55. 百魔夜行5 増殖は止まらない
ワオォーーーーンッ
遠くにオオカミの遠吠えが響く夜の大森林。
月明かりを横ぎる影が6つ。
大魔王グラディウスを筆頭に大魔導士ジュディ、大魔法使いジルベスト、剣豪ビャッコと古のパーティメンバーが続く。さらに大魔王秘書アンジェリカと大魔王研究所次席研究員ミッシェルが連なり計6人が隊列を組んで飛んで行く。
「完全に過剰戦力だよね」
「別によかろう、大魔王様がいらっしゃる時点で戦力は足りておる」
「おまえに言ってないんだけど」
「なんじゃと?おまえとは誰に言ったのか聞かせてみるがいい」
「大魔王ぅーーー、ジルベストがボクをいじめるんだけどーーーーー」
そんな会話があったりなかったり。
「今日はバルバロス諸島に巣くうシー・サーペントを狩ることにしよう。ドラゴンばかりでは値崩れするし芸がない」
「了解したぞ大魔王。大海の主よ我が刀の錆びとなるがいい!」
そのまた翌日。
ガオオオォォォッーーー!!
遠くにサーベルタイガーの叫び声が響く熱帯大密林。
月明かりを横ぎる影は30。
「今日はジャングルの王を名乗る無礼者を討伐じゃーーーー!!」
昨日のメンバーに加えてヤヒチ他の宮廷料理人が加わり食材探しの面が強くなる。
さらにその翌日。
バオオォォォーーーーーン!!!
遠くにアイスマンモスの叫び声が響く北方氷山連邦。
月は暴風雪で見えないがよぎる影は100。
「今日はミスリルタイガーをハントするわよーーーーー!!」
名匠デポン他の鍛冶師連盟の皆さんに魔法研究所の研究員達も続き鋼材に目の色が変わる。
さらにその次、次、と続き・・・10日目のこと。
「もう、今日が最後でよいであろうぞ」
最初は大魔王が自室のバルコニーからブラリと出発していた出張討伐。
今日は魔王宮前の大広間に参加者が勢ぞろい。その数は1000を超えていた。
「ああ皆の気持ちは嬉しいぞ?うん。だが目的は今日で達成するであろう、もう大丈夫だからな。疲れているものは今日も無理する必要はないのだからな?」
「ハイッ、まったく問題ありませんっ!!!!」
限られたメンバーでこっそり行っていた夜間討伐、魔王宮で働く手の空いたメンバー全員集合っ!!へと大変貌。
大臣も文官も研究員も料理人も女中も技師も医療班も庭師も関係なく、その日の夜間当番以外全員が手に手に得物をもって揃ったのは言うまでもない。
知らないのはベノンを頭に魔王軍団のみ。軍団はベノンと同じく真っ正直ものばかりなのだから混ぜれば情報はベノンへ一直線だ。
何気にガストンが昨日から参加しているのは特殊任務で研究所繋がりから知ったのである。彼は魔王軍団に喋ったりはしない。
上司の言い付け関係なく単に「団長も魔王軍団も知らなかった方が面白い」からだ。ブレない男である。
「で、では今日は魔人族と人族の境にある大火山ヒュポンでフェニックスを狩ることにしよう、足に自信がないものは待っておいてくれてもよいのだからな・・・」
「問題ありませんっ!!!われら助け合いフォローしあう大魔王様の僕。一人も欠けることなく皆で必ずや討伐してみせましょうぞ!」
「み、皆で?あっ・・・いや、うむ。よろしく頼むぞっ!」
「おまかせくださいっ!!!」
もしそこに元悪魔軍総司令官ベールス・ゼブブがいたなら大魔王の真意を正確に把握していたはずだ。周りの勢いに搔き消されて気づかれないが、大魔王があんな言葉に詰まってカミカミなのは初めてだろうから。
残念ながら参加しているガストンは気づけない。彼からすると笑っていいのはベノンまで。大魔王様は光輝く尊敬あこがれフィルター越しでしか見ることができないのだ。
そんな中で旧魔人パーティのメンバーだけが大魔王の心根を図ってニヤついている。ここに至っては彼らの出番があるはずもなく、数日前からは日ごとにあわあわと焦っていく大魔王を微笑ましく眺めるために参加しているのだった。
人族西の王国の最果ての地。
深い森林の更に奥、いまだ舗装路の無い獣道をかき分けてたどり着く開拓民の小さな村があった。
丸太と縄でくみ上げた見晴台には警らの少年が陣取って夜通し見張りをしている。
