43. 出会ってしまった三人と1人 その5
「さて話はついたようじゃな。では」
やっと悪魔王は去ってくれるらしい。
話しはついたが状況は混とんとしている。
ぶっちゃければ俺の周りが大混乱だ。巨大な流れに勝手に巻き込た感が満載だ!
魔王軍団長ベノン。
大魔王様に忠義を捧げ魔王軍を統括し魔王国を守護する男。
ただそれだけに全てをかけてきた男。
それが俺の宿命ではなかったのか?
「では魔王軍を束ねる大魔王にひとつ願いがあるのじゃが」
へっ?
何だって?
ニヤニヤと笑う悪魔王に邪悪なものを感じる。
魔王軍にスパイを堂々と放り込む宣言をしておいてさらに願い?
しかも魔王軍?魔王国に対してではなく?
この悪魔王はどうにも俺の心核を撃ち抜こうとしてくる。
わざわざ立てるフラグがイチイチくさい。なんだかきな臭いぞ?
「ほう。叶うかどうか別だが聞く耳はもっておるぞ」
こういう王様同士の化かし合いは裏だらけ。
裏で苦境に立つのは現場と相場が決まっている。
つまり俺だ。
「わが配下ゼブブが魔王国軍団長ゼノンどのと魂を分け合っておるという」
「ふむ。そうらしいな」
「悪魔の世界で魂を分け合うことが人間どもの婚姻とは遥かに異なるがわかるじゃろう?」
したり顔の悪魔王に対して胡乱な顔の大魔王様。
「意味するところを問おうか」
待ってましたとばかりに悪魔王が身を乗り出した。
怒涛の語りラッシュが始まるのだ。
「魂魄は輪廻を繰り返す。魂魄を分け合うとは何度生まれ変わろうとも、どれほど違う種族として転生しようとも互いの魂は合わせてひとつ。それは変わることはない」
「たとえ今世で死に別れようとも来世でまた契る。再来世でもその次の世でもお互いの魂が完全に尽きるまでめぐり逢い重なり合い続ける」
「行く先が悪魔であろうと魔族であろうと人族であろうと。獣であろうと虫ケラであろうとどこまでもじゃ」
連続して滔々とした高説をぶちあげる悪魔王。
間違いなく俺に向けて話しているのはきっと気のせいではない。
「ワシに数百年も仕え続けたゼブブが今世で魂を分けあった片腹と出会えたのじゃ。是非にでもワシはこの二人を祝福せねば気が済まんのだよ」
悪魔王の祝福?
それはどう受け取っても世界最悪の呪いじゃないのか?
「ゼブブも今しばらくは余裕があるまい。しかし仮にも悪魔軍のナンバー2じゃから時間もかからず気に召すじゃろう」
俺の横ではゼブブさんが「ハハッ!」と敬礼している。
ん?
「ワレが焦らせる気はないが。しかしお主が言うのであればそうかもしれん」
「しばし時を経た後でかまわぬからゼブブを一度悪魔国へ戻してくれぬか?悪魔軍の引継ぎもあろうし正式な場での発表もせねばならんでな。わが国のナンバー・ツーの爵位変更と婚姻を!」
高らかに宣言する悪魔王。
悪魔王が興に乗って周囲が幸せになることは有り得ないだろうに。
「そういうことであれば止める理由なし。頃合いになれば一度悪魔国で必要なことをさせるがよいだろう。」
「そうかご理解もろうて感謝するよ!ではゼブブまずは魔王国で大魔王に認められて見せよ」
「ハッ!」
「落ち着いたら報告もかねて一度ワシの元へくるがよい。ああところでゼノンどの?」
・・・ほらきた。
この悪魔王さっきからポイントポイントで「どの」を強調するがそういうタイプなのか?
「ご無沙汰しておりますね。悪魔王サターン殿」
俺達一般兵士ができるのはポーカーフェイスに決まっている。
言霊は大魔王様が語ってくださる、なら俺達が口出しはなしだ。
「おぬしとゼブブは魂の片腹で片時も離れられぬらしい。ならばゼブブが悪魔国を訪れる際にお主とも会えるということじゃな?」
ああそういうことか。
なるほど理解した。
何時からかはサッパリわからないが俺は既に「伴侶がお世話になっている上役」と話しているわけだ。
脊髄反射で生まれる「なぜそうなった?」という心の叫びは魂の奥底で金庫にしまいこむのが大人の対応だろう。
「そうなるかもしれませんね」
「カッカッカッカッカ!そう照れるでない。ワシは楽しみにしておるよ大魔王の右腕と語らう日を!ぜひお主の腕っぷしを見せてくれ!悪いようにはせんからの!!」
・・・腕っぷしっ?
引っかかる単語は放置すると言質を取られたことになるのが鉄則だ。
頭部が八つに分かれて火炎と光線を吐く大怪獣と同じ檻に入れられた自分が浮かぶ。
檻の外では悪魔王が俺の苦境を大爆笑しながら酒を飲む姿とともに!
大魔王様を見るとムスリと薄目が俺の方に向けられたが。目線に気づくと小さくコクリとうなづいた。
さすが陰謀策略を何重にも張り巡す悪魔族の王。
流れるような必然を強引に作り出して俺を追い詰める!
横で片膝をつくゼブブさんの瞳が不安そうに潤んでいる。
ブルーサファイアの瞳に輝く透明な雫が今にも溢れそうだ。
俺の逆境を気にかけてくれているのか二人の関係を危ぶんでか。
-弱き者を守ってやってくれ。お主ならできる。-
大魔王様と交わしたあの日の誓い。
俺は死ぬまで誓いを違えることはない。
五体が微塵に爆散しようと守り切るのが俺に与えられた役目、それが軍団長である俺の宿命なのだから。
「大魔王様の右腕の力、悪魔王にもとくとご覧じろう!会いし語ろう日を俺も楽しみにしておく!」
俺も大魔王様の右腕と呼ばれた男だその名に恥じる行動はできぬ。
今日は生まれて初めて王と名のつく相手に啖呵をきった日になったのだ!
「カッカッカッカッカ!それではワシはこれで失礼するぞ!大魔王よいろいろと感謝するぞ!カッカッカッカッカ!!」
悪魔王の気配が過ぎ去り残った魔王宮。
大魔王様が片腕をふって声をかけてくださった。
「うむ。とりあえずベノンとゼブブはこれで下がるがよい。勇者ベッチーも含め3人の退出を許可する」
力なく大魔王様が「とりあえず」を口にしたのは俺が仕えてから初めのことだった。
いつの間にか厄介ごとに巻き込まれてその中を突き進んでいく、そんなベノンです
今年最後の投稿になります
読んでくださった方ありがとございます




