<幕外5> タマネギランド 50year's old 3
「今日は大一番だな」
詰所で剣の手入れをするベノンがつぶやいた。
早朝に顔見知りの青年が今日から森に入ると知らせに来たからだ。連れていくのは単独でも狩りができる一人前レベルの子で十分に警戒して進むからと。
たしかにいつまでも森の恵みを享受できないわけにもいくかない。施設の子供たちはそこで生計の大半を立てるのだから他の選択肢はない。
悪魔達の狙いをもう少しハッキリさせたかったが仕方なしだ。
悪魔はここ数日完全に沈黙している。間違いなく手ぐすね引いて待っている。
今の静けさはヤツラが罠を張り終えて獲物がかかるのを待ち続けているということだ。
「やはり森だよな」
いつもの森を装っているが静かすぎる。
まるで一部の森を切り取った部分に同じ景色を描いた絵を貼り付けたように。
遠めに眺めていれば気付かないが、違和感を感じてしまえばよくわかる。
いつの間にかうまく隠匿されてしまったようだ。
身支度は万全。
ピカピカに磨いた武具たちを身に付けて立ち上がる。
敵の魔法攻撃も肉体攻撃も妨げるマント。名工が鍛えた魔剣プルデウス。光のごとく疾走するブーツ、筋力も魔力も倍加して魔剣に伝えるグローブ。
大魔王様から授かった賜りものだ。
魔王軍一番隊隊長ベノン。
彼は魔王を軍団長とする精鋭部隊の隊長を任されている。つまりは魔王軍において魔王につぐナンバー・2。
のちに魔王が大魔王となるにあたり軍団長の役を引き継ぐことになる男。
この当時は大魔王ともどもアチコチの地方に遠征して困りごとを解決してまわっていた時期である。
「さあ行くぞっ!」
魔導ブーツから蒸気が立ち上ると白煙を爆発的に噴射し一瞬で飛び出した。
稲妻の速さで街から森へと貫き眼下の広大な森めがけて魔剣プルデウスを勢いよく振り下ろした。
バリンッ!!!!!
ベノンと森の間に一瞬でビビが入り透明な破壊される轟音が鳴る。
悪魔がつけた「何もない静かな森」という仮面が砕け散ると、そこには今にも饗宴を始めようとする悪魔たちが魔人の子供を囲っていたのだった。
「あれはダナックくんだったな」
青年が話していた同行者の子供を発見、先日の肉祭りで見かけた顔だ。
ひとりで悪魔たちに捕まったのか?
全身裸でつるされ、悪魔の深い爪で何か所もおおきく肉を削られている。
気を失い無抵抗な彼には大きな傷が幾重にも走り、そこから流れ落ちる血流を悪魔たちが競ってしゃぶりつくそうとするのが見えた。
「もっと活きのいい筋肉が来てやったぞ!」
ムキリと上腕二頭筋を盛り上げるベノン。振り向いた悪魔たちは一瞬にして恐怖を顔に貼り付けた。
吊るされたダナックに堂々と近づくと、悪魔たちなぞ気にもかけずにに縄を切り負傷人を抱き上げる。
悪魔たちはその間ぴくりとも動けず、気が狂ったようにあぶら汗を垂れ流し続けた。
威圧。
あまりに実力に差が大きいと、威圧された相手は恐怖に硬直して動けなくなる。
悪魔たちはベノンの姿を見た瞬間に威圧され実力の違いを悟ったのだ。
「お前たちも報いをうけるがいい」
次の現場へとベノンが走り去ると悪魔たちの首が地面に転がり血をふき出しているのだった。
ブーツから爆音が響き、超加速したベノンは一瞬でもうひとつの魔力へとたどり着く。
そっと子供を木の根に寄りかからせて小さな防御結界を張る。
あの青年をいたぶっている悪魔。あんな雑魚にやぶられる結界ではない。
指を折り、引き抜き、かじり、ねぶる。
されるがまま痛みの反射で青年の体はビクンビクンと跳ね上がり、その度に悪魔はガクガクと全身を光悦でふるわせている。
「よお変態悪魔。こっちにビンビンの筋肉があるぞ」
またもやベノンは上腕二頭筋がビクンと力こぶを持ち上げたが、今度の悪魔は眉をひそめた。
「あら、わたしのご褒美をじゃまするつもりかしら?」
ベノンも大柄だがこの悪魔はその二回りもおおきい。
ジロリと見下す瞳に狂気がやどり、厚い唇からはしゃぶりつくしていた血がしたたり落ちる。
士官クラスの悪魔。
たっぷり礼をくれてやりたいが、子頭の良い悪魔が人質だとか言いかねない。
さっさと終わらせるに限る。
魔力を足元に集中すると、
バオンッ
ブーツが音を立てて反応を始める。
早く行けよ行こう行くぞ、と脚の裏に意志が伝わる。
腰の剣をつかむ。
切るぜ切るぜ切るぜさっさと俺を柄から抜けすぐにやれ、とやる気満々の意志が伝わる。
グローブだけは
あーめんどくせえなサッサと終わらせろこのノロマっ!
一部はまだまだ持ち主として認めてくれない。
大魔王様から賜るのはインテリジェンスなアイテムばかり。
意思のある武具たちは使用者を主と認めなければ力を発揮しない頑固者ばかり。
使いこなせるかは俺が認められるしかない。
解き放たれた魔力に瞬時に反応し、バヒュンッ、と光の速さで移動、
若者をつりあげている悪魔の両腕をズバンと叩き切る。
俊足快調切れ味絶妙っ!
意識を失った若者が悪魔の腕ごと落ちてくるから抱きしめる。
息はある。大丈夫だ。
悪魔の眼が見開かれベノンを凝視する。
すべては終わった。
悪魔は切断された腕の端からサラリサラリと黒い砂のように崩れていく。
「あ、あんた、な何者っ・・・・!!」
悪魔はその存在がサラサラと細く砕けて微塵となっていく。
絶望の恐怖を顔に貼り付けて叫ぶのが精いっぱいだった。
やがて黒い粉となり・・・風が吹いて空に飛ばされ消えていった。
「おれはベノン。顔を知られきたと思っていたがまだ思い上がってたようだな」
明日も夜更新します
よろしければぜひ




