも気配を消して近づき、そして手を振りかぶる。
ペチンっ!
ガストンは上司であるベノンの頭を見事にはたいた。
「えっ!?」
突然の出来事に。
周囲の軍団員、受験者も。そしてほほを赤らめベノンを見つめていたゼブブも。
その場の全員が固まってしまい、笑顔のガストンへと視線が集中する。
いくら仲がいいのは周知の事実であるベノンとガストンの間柄とはいえ。
団長ベノンが行っちゃダメな方向へ突き進んでいたとはいえ。
部下であるガストンが上司のベノンの頭を職務中にハタいたのだのだから!!
「盛り上がってるところわりーんすけど。受験生たちほっといていいんすか?」
平然と注意するガストンに周りの受験生も試験官も大きくうなずいた!!
みんな思っていたのだ「え?これってどういうこと?」「なんなのこれ?なんの花が咲いたの?」「何かの伝説の幕開け!?」
だが相手は魔王軍のトップと補佐官だ手出しできるわけがない!
ガストンを見つめる皆の心は一瞬でひとつとなり、尊敬とあこがれの目がキランキラン輝く。
「「ガストンさんすげえっ!!」」
みんなで示し合わせたように叫ぶのだった。
そのガストン。もちろん平気なわけがない。
絶やさない笑顔はこの場を何とかやり過ごすために張り付けた仮面なのだ!
そしてその目はゼブブをロックオンして一瞬たりとも離せない。相手は悪魔王の薫陶を受けたわがまま放題の大悪魔なのだから。
ここはうまく躱さなければならないっ!!
ブチ切れた悪魔から間髪いれずの攻撃に備えたガストン、しかし悪魔の反応は落ち着いたものだった。動いたのは顔の表情と目玉だけ。
「ほぉう」
ギロリン。
美女の幸せな微笑みは氷が解けるように消えてなくなり。
全ての表情が抜け落ち、瞳だけがグルリとガストンへと据えられる。
地の底から湧き上がる声。
呪いの呪言のごとく響く悪魔の囁き。
やばい、やばいやばいやばいっ!
やっぱり怒っちゃった!!
だが「え?怒っちゃいました?やだなぁ俺と団長のなかじゃいつも通りですよ」笑いながらトンズラできる相手ではない地の底まで追い詰められて確実に呪われるっ!
逃げてはダメだ、焦っても慌ててもダメ、ポーカー・フェイスでやり切るんだガストンッ!
まさにこの悪魔が大魔王様と悪魔王の前で啖呵を切り続けたように!!
「お二人の幸せを邪魔する気はありませんよ。でも魔王国の将来の人材を採用するこの入団試験、お二人の立場であればやらねばならないことがあるのでは?」
爽やかな笑顔で呆然とする受験生の方を指し示す。
飛び散る汗も好青年キランッ
「そ、そうだったな、すまんなガストンっ!思わず俺が変なことを口に出しちまったばかりに!!」
ちいっ!
一難去ってまた一難っ!
言葉選びってしらねーのかよ、下手すると俺がやられちまうのをわかっていない!!
相変わらず世話のかかるポンコツめ!!
ガストンの心配はまさにビンゴ。
俯いたゼブブが地の底から響くかの声でボソリとつぶやいたのだから。
「変なこと・・・?」
だぁーっもう!!
いいから、そういうのいいからっ!!
焦る内心を全く顔に出さず。いや出せず。
ガストンはここでも笑顔を崩さないのだ!!
「団長、変なことってなんっスか?思ってもなかったのになんとなくプロポーズしちまったとか?」
勝負だっ!!
わざとからかうように突っ込むガストン。
もちろん心の中では大博打だ、心中は盛大にガクブルでも必死の覚悟で笑顔を崩さない。
一瞬ベノンに向きかけた危険なオーラがすぐさまガストンへと向かうのは織り込み済みだ。ゼブブがこの場所に存在する全ての意味を鼻で笑うかのような行為なのだからっ!
