57. SUPER BOY2 早送りはまるで
場が散開となった後ジルベストは慌てて駆けだした。
もちろんマッド・ジュディと少年を追って。
「待つがいい!お主さきほど何をやった!!」
チョロリと振り返りバカにした笑いを浮かべるジュディに思わず駆け寄ろうとして
ツルンッ!
スッテーーーーンッ!!
豪快に滑って転ぶジルベスト。腰を強打して思わず力が抜ける。
「あはははは。もう年なんだから気をつけなっての。大魔法使いもかたなしだね!」
二人は角を曲がって行ってしまったのだった。
カンカンに頭から湯気を出すジルベストであったが、ふと今転んだ床を見る。
自分がジュディに声をかけ一歩を踏み出したまさにその場所だけにピンポイントで氷魔法の痕跡。
既に消し去られているようではあるが、大魔法使いであるジルベストの目は欺けない。
「お主はいったい何を企んでおるのじゃ!?」
誰もいない地下の大魔王執務室。
夜の執務室であり魔王国研究所の研究ラボだ。
さっさとジルベストの前からトンズラしたジュディアーナが少年と共にヒュンと現れた。
「悪いねテレポートさせてもらって」
目の前には大魔王様。
もちろんジュディは悪びれてる気なんてない。
「さて説明してもらおうか。コヤツはゴーレム、なのか?」
うろんな目をしてエルフの少年を眺める大魔王様。
さきほど肩を叩いた際に体内の生体魔力を確認しており、いわゆる「生命体」でないことを確認済。
「似て非なるもの、とか言っちゃおうかな。ゴーレムは単一の命令に従うだけだけどこの子は違うんだよ」
「ほう。だが所詮は命令されるだけの人形だろう?」
「バッポン的なハッソーの転換だよ!やってほしいことを1つ1つ指示を出すんじゃなくて、自分で考えて行動させればいいのさ!」
言われたマッド・ジュディはむきになって言い返す。
そこは大魔王にも譲れないところらしい。
「ふむ?だが物事を考えるにはロジックがなければなるまい。言語も通じず基礎知識も理解できずに考えるなどありえまい」
「そこを1つ1つ学習させてもいいんだけどそれじゃ時間がかかるからね。じゃあどうすればいい?」
「ふむ、そうだな・・・」
ちょっと注意をしておこうとジュディアーナを呼び出した大魔王様。
いつの間にかジュディアーナのペースにのせられており、すっかり「夜の魔王宮」研究開発会議での通常運転に入ってしまっている。
「誰かの基礎知識をそのまま移植できればいい、のだろうが」
そこで初めて。
それまで沈黙してうつむいていた少年が前に伸びた髪をかき上げながら大魔王へと顔を向けた。
「その通りさ。そしてそれがボクってわけ」
美形の少年、穏やかな笑顔が「してやったり」ニヤァと狂気的な笑みにかわっていく。
口調も口癖も。そして顔の造形も表情も。すべてがジュディアーナにそっくりに。
J「どうだい?しかも移植したのは基礎知識なんてもんじゃないよ、ボクの人格まで移植済さ」
R「本体には敵わないけどね。なんせ魔力量が違いすぎる。でもね?」
J「ああそこ言っちゃうんだ。魔力についてはいよいよ吸魔石の試作品ができたから搭載済さ」
R「ガストンくんに感謝だね。なにせ今のボクが動けているのは毎日チュウチュウさせてくれてるガストンくんの魔力のおかげだもの」
J「今でも1か月は動けるけど。魔力が尽きたら溜めた魔力を充魔すればいいだけさ」
R「むしろ自分から充魔しちゃうこともできるし、ね」
J「ね」
R「体内に魔力回路が無いから自分で魔力を作れないのは面倒だけど」
J「でもそれを言ったら魔人も一緒さ。魔力は自動で回復するけど食物をとらなきゃだし休憩も必要だし。むしろ君の方が便利だと思うな」
R「そうかな?」
J「そうさ?ボクみたいに寿命もないから、考えようでは不死ともいえるし」
R「その前に生命体と呼べるかは微妙だけどね」
