53. 百魔夜行3 またひとり
「おまえならいい売り先わかるだろ。ちゃっちゃとやっとけよ」
次元収納から引きずり出したシュエル・ドラゴンを渡す態度は頼むというより命令に違いない。
ドラゴンを引きずり出したのは大魔王秘書アンジェリカ。
そして受け取るのは宰相ジルベストである。
元々秘書アンジェリカを一人前に鍛え上げたのがジルベストなのだから共通する魔法は多い。
この次元収納もその一つ。
「もちろん大魔王様のお望みにワシが骨を折るのは全く構わんが・・・なんじゃその顔は?」
肌荒れ、むくみ、目の下のクマなど全身から疲労困憊なオーラが出ており必死なメイクでごまかしている。それだけなら「ねんごろに夜遊びでもしたんじゃろ」と気にもかけない枯れたジルベスト。
だが今日のアンジェリカはそれだけではない。
頬は紅潮して田舎娘のようであり、いつものキリリとした口元はゆがみ涎が垂れそうだ。フンスフンスと鼻息もあらく、思い出すようにシナシナと崩れ落ちそうになる。
「いっ・・・いいんだよアタシのことは。それより頼んだぞコレ」
「頼みごとを聞くかわりに少し質問をしてもよいかの?」
両手をほほに添え初心な乙女のようなアンジェリカ。
口調と似つかわしくないその態度はあからさまに「ヘン」である。
大魔王に仕える同士がこれではお役に立てるかと不安が募る。疑問はさっさと解消させるのがジルベストのスタイルだ。
「このジュエリードラゴンは大魔王様が討伐されたのじゃな?」
「ああそうだアタシも手伝った。お役に立てたかはわかんねーが」
引き継いだドラゴンは小さな額の刺し傷以外に外傷がない極上の品。ここまで最高の状態で捕獲できるのは大魔王様に違いない。
「昨日は天気も良かったしな。星もキレイだったろう」
「ああそうだった。星がきれいだったんだ・・・」
見上げる瞳が潤んでいる。
両手を祈るように握りしめて。
そんなアンジェリカなぞ初めてのジルベストは目が点になる。
まるで乙女じゃな。。。
「夜は冷えたろう?暖かい飲み物くらい準備したんじゃろうな?」
少し確認を含ませると、想像通りに反発してくるのがまだまだ若いアンジェリカ。
「あたりまえだろっ。暖かい紅茶をそれはおいしそうに口に含んでくださった・・・きれいな湖に映り込んだ星を見ながら・・それから俺の肩を・・・」
「ふむ。肩を?」
肩をどうしたかハッキリさせねばなるまい。
大魔王様が恋人のように肩をだくことは全くあり得ぬ。じゃがコヤツの心の闇を解き放つ誤解が生まれては厄介すぎるのじゃ。
「な、なに聞いてるんだいやらしいヤツだなお前はッ!誰がお前なんかに教えるもんかよ。これはアタシと大魔王様の二人だけの・・・」
うむ。
完全に誤解が生じておるな。
「そうか。それならそれでよい、売り払ったら大魔王様に代金が渡るよう手配しておくわい。お主も今日は早めに休むのだぞ?」
「ああ頼む。でももしかしたら今日も・・・うふふふふふふふふ」
このアンポンタンめ、大魔王様にご迷惑をかけていなければよいが!
ワシは即効で売人に渡りをつけドラゴンを換金すると大魔王様の執務室へと訪れた。
「大魔王様、昨日はご活躍だったご様子ですな?」
秘書アンジェリカはいない。
大魔王様に顔を見られて強制的に早退させられたウツケモノが。
「もう知っているのか。さすがはワレが信頼する片腕ジルベスト情報の速さもピカイチであるな」
「なになに。件のジュエルドラゴンを売りさばく役を仰せつかりましてな。1億魔国紙幣というところでしょうかの」
「手間をかける。入用なのだ」
「大魔王様がご入用じゃが国庫には手をつけないと。そしてこんな大金が必要となる者は・・ベノンですかな?」
魔王軍団長ベノン。
竜王のセイサン山脈に修行へ赴き悪魔をめとってきた男。
それを聞いて「何やっとんじゃコイツはアホか!」と心中で突っ込んだものだ。
あの悪魔、美しい容姿と優雅なたたずまいに抜群の叡智と戦略そして作戦遂行力。
これまでさんざん苦汁を飲まされてきた悪魔軍の総司令官だけはある。
悪魔国で悪魔王につぐナンバー2。ちょいと出会って引っ付く話などあり得ないことじゃというのに。
かたやベノンは魔王国で大魔王につぐナンバー2の武力を誇る魔王軍団長。
魔王国と悪魔国のナンバー2同士の超ビックカップルは今後の世界の行く末に影響を与えるほどじゃ。
そんなワールドクラスのイベント発生じゃというのに、ベノンという男は魔王軍団長という立場になっても身一つのスカンピー。
弱き者のために一銭も残らず使い果たす人徳者と言えるが、仮にも軍団長と呼ばれ数万の部下を率いる男のやることではない。
これからは「人の上に立つための心得を鍛えてやらねばならんな」なぞと考えていた矢先である。
ベノンは大魔王様がイチから鍛え上げた部下のひとり。
恥をかかないよう大魔王様が気配られているに違いない。
「決してヤツひとりを贔屓するわけではないのだが。相手も相手であるしなあ」
歯切れの悪い大魔王を見るにつけて微笑ましいやら羨ましいいやら。
「わかっておりまする、わかっておりまするよ。御心のままにされるがいいでしょう。枯れたジジイではありますが細やかにお手伝いさせていただきますれば」
「心の友であり魔王パーティの同士ジルベストよ。またお主に甘えてしまうワレはまだまだであろうか?」
「いえいえよくやっておられますよ、このジジイが見上げるほどに。ところでベノンに持たすにはまだ金額に余裕があった方がよいかと思いますが?」
「お主もそう思うか。ゼロがもうひとつ欲しいところなのだが・・・また明日も高額な魔物の取引を頼んでもよいか?」
「もちろんでございますが。むしろその前からお手伝いさせていただけますかな?なにワシも老い先短い身の上。元気なうちに魔王パーティの魔法使いとして悔いのないよう存分に魔法をふるいたいのですわい」
その日の夜。
大魔王の陰に続くのは魔導マントに身を包んだ大魔法使いジルベスト。身の丈ほどもある魔法杖を持ちフードを深くかぶる。
久しぶりの大魔王様とのツーショットランデブー。
ゾワゾワと鳥肌が立ち、誇らしい気持ちで気がはやる。
はやるのだが
「大魔王様すみませぬ、わが不肖の弟子が・・・」
二人を追走する影ひとつ。
一休みして入浴とバッチリメイクで待ち伏せしたアンジェリカである。
今日は次元収納に本格的なディナーとデザートまで収納して準備万端大魔王様を待ち続けたのだ。
しかし二匹目のどじょう狙いは残念ながらおまけつき。
「ほんっとクソだなあのジジイッ!!」




