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大魔王様ついてきます! ~ 最強の部下は大変なのです ~  作者: 水砲


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59. 魔王軍の入団試験1 young challengers

魔王宮の敷地内にある軍団の練兵場。

敷地内には本来団員の魔人しか入れないが今日は様子が違う。


まだ子供と見まがえる少年から筋骨隆々のいい大人まで。

やっとハイハイが始まった赤ん坊からから杖をついた老人まで。

それぞれが思う「運動のできる恰好」で集まった老若男女は千を超える。


「ていっ!ていっ!やーーーっ!!」


それぞれが目星をつけた模擬戦相手とカンカン模擬刀を打ち鳴らす音が響く。

周囲を軍団の兵士たちがチェックして周り、手に持った一覧表に得点をつけていく。


今日は魔王軍の入団試験日。


応募に関しては年齢制限なし。

必要なのは魔王国を守りたい意思。そして魔王国を守れる武力を持つもの。


元々は魔王国を守りたい者に広く門戸を開いていた入団試験。

しかしその倍率が年々激化するばかりなのは、魔王国に生まれた誰もが受けるのだから。

普段は別の仕事をしながらも毎年この時期だけはと体を鍛えて受けに来る猛者も多数いるのだ。


ひときわ目立つ大男の審査官に受験生の注目があつまる。軍団長ベノン今日は審査委員長。

隣には一緒に審査する婚約者の悪魔ゼブブの姿が初々しい。


そのゼブブ、悪魔軍ではトップであり自分が審査官のとりまとめ役を行っていたこともあり。

二国の違いに内心「良きにつけ悪きにつけ違いますわね」驚くやらあきれるやら。

魔人たちなんにしても参加人数が多すぎる。しかもあからさまに武人とは呼べない「ちょっと鍛えてきた素人」も多数おり、笑顔で汗を流している様は「これ運動会?スポーツ大会?」かと見まがえるのだ。


情報収集を怠らないゼブブは知っている。

これは「なるべくしてなった状態」だということを。


なぜなら・・・10回を超えてもなお試験に来るような、魔王国に身を捧げようとする愛国の漢たちを大魔王様が放っておくはずがない。

そんな歴戦の受験生たちは結果発表後に大魔王様からお言葉があるのだ。

参加に礼を言われ、いかに市井で魔王国を盛り上げることが大切かを熱弁され、ぜひ魔王国にお主たちの得意分野で力を貸してくれぬか、と頭を下げられる。まるで普段街で働く自分たちを見ているかのように、自分たちの毎日を大魔王様が褒めてくれているかのように!


そして最後には、

「まだまだワレの力が足りぬばかりに要らぬ心配をかけておるようだ。すまぬ、必ずおぬしらの幸せを守りぬくことをここに誓おう!」

拳をふり上げて誓う大魔王様に参加者全員も両手を振って歓声をあげてフィナーレを迎える。

「来年こそは大魔王様のお傍で働いて見せる!」と燃えあがる者もいれば、むしろこのお言葉を聞きたくて参加するおばちゃんたちもやる気をみなぎらせる始末。だってみんな大魔王様が大好きだから。


もうこれは「年に1回の大魔王様とのふれあい会」ですわね、と魔王国らしさに微笑ましいゼブブなのだった。


ベノンの足がピタリと止まり、ゼブブにちょっと待ってとアイ・コンタクト。目と目で通じ合うそういう仲になってしまっている二人。


そこでは小柄な少年が、筋肉の塊のような大男へと飛び上がりながら剣を振り下ろし、はじき返されてはまたも立ち上がり模擬戦の真っ最中。

大男に向かっていく強い闘争心。何度はじかれても次々と打ち込んでいくへこたれない心。動きも速く技術も同年代からはとびぬけている。残念なことにまだ若くいかにも力不足である。