J「あははは、それはそうかゴメンゴメン」
会話はだんだんに速度を増し、あっという間に2倍まわし3倍まわしと言葉が聞き取れなくなっていく。
なにせ互いにジュディアーナなのだ。いいたいことはツー・カー。
キュルキュルとテープレコーダーを早回しするように言葉が早くなっていき、ついにはコンマ数秒ごとに発生するキュキュキュキュキュキュッ!!短い音の連続だけで意思疎通してニコニコと笑いあう。
そんな延々と続く会話(?)あきれ果てた大魔王が無理やり言葉をかける。
大魔王には「地獄耳」と「高速処理」があるからこそ会話を聞き取り割り込めるのだ。
「う、うむ。だいたいは理解したが。ゴーレムをベースにジュディの人格を移植して吸魔石の魔力で動かしている、ということだな?」
R「そうだよ」
J「そうなるね。ゴーレムをベース、っていわれると反発したくなるけど」
R「いいよ大魔王には理解できないしどうせ」
J「でもね?キミのために開発した精神核と魔導骨格だしこれまでの技術の延長線みたいに言われるとちょとガッカリしちゃうなぁ」
R「大丈夫だよキミが頑張ってくれたのはボクがわかってるから」
J「そんなキミをボクがわかっているさ相棒」
もちろん回答もどんどんと早口になっていく。
またもやキュルキュルと早回しの音のようになったかと思うと単発の音を互いに発するだけになっていく。
大魔王の本音は「いちいちキュルキュルとうるさいしめんどうくさい」突発的に始まるかけあいにスキルを起動する必要があるのだ。なにせ興がのればピアノの連弾、その1つ1つの打音に何十文字分も言葉が含まれる。
もともと研究に関する話では止まらなくなるジュディ。
どんどん早口になっていくのもいつものこと。それが2人で会話することで2倍ではなく加速度的なターボがかかる。わかっている本人同士の会話の丁々発止で回転数がギュルンギュルンあがるのだ。
キュルキュル音がピタリと止まりハタと顔をあわせる二人。
4つの瞳がジロリと大魔王様を睨む。
J「ねえ大魔王、もしかしなくても今「面倒くさい」って考えたよね?」
R「違いないね。困るとすぐにポーカー・フェイスに逃げ込むのは悪いクセだよ?」
J「だいたいキミはむかしっから・・・」
「わかった、わかったからワレの質問に2つ答えるがよい。先ほどの謁見式でジルベストにやらかした件がひとつ。もうひとつはなぜに吸魔石開発から魔導ゴーレムへと発展したのか?さらに聞くなら、なぜに「ただの新入り」としてわざわざ謁見式まで開いて皆に紹介したのか。その意を問おう」
J「だからぁ」
R「ほんっと大魔王ってば理解悪いよね」
J「ダメだよロイド思っても口にだしちゃ」
R「それに質問2つって言ったのに3つに増えてるしね」
J「ね」
二人からムスリとした顔で睨まれる大魔王。
背の高さも髪の長さも違うが二人ともジュディの顔だ。
もちろん大魔王の本音は「なぜワレがにらまれておるのだ?逆ではなく?」キョトンである。
しかもロイドと紹介された少年はなぜか若干口が悪い。
J「この子は」R「ボクは」
JR「魔導アンドゥ・ロイドだっていってるじゃないか!」
どうやら「ゴーレム」とかと同じく種族的な?カテゴリー的な?名前でありゴーレムとは別物らしい。つまりは「魔導アンドゥ・ロイド」という疑似生命体と言いたいのだろう、だが?
以前、大魔王パーティが地方に散った魔人たちを救う旅をしていたころ。
珍しく人間の商人と取引をしていた時期がある。
種族としては本来は敵同士だが信頼関係が生まれると身の上話をポチポチとするようになる。親しくなったその男は確か東の大国のさらに東に浮かぶ島国の出とか言ったか。
他人を楽しませることが好きなその男からよく聞かされた言葉。今まさに大魔王の脳裏をよぎるのだった。
「知らんがなそんなの・・・」