オーラはあっという間に巨大化し、十メートルはあろうかという黒く憎しみに満ちた怪物の姿でガストンにせまってくる。笑顔のガストン口元ではギリリッ歯を噛みしめ必死に圧に耐える。
大丈夫だ、このポンコツなら!
「そそんなわけはないっ!俺は本当に心から思っただけだ、この人と結婚したいとっ!!」
大声で断言してベノンは「また言っちまった」と真っ赤になる。
元々日に焼けておりホホが赤くなってもわかりにくいのだが、そんな彼なのにハッキリと顔じゅうがリンゴのように赤くなり、プシュンプシュンと湯気まで出ているのだ。
もちろんガストンの予想通りの言葉。さんざん苦楽をともにしてきた彼にしてみればベノンの操縦は扱いなれたコーヒーミルより簡単である。
「ハイハイわかってますってお二人さんがお似合いなのはっ!今はさっさと入団試験を終わらせて、あとでゆっくり愛でも結婚でも誓い合ってくださいよ、コッチは人手がたんねーんすからね!」
つっこむ、ほめる、今やることを思い出させる!
ガストン会心の交渉術あとは結果待ちだ!
なぜ自分が受験生より先に結果発表でドキドキしているのか一瞬疑ったがそんな悩みは速攻で心の金庫にしまって鍵をかける。
聞いたベノンはアワアワと採点表を取り出し、横ではゼブブが真っ赤になってうつむいてる。ふたりの間を漂うオーラはいつの間にかピンクのハートマークとなり、あっちへこっちへプワプワリンと漂っているのだった。
セーフッ!!!!!!!!!
ガストンの脳内アンパイアが一瞬迷ったあげく両手を横に開くジェスチャー!!
乗り切ったっ!!
世界で7本の指に入る強者二人を前に俺は乗り切ったぞ!!
咳払いひとつした軍団長ベノンはすっかり我を取り戻したようだ。ガストンに片手をあげて「いつもスマンな」ポーズで先ほどの続きへと戻る。
少年の方へと振り返り
「少年、キミも合格だ。ただし・・・」
ベノンが少年の肩を抱いて歩いていき、何か打ち合わせを始めると。
気が緩みかけたガストンの肩がポンッとたたかれた。
ゾゾゾゾゾッ!!!!
全身の毛が逆立ち本能から背中には濁流のような冷や汗が流れる。
振り向きたくないガストン、しかし振り向かなければならないガストン。
「今のところはお礼をいっておきますわ」
振り向くと当然のようにゼブブが微笑んでいる。
しかし細められた目が全く笑っていない!!
背中からは闇を超えたブラック・ホールの漆黒オーラ。すべての光を吸い尽くす絶望の象徴がガストンの周囲を取巻いていく。
「わかっていらっしゃいますわよね?」
ふふふふふ、と笑う表情は少女のように可愛らしい。
しかしガストンにはまるで天災が自分めがけて振ってきたかのように感じる巨大すぎるプレッシャー。
「もし今日中にベノン様からさきほどの続きが聞けないようでしたら、ね?」
グイッ
手をおかれていた肩にチクリと針でさしたような痛みが走った。
ゼブブの指先が注射針のように変形しプスリとガストンの肩を刺したのだ。だが彼は笑顔を絶やさない。悪魔にビビったら負け、心を明け渡して屈服したら負けなのだ。
「あなたに一滴の『悪魔の祝呪』を注入いたしましたわ。望みが叶えば祝福を、叶わなければ・・・おわかりでしょう?ごきげんよう。明日が楽しみですわね」
うふふ、と笑顔を振りまく大悪魔は手をはなすと見向きもせずに行ってしまったのだった。
ヤレヤレと肩をすくめるガストン。世話のかかるヤツラばかりだ。
「さあーて。トチ狂ったヘタレの団長の背中をブッたたいてでも押してやらねえと。どうせまた「俺はどうしたらいいんだー!」とかくだらないこと叫びだしてるだろうし。さっさと片付いてもらわねーとあの悪魔も面倒くせーし」
つぶやくガストンが見上げた空では、ヒュルリンと風が巻いて飛んで行くのだった。




