41. 出会ってしまった三人と1人 その3
一瞬の静寂の後。
大魔王様が椅子に腰を下ろす音が響いた。
「クックックック」
額を抱えて目をつむる大魔王様はそのまま不敵な笑みをこぼす。
「ハーッハッハッハッハッハッ!!!!!さあどうする?悪魔王!!!!!!!」
大魔王の笑い声が響き渡る。
誰もが目線を泳がせる中に悪魔王の声が陰々と響いた。
「ケッ!つまらん、まったくつまらんの!!」
あるはずがない悪魔王の返答が王宮中にコダマする。
不機嫌きわまりない感情を一切隠し立てすることなく、大魔王を嫌味るように憎々し気に続く。
「ワシが悪魔軍の総司令官を任じたゼブブよ、先の言葉に偽りはないか!!」
悪魔ゼブブはゆるぎない意志を宿した瞳で声のする空を見上げた。
「悪魔王様、わたくしの口上には一切偽りはございません。たとえ今この場で悪魔王様に滅せられようともでございます!」
その瞳からは強い意思がオーラのごとく渦まき、彼女の決意が不退転であることを全員が理解する。
悪魔王サターンの不興を買えば1000年の呪われた後に魂の輪廻すら滅する。
不興を買えば指先ひとつで奈落行きである世界一の暴君王。
恐怖の悪魔王に歯向かったのはこの一千年でただひとり大魔王グラディウスのみ。
「では聞こうではないかゼブブよ!おぬしは悪魔軍総司令官を辞し悪魔たることから逃れ、ワシの仇となるということか!!そうであるならば望み通り今この場で滅してくれようぞ!!!」
悪魔王の怒気をはらんだ真っ赤なオーラが部屋中を染め上げる。心に迷いや弱さを持つものは魂を悪魔王に握られ終生の傀儡となる冥界のオーラ。
一気に膨れ上がった深紅のオーラの嵐が吹き抜けると、物音ひとつたたない静寂が支配し主役はゼブブへと切り替わる。
悪魔ゼブブは目を閉じると優雅な動作で両手を天にかかげ。
そして悪魔王に向けて目を見開いた。
「わたくしが信奉し敬愛する悪魔王様の仇になることはありませぬ!私が奉じるのは悪魔王様から賜る役割のみ、わたくしが果たす宿命は悪魔王様と悪魔国への貢献のみでございます!」
「であるなら今すぐ悪魔軍へと戻りその任を果たすがよい!悪魔軍総司令官ベールス・ゼブブよ!!」
「それはできませぬわ、わが敬愛する悪魔王サターン様!わたくