46. いたずら心
洋風トイレ?便器?興味はないが間違いなくクダらないことだ。
大魔王様の前でゴロゴロと転がりながら笑う不敬者の勇者。
一発ギャグ?人を笑わせる?誰に対して言っている殺すぞガキ勇者!
大魔王様と勇者ベッチーの面会が終わったのはつい先ほどだ。
秘書アンジェリカが模擬戦でぶっ飛ばしてしまった勇者。
久しぶりの大魔王様面会になる。
ベッチーはいつも通りの計算スマイルを振りまいているが緊張した様子が見てとれる。
いい気味だがその原因は「わたしがやっちまった」という罪悪感もあって、少々の不敬を見逃してやろうかと考えていた。
そんな自分の甘さに反吐が出る。
大魔王様をキョロキョロと観察した勇者。
それだけでも十分に不敬だというのにわからない。
挙げ句おなかを抱えて転げまわって大笑い。
緊張していると同情した自分を抹殺してしまいたい気分だ。
少々の不敬どころではない。死んで詫びるべき大罪。
暗器に手をかけ始末しようと踏み出した私に向かって気にするなと大魔王様が手をふってくださった。
甘い。大魔王様は子供に甘過ぎる。しかし私にとっては絶対的な存在。
不敬を許せない自分と絶対の大魔王様の指示に心で矛盾がうずまく。
人間の勇者に大魔王様がここまで笑われている姿。
怒りで額の血管がドクドクと脈打つのを感じる。
許せない。
これをとても現実のものだと思えない。
たとえ畜生風情の人族であっても許されることではない。
ならば私がやらなければいけないことは何だ?
・・・こうなるとわかっていながら大魔王様をこの椅子に座らせたクズに天中をくらわすことだ。
「大魔王様、わたくしに大魔王様の椅子を取り換える許可をいただけますか?」
大魔王様もお気づきらしい。
してやられた、とばかりの微笑みを浮かべられた大魔王様。
いつものポーカーフェイスが崩れて微笑みを?
普段ない楽しそうなご様子に鼻歌でも飛び出しそう?・・・いや待て私。私が不敬な思いを想像してどうする。
でも、それにしても。
スギュウウウンンンン!!!!!!
まるで号砲を打ち鳴らされたかのような衝撃がアンジェリカの魂を撃ち抜いた。
尊うとすぎる!
抜かれた。
撃ち抜かれた。
私の心核見事にこっぱみじん!!!
「ワレの執務椅子に関する交渉をおぬしに任せる。所詮は些事なことだ結果を受け入れよう。相手は・・・」
「わかっております。ジュディ科学庁長官でいらっしゃいますね?」
冷静を装う私の手、今だけは震えないで!
「それでは返品させていただきます。よろしいですね?」
魔法科学庁長官であり主席研究員のジュディ長官は、しかし眉を八の字に曲げて難解な表情を浮かべた。
「しかしこれは大魔王・・・様も認めた壮大なミッションの一部なんだよ」
旧魔王パーティの大魔導士。
私ですら手に負えない強者。だが正直気に入らない。
大怪我をした私を治してくれたらしいが…憶えてないからノーカンでいいだろう。私の足を治すついでに実験体にしようとして大魔王様に止められたらしい。
「大魔王様が実験台にならなければいけなり理由がおありですか?例えそうであったとしてもこの椅子はおかしい。なぜか魔人工学を無視した大きさとフォルム、そして使い勝手の悪さ。隙間なく執務をこなされる大魔王様に支障が出ますわ。しかも人間のいうところの洋式・トイレとかいう下世話なものであるとか!!」
「うん。議論したいならしようか?あれは大魔王様に直接関わる品だから本人にテストしてもらいたい。それ以外の誰かにやってもらってもたいした検証にならないんだよ。あのフォルムは機能を満たす必要な部品をつけていった結果だから椅子の機能は今後課題で現状は実験を優先している。
