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大魔王様ついてきます! ~ 最強の部下は大変なのです ~  作者: 水砲


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60. 魔王軍の入団試験2 思わずポロリ

※ 改更は誤字修正と微調整です

「さて、次はあなたの番ですけれど・・おや?」


思わずの「ノンちゃん呼び」が周囲にバレてしまい、わざとらしくコホンと咳ばらいをして気持ちを切り替える補佐官ゼブブの頬はほんのり赤い。


「どうしたのかしら?これは試験ですからあなたにケガをさせるようなヘマはしませんわよ?思う存分にご自分の技量を見せていいただければ・・・」


姿の見えない少年。あたりを見渡すと大男ダナックの影から少年がゼブブをジッと見上げている。その表情は先ほどまでの元気印の子供のものではなく、大人びた哀しみに満ちているものだった。それでいてその瞳は何かを語ろうとしているかのように熱い意志を宿すのだ。


「まるでさっきのベノンちゃ(ムグムグ)様のようですわね?あなたとはどこかでお会いしたかし・・・ら・・・っ!!」


「ご無沙汰しております悪魔軍総司令官ゼブブ様。いや今は情報統括庁長官でしたね」


落ち着き払った声はとても子供のものとは思えない。

酸いも甘いもかみわけた大人の発言であり、さまざまな責任を負い続けた漢の挨拶であった。


「悪魔軍の魔王国方面指令官ゾルト。いえ違いますわね、今は魔王国の魔人ゾルト。あなたでしたか」


ゼブブの表情はすぐに曇っていくのだった。


「ご無沙汰していますがお幸せなようで何より。おかしな縁ですね、かつて悪魔軍の全てを指揮したあなたと、悪魔軍最強と言われた第一部隊の隊長である私がこの場所で出会うなんて」


静かで哀しい空気が場を支配する。

悪魔軍の総司令官として全軍の責任を背負っていたゼブブ、その彼女から最も信頼された最強の第一部隊の隊長ゾルト。

不滅の信頼関係で悪魔軍の中心であった上司と部下。

しかしゾルトとその部隊は、悪魔軍内のくだらない駆け引きにより自滅の道を選ばざるを得なかったのだ。ゼブブに気付かれないうちに。


「あなた?」

「なんだいおまえ・・いやゼブブ補佐官?」


おもわず自宅でいつものように「あなたおまえ」で返事をしかけてワレに返るベノン。ゼブブもそこはスルーするのは、彼女にしては珍しくも余裕のなさを示していた。その表情は青ざめ、悔しさと恨みと哀しみと不甲斐なさ、そんなものが混ざったかのような冷たく哀しいものであった。


「この方のお相手は(わたくし)では出来ませんわ。公平な審査になりませんもの」


「そうだね俺がやろう。すでに戦闘力は先ほど見てとれたから少しだけ質問してもいいかい少年?」


ベノンも気づいている。

この少年は魔王国に襲来した悪魔軍の隊長格だ。

そしてゼブブの不手際により魔王様に自滅覚悟の突撃を行うほど追い詰められた猛者。少なくともベノンの得ている情報ではそう捉えている。だからこそ悪魔王はベノンが彼女を懲らしめることを望んだのだ。


「はいっ!もちろんですベノン軍団長っ!!」


あっさりと元気のよい子供に戻ってハキハキお返事のゾルト。

当然に悪魔であったころからゾルトは軍団長ベノンを知っているのだが、今の彼は魔人なのだ。ベノンは同族であり大魔王様直属にお仕えする魔王軍団のトップであり、はるか見上げる遠い存在で目標なのだ。


「なぜキミはダナック君、あの大男を模擬戦の相手として選んだのかな?ダナックの方からキミを選んだとは思えないんだ」


ダナックが魔王軍への合格のために弱い相手を選ぶとは思えない。

むしろ彼は少年の体を心配して打ち込むことができず、攻めてくる少年を弾き飛ばすことだけしかできなかった。

ダナックの素養からすれば、自分と同じかそれ以上の相手を選んで挑戦する。田舎町タマネギランドの純朴な挑戦者。


「ボクからお願いしました。見渡した中で一番強そうなのが彼だったので」


今ダナックに思ったことと同じことを言う。

一直線で逃げずに挑戦する気概だ。まっすぐに強いものへと向かう勇気を持つ漢。


「さっきの方には申し訳なかったですけど。ボクみたいなチビに負けるわけにもいかないし、勝っても当たり前だと思われるのにきちんと相手してくれて。後で御礼にいかないと」


見てまわった中でもダナックは頭ひとつ抜けた強者であることは間違いない。強者を見抜けるのはまた強者。この少年の才能は疑うべきもない。


「それでも手も足も出せずにコテンパンに負けてしまっては試験に受かれないだろう?」


来年や再来年まで考えると、今年は同世代か少し年上と良い勝負をして目をかけられておいた方がお得だと考える受験生も多い。活躍次第では魔王軍団のタマゴとして直接声がかかることもある。


「ボクは今すぐに大魔王様にお仕えしたいんですっ!多分ですけど彼は合格ラインですよね、彼より強いところを見せないと合格できないじゃないですか!」


ベノンは少し考えてからうなづいた。


この少年の素質は目を見張るばかり。しかし実力は魔王軍団の入団試験に微妙なラインだ、まだ体が出来上がっていないのだから。この少年の技量ならもう2年、おそくとも3年で今のダナックと同じほどの強さを手にすることは間違いない。合格はそれからでもおそくない。

だがこういうタイプはベノンからすれば「よし俺が面倒みるからついてこいっ!」そんなめんこいタイプ。


それとは別に、彼がゼブブへと落とした影も気になっているベノン。

大魔王様が認めたほどの漢だ、決してゼブブを責めたりすることはないだろう。むしろ少年の方でも申し訳なく思っているフシがある。

だがゼブブからすれば、自分の信頼する部下が、自分に相談すらできずに死地へと飛び込まざるをえなかったのだ。その自責の念は計り知れない。


どうしたもんかとうんうん考えているベノンの腕がフワリとやさしい感触が包まれた。


「ゼブブさん?」


今まさに心配している想い人が小さな体中で腕をギュっと包み込んでくれていた。

人目をはばかることなく。

見上げる瞳は慈しみに満ち溢れ、ベノンの思い通りに進むよう優しく励ますのだ。


この人はいつもそうだ。

俺が悩んでいれば優しく包んでくれようとするし、敵対する相手には俺の前に立ちはだかろうとしてくれる。

彼女は人目があろうがなかろうが関係なく、俺が困ればこうしてくれる。

まわりなんて関係なく俺一筋に全てを与えてくれる。

そんな優しさが、愛情が。

俺を前に進めと導いてくれるのだ。


俺はもう、この人無しではいられないだろう。

こんな小さな体で俺の全てを包み込んで、俺を全てから守ろうとするかわいい悪魔。


思わず言葉が口をついて出てしまった。



「ゼブブさん、結婚しよう」


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