麻袋のような布を体に巻き付け暖をとりながら。
少年は特段戦闘も運動も得意ではない。
親の開拓に付き合って来ただけなのだが、魔獣を狩ることも森を切り開いて自分の土地を得ることも興味はない。
ただ彼は美しいものや雄大な景色が好きであり、自分の心を震わせる景色が広がるこの地が嫌いではなかった。
幸い彼の目は視界が広く遠目も夜目もきいた。
さらに本人も気づいていないが魂の底では魔力感知の才能が開花し始めており、魔獣を探知することにも長けていた。
おかげで夜間の見張りは苦ではなく、彼は自分の得意なことで居場所を確保していた。
見張りを始める頃には壮大な森の果てに真っ赤な夕日が沈み、夜は満点の星明りが真っ暗な森を照らす幻想的な世界。仕事の終わりには朝日が生命の息吹を感じさせてくれる。数百回も繰り返しても飽きることがない景色と空気を肌で感じることができる天職だった。
「今日は特にお月様がきれいだ」
空にはまん丸に輝くお月様。
満点の星たち。
そして遠くに見えるのは魔族と人族の境界に聳え立つヒュポン大火山。
火口にはマグマがうねり、山の上空では雲が薄ら赤い。
広大な森の闇、天井に輝く月と星、地面で滾る赤い影。
それがまるで世界の縮図であるかのように深く神秘的で、彼はその幻想的な景色を何時間でも眺めていられるのだった。
満月を小さな影が横ぎる。
鳥かな?
たまにいるのだ。
こんな明るい夜には。
また影が横ぎる。
注意していたので今度は形を見ることができる。
鳥じゃないように見えた。
またまた影が横ぎる。
ええええっ?
また横ぎる、またま横ぎる、次から次へと横ぎる!!
よく見ると横ぎっていく影は人型であり、まるで天を駆けていくように次々と満月に影を映していった。
月が雲間に隠れるまで、数百体もの影が過ぎさったのか。
今も続いているなら千を超えているかもしれない。
こんな話は聞いたことがないし、誰に話しても信じてもらえないだろう。
自分自身ですらこれが夢じゃはないという確証を持てないのだから。
ドオオオオォォォンッ!!!
大火山で激しい爆発音がしたのは小規模な火山爆発だろうか。
こんな日は何が起こるかわからないから注意しないといけない。
それにしても満月を横ぎる小さな影たちはなんと強く美しかったことだろうか。
彼は気づいていない。
通り過ぎたのは世界的な強者たちだ。そして少年は影越しにそのオーラの輝きを捉えていたことに。
その後開拓村は放棄されることとなり、開拓民たちは生まれついた街へと戻っていった。
森に住まう魔獣たちの縄張り争いが激化したせいだ。
年寄りたちが森の主が倒れたのだろうと勝手なことを言っていたけど真偽は定かではない。
少年は生まれついた首都に戻り絵画を描いた。
幻想的な夜の森、満点の星空と満月。そして遠くにうねる大火山。
その夜空には数百も列を作り大火山へと飛んでいく魔人たち。
向かう先で巨大なマグマが翼を広げて威嚇する。
絵画は人の手をいくつか渡った後、魔導科学庁の長官室に飾られることになる。
少年は魔王国に住む二人目の人間となり宮廷画家として重宝されるのだが。
まだ先のお話だ。
「大魔王様」一区切りです。これから更新頻度はゆっくりになりますけど少しタメながら投稿した分の改稿もしていきます。
(あちら、の方にあわせていく形になります。同じ話なのですがテイストが変わった話もあり)
新しい作品アップしますのでよろしければ覗いてみてください。
水砲2作目です読んでいただけるかドキドキです。
「異世界ロボット珍道中 ~神に見込まれたおっさんが世界を救う~」https://ncode.syosetu.com/n8571kb/
15日の朝にはあがっていますのですでに読めるかたも多いのでは。
おっさんもの、ロボットもの、始まりは月面コロニー、美少女パイロット、神様、異世界転生で魔法の世界へ・・・大魔王様とは一味変わりますがきちんと(?)バカらしさを差し込んでます。
なんとか5話目まで読んでいただけますととてもウレシーです。