ついでにその洋式・トイレなるものは人族も個体によっては日々欠かさずお世話になる重要なアイテムだから。下世話かどうかは受け取り方次第だと思うけど」
ああいえばこう言う。
こんなのただの詭弁だ、達者にまわるその舌を引き抜いてやろうか。
「一見筋が通っているようですがおかしいですわね。ではなぜ人間の勇者が一目みて大笑いして転げまわったのでしょうか?」
「さて、なんでだろう?」
してやったりとニヤけるジュディの真意を図るアンジェリカだが、すぐに考えるだけムダという結論に達する。
学者先生の屁理屈にいつまでも付き合わされる必要を感じないからだ。
「お惚けになるおつもりなら結構。それでも大魔王様が人間に笑われた事実だけであの椅子を外す理由として十分ですから。もし、もし、もしほんとうに、機能だけを追求した結果があのフォルムだとしてもわが主を笑いものにはさせられませんもの」
理屈をコネくりまわす相手には事実をつきつける。
学者と現場、理想と現実の違いの応用である。
「まだまだアンジェリカちゃんはお固いね、おおげさに考えすぎだよ」
頭をコツンコツンと叩くしぐさ。ジュディとしては大魔王に仕える可愛い後輩へのアドバイスだがアンジェリカには宣戦布告として捉えられたようだ。
「ほう。たがだか人間に我らが大魔王様を笑われてもよいとお考えですか?」
ビジネススマイルを絶やさないアンジェリカだが目には冷めた光。
アンジェリカ鉄の掟第一条。「大魔王様に害をなすものは全て抹殺」が自動的に発動し、アンジェリカの眼が三角になる。
秘書服の袖の内側についているストッパーを仕草なく外すと手の平には使い慣れた極細の暗器が握られる。
本来誰にも気づかれることのない仕草だが、領域内のミクロン単位の動作すら把握するジュディは当然察知する。
そして短気な後輩にマッド・ジュディはあきれるのだ。
ヤレヤレと首をふり「面倒くさいなぁ」とグチるが仕方ない。自分への呪縛で殺人マシーン化したこの秘書を放っておくわけにもいかないのだから。
「勇者が笑ったのは<大魔王が変な椅子に座っている>という事象に対してだよ。大魔王を侮辱して笑ったわけじゃないからね。大魔王様とは長い付き合いだから想像できるけど、大魔王にとっては望ましい姿へ誘導できはずだからね」
研究室。殺る気満々のアンジェリカにお引き取りいただいた後のこと。
「思ったより簡単にバレたね。そういえば人間の勇者がいたんだった。」
まいったねと苦笑しながら助手のミッシェルに話しかける。
ジュディの研究についていける知識や能力に度胸と使命感、さらに茶目っ気に付き合えるユーモアセンスと度量が備わった貴重な助手である。
「ジュディ様やりすぎですよ。いくら実験には遊び心が重要とはいえ・・・・」
そういいながらも彼女が楽しそうにニヤつくのはジュディと同じ常駐スキル「いたずら心」が発動しているからだ。
純粋に物事を楽しむ姿勢を持つものだけが獲得できるこのスキル。人間であれば殆どが年を取ると消えさり過去の思い出となる。
だが二人はエルフ。長く生きる彼女たちはコジらせ期間も長いのだった。
「しょうがないか。もう椅子が戻ってくることは確定だし。大魔王にテストしてもらえないなら違う被験者が必要になるから大魔王に頼んでみよう」
「そうですが誰か協力してもらえるでしょうか?魔力や体力が魔王級に近い存在でないと一瞬にして抜け殻ですよ?大魔王様がテストする前提の設定ですから。」
それはそれで・・・・くくく。
怪しい呟きに二人は顔を見合わせてニヤリと笑みを浮かべるのであった。
次回からは昔話です
ベノンとガストン二人の仲良し?コンビが今へ続いていく物語
お楽しみ下さいませ




