56. SUPER BOY1 瞳は語る
「本日は謁見の機会をいただきましてありがとうございます」
膝をついたエルフの美女がうやうやしく挨拶する。
ここは魔王宮謁見の間。
魔王国の官僚トップクラスがづらりと並び最奥には数段高い位置の玉座。座るのはもちろん大魔王様。
挨拶した魔導科学技術庁長官ジュディアーナの横には正装に身を包んだ少年が同じように膝まづく。
垂れた金髪で顔はわかりずらいがとがった耳でその少年もまたエルフなのだろうと周りは納得する。
「・・・・・」
無表情を決め込みその感情が計り知れず、居並ぶ官僚たちがザワザワと顔を見合わせ始めたその時。
お手並み拝見とばかりに大魔王がうなずいた。
何か言うべきことがあるのではないか?
「大魔王様にはご機嫌うるわしゅう。彼の名はロイド。新たな配下が加わる許可をいただきましてありがとうございます。私が責任もって育て上げることをお約束しますわ」
礼節にのっとった作法に言葉。
静まり返る謁見の間。
耐えきれないように突然ガタリッと立ち上がる音が響いた。
「なんだその丁寧な言葉遣いは!この人がこんな言葉を使えるハズがないっ!!」
目を見開いたガストンの叫びが謁見の間にコダマしていく。
彼の「魔王軍幹部としての立ち居振る舞い」を破壊した張本人が堂々と見せた貴婦人の礼節。
口からはあわあわと「俺は信じねえぞコイツはニセモノに違いない、いやもしや俺が普段話してる方がニセモノなのか?」口を突いて出る言葉がすでにぶっきらぼうであり、しっかりジュディに矯正されている。
上司である軍団長ベノンがそんなガストンを後ろからロックし会場から連れ出すのだった。
普段のジュディを知る強者達は合掌してスルーし表面上は誰もが今の無礼はなかったものとしてそのまま式は続く。
「この子はこれからわたしの名代としてさまざまな会議に参加することもあるかと思いますわ。ここにいらっしゃる皆様にも以後お見知りおきくださいませ」
ガストンのことは無視してツラツラと続きを喋るジュディアーナ。
それを見た宰相ジルベストはフンと鼻息も荒く警戒を露わにする。
「ナニ危ないこと企んでるんだコイツ」
ジルベストは知っている。
きちんとした言動、身なり、所作。コイツはできないのではない「やらない」だけなのだ。
そしてわざわざこんな手の込んだことをするマッド・ジュディは100%何か企んでいるときだ。
各々の思惑が交錯する中。
大魔王は王座からゆるりと立ち上がると謁見の二人へと降りていく。
チラリと少年に目を向けるとその肩をポンッと叩いた。
居並ぶ官僚たち、新入りが大魔王様に肩をポンされて「うらやましいっ!!」なんなら今すぐ自分たちも新入りからやり直して肩ポンされるか!と辞表の文面を考え始たそんな矢先。
シバッ
シバシバシバッ
シバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバッ!!!!!
近距離でジュディアーナの目を離さない大魔王。
皆が「どうされましただいまおうさま!」注目するそんな中。
「むほおっ!!」
厳粛なる大魔王様の謁見、今度は宰相から「出しちゃダメな」声があがる。
下っ端の副官ガストンはスルーされても宰相であるジルベストは見逃されない。
いっせいに集まる参加者の視線。もちろん無礼者に一瞬でアンジェリカの手には暗器が握られる!
しまったわい!やりおったなアヤツ!!
ジュディアーナの符号通信に気付いたジルベストがとっさに解読に入ったその瞬間!彼の意識がいきなり暗闇に引きずり込まれ、おもわず声をあげてしまったのだった。
意識が沈んだのは数秒わずかだがその間に暗号通信は終わってしまっている。
なぜじゃ!?アヤツはこちらに気づいておらんかったはず!
何事もなかったかのようにケホンケホンと「なんかのどにつまったわいコレは大変失礼をば」大魔王様と周囲に頭をさげてまわることで視線がもとに戻っていく。
ジュディがやっていたのは魔王パーティで彼女特有の暗号伝達で念話を傍受できる上位魔術者がいた際に使われるものだ。相手に超高速まばたきを繰り返すことでモールス信号のように意思を伝えるテクニック。
ジルベストは宰相として大魔王のすぐそばに控えるのが通例。つまりジュディアーナと大魔王を横から見ることができる立場だ。彼が異変のジュディアーナに注目することは明白。
誰にもバレずに大魔王へとメッセージを送ろうとジルベストと反対側のマブタだけでシバシバシバシバシバ暗号を送っていたのだ!
ジュディの失敗は1つだけ。
今日はバッチリ化粧をした際にまつげもカールさせており、新しいカーラーによるクリンと跳ね返りがカンマ5ミリ計算外。凡人なら見えるはずもないほんのちょっぴしまつげがピコピコ動いていることに気付かれてしまったことだ。
だ・い・ま・お・う い・い・か・ら・こ・・・
くううっ!
ジルベスト一生の不覚っ!
おそらく「大魔王いいから、」
までは違いない、。じゃがその先がわからんっ!
しかもさっきのはなんじゃあれ!?
一瞬にしてワシの視界が奪われたのじゃが!!
「よかろう」
大魔王はひとことだけ発すると憮然とした表情で退室していく。
参列者は呆然と見送るしかない。
なんとあり得ないことだらけの謁見式だったのだろうか。
ガストンの魂の叫びは置いておくとしても、ジュディアーナ長官の言動、ジルベスト宰相の異常行動。そして大魔王様が新しい部下の挨拶にロクに言葉を発しない。まさかのお怒り?と怯える者まで出る始末。
ないことずくしの謁見式はこうして終わったのである。
謁見の間から遠く離れた魔王軍の事務所。
ジュディアーナ・ショックで我を失ったガストンを連れ出したベノンの目は優しい。
呆然としている部下の気持ちが彼にはよくわかったし、何なら自分も同じ目にあったことがある。
「オレは知っていたから耐えられたがそれでも声がでそうになった。女性というのは恐ろしいな、まるで違う自分に化けることができる」
魔王国の正式な謁見式での失態。本来であれば責任問題である。
ションボリしたガストンにベノンの真摯な瞳が語りかける。
気にする必要はない、こんな些細なトラブルくらい俺にまかせておけばいい。
頼りがいのあるナイス・ガイの本領発揮、最近では大人の落ち着きと寛容さをみせる軍団長ベノン。
最近連れそっている女性が彼の魅力をワンランク・アップさせたともっぱらの噂。
ベノンの想いはガストンの心核をブルンブルンと震わせたのだが。そこはガストン一瞬後には頭にカチンとスイッチが入る。
彼は魔王軍の副官であり熱い思いでストレートに行動するベノンをいさめる漢なのだ。
客観的で冷静な思考を取り戻す。
そうなんだよ、やっと気づいたのかよこのヒトは!女性は化けるんだよ、恐ろしいんだよ!!
まさにあんたのそばにいる悪魔がっ。
「団長、やっと・・!」
「うちのゼブたんとは大違いだ」