大男は少年の剣を弾きながらベノンへと頭をさげたが、そのまんま「どうしましょうコレ」困った顔になっている。魔王国の子供たちは全員が宝。彼らが傷ついては大魔王様が悲しむだけだということをこの大男もしっているようだ。

このままではせっかく試験官がいるのに二人とも自分の良さをアピールできないで終わってしまいそうだ。


「俺が二人を相手にしてもいいが・・」

「いえ。ここは私わたくしが。まずはあなたからお相手しましょう」


ゼブブがズイッと前にでて模擬刀を構えると、かかっておいでと大男に合図を送った。

男も小柄な女性に一瞬ためらったがすぐさま剣を握りなおす。

魔王軍の制服と階級章、そして立ち昇ったオーラ。大男の全身の毛がチリチリと逆立ち、勝手に背中に冷や汗が流れていくが男は引き下がろうとはしなかった。


「よろしくお願いしますっ!」


カンッと打ち下ろした剣がゼブブに優雅に跳ね返されたとみると、大男は体に似合わず俊敏な動作で体をひねり回転しながら横に剣をなぎる。

バックステップでかわすゼブブに瞬発力を高めたダッシュで追撃し長い腕で突きを繰り出した。


「ふふふふふ。合格よ」


ゼブブは己の剣を下ろし、まっすぐせまる模擬剣に微笑みを浮かべる。


ピタリ。


親指と人差し指の2本の指で勢いよくせまった剣の先端をピタリと止めてみせた。


「なかなかに鍛えてきたようだな?魔王軍の基礎トレーニングくらいはもうこなせるハズだ」

ベノンも評価にマルをつける。


「こんな人材がいるとは首都近辺では聞かなかったが。それになんだかキミとはどこかで会ったかな?」


思い出そうと頭をひねるベノン、彼の頭の中には有能な魔人全てが頭にインプットされている。もちろん記憶されているのはベノンが認める筋肉を持つ魔人だけなのだけど。

ベノンの問いに大男がブワリと瞳に涙をためるとアワアワと口を開く。


「べ、ベノンさん、いやベノン軍団長。お、おれ、いやワタシは。ダナック。タマネギランドの出身のダナックです!」


タマネギランドといえば昔ベノンが赴任していた場所だ。

そしてベノンが悪魔から街を救い副官ガストンを拾った街。


「ダナック・・・あの街で俺が助けた少年が同じ名前だったはずだが。こういう筋肉のタイプではなかったしなあ。あの少年の息子というには若すぎるが?」


老若男女問わず紳士な対応のベノン。

しかしこと筋肉に関わるときだけは別。

つぶやきながらベタベタと大男の体を触り筋肉をチェックしていく。


「そのダナックが俺ですっ!あの時はありがとうございましたっ!俺は命を救ってくれたベノン団長と!俺を育ててくれたガストン副官とタマネギランドのみんなに!恩返ししたくて努力してきました!入団できたら必ず役にたってみせますので宜しくおねがいしますっ!!」


おそらくはタマネギランドを救った後でガストンに課した特訓をずっとやってきたのだろう。

まだあどけなくやっと森にひとりで入れるようになった少年が。細く小さくて俊敏性だけがとりえの可愛らしい少年が。

恩返しのため、当時のガストンですら泣く泣くしがみついて耐えきった特訓をひとりでもくもくとこなして試験にやってきたのだ。


『漢の背中は漢を育てる』


そんな名言すら生まれそうな瞬間。


「うーむ、固く大きい筋肉だが見栄えばかりだなあ。もちょっとこう、うまく鍛えねば軍人としてはイマイチ・・」


かつて救い出した少年の涙と感謝を完全にスルー。

ベタベタと触られ続けるダナックは呆然とするしかない。ポカン。

そんな我を忘れて筋肉に夢中なベノン。横にいる美女から頭をペシンとはたかれた。


「もう、めっ!ダメでしょノンちゃんっメ!!」

次回はいつもに戻って来週金曜日の夜に更新予定です

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