<幕外3> タマネギランド 50year's old 1
魔王国最果ての街タマネギランド。
魔族人口で千人にも満たない小さな小さな街だ。
首都からはるかに延びる街道の終着点。
この先道は細い砂利道へと変わり、悪魔界や人間界の境界へとつながっていく。
首都からは早馬をとばしても一週間はかかる田舎町だ。
距離も遠く人口も少ない。代々の魔王が気まぐれに施す庇護も滅多に届かない。
それを知る冒険者や悪魔たちが度々出没して住民を脅かすのだ。
先々代の魔王が人間の勇者に討たれてはや百年。
魔王を中心に猛威をふるった魔族国家はすっかり力を失い、魔人たちは人間にすら狩られる弱小種族となり果てた。
魔人たちは辺境の地で逃げ回り目立たないようひっそりと生き抜くのが精いっぱいであった。
今となっては大魔王グラディウスを中心とした強大な国家となるにはまだ50年はかかる、国の立て直しが始まったばかりの頃。
この街の入り口に見張り台も兼ねた詰め所がある。
ずっと空き家で自衛団の若者が休憩場所に使う程度だったのだが、ある時から一人の軍人が常駐するようになった。
不法に侵入してくる他種族を追いだし襲われる住人たちを外敵から救う。
その軍人は大層強く幾度も救われた住人たちから尊敬されることになる。
気さくに話すようになると彼がなぜこんな田舎にやってきたのかが知れ渡っていく。
新しい魔王様はこれまでの魔人とは違うらしい。
すべての魔人が笑って暮らせる国家を造ると豪語する大魔神が国中を奔走している。
軍人は彼がこの街の守りを指示した部下であった。
そんな魔王が治めてくれればいい。
いつかそんな国になれるなら、自分たちの苦労は次の世代で報われる。
次につなげてくれる王ならば気持ちは同じだから。俺達はいいから子供たちは未来で笑ってほしい。
今日も俺は子供たちと森へ出かける。
俺の子供じゃない。田舎だから街の子はみな自分の子。
街の全員で面倒を見るのが当たり前だから。
狩人の俺は定期的に子供たちを森へと連れていき、生きる術を教えるのが役目になっている。
「今日は随分早いお戻りだな」
いつもの軍人が声をかけてきた。
まだお日様は天中を過ぎたばかりだから、普段ならまだまだ狩りを続けている頃だ。
「今日は豊作さ。これ以上は持ち切れないんで早めに切り上げてきた。よかったら夕方に来ないか?肉パーティだ」
土産の果物を渡すと大事そうに奥へしまいこむ。
人の好さがにじみ出る軍人。体はでかく日に焼けて筋肉隆々で大層強そうに見える。
「それはありがたい、後で寄らせてもらうよ」
こんなふうに楽しみを皆で分け合うのも田舎の良さだ。
パチリパチリと炭火にあぶられて肉から脂がしたたり落ちる。
肉の焦げるうまそうな匂いが充満し子供たちの口からヨダレがあふれている。
「ほれいいぞ。たっぷりあるから慌てずに食えよ」
子供がウマイウマイと騒ぎながら肉にかぶりつく姿は幸せそのものだ。
「やってるな。お邪魔するよ」
「あ、軍人さん!」
ベノンさんがいつもの軍服ではなくシャツにズボンのラフな格好でやってきた。
剣だけは持っているが甘い匂いがするバスケットも抱えている。
「土産だから皆で食べてくれ。もらった果実をさっそく使わせてもらった」
バスケットの中には果実を練りこんだおいしそうなパウンドケーキ。
結構器用なこの軍人は何かにつけて甘いお菓子を皆にくばってくれる。
手間暇かけて作ったものを自分だけが食べるんじゃもったいないらしい。
砂糖なんて田舎じゃ滅多に口に入らないから子供たちは大喜びだ。
「俺一人が楽しんだら楽しいはイチだが10人で楽しんだら楽しいが十だろう」
当たり前のように言い切る男がいる。それなら今の魔王軍は信頼できる。
「顔に粉ついてるよ、バッカでーいっ」
子供たちがキャッキャと笑い転げた。
お菓子作りで粉が付いたまま額の汗をぬぐったのだろう。白い線が額に一文字を描いている。彼が一生懸命にこのケーキを作った証だった。
「しばらく子供たちを連れて森へ出るのはやめた方がいいかもな」
炭の番をしていると軍人の顔でボゾリと漏らした。
「なんかあったのか?」
悪魔も人間の冒険者もちょくちょく現れる街だ。
改めて言うのだから何かあるんだろう。
「少なくとも暗い時間はやめた方がいい。最近夜中に悪魔の反応を感じることが多くてな。あいつらは闇にまぎれるのが得意だ」
結局ベノンさんは肉を二切れだけ食べて子供達にケーキを配り遊んで帰っていった。
今回から幕外です。大魔王の時間軸で昔話になります
ベノンとガストンの出会いの物語です。なんだかベノンが可愛そうになってますが本当は格好いいヤツなんですよ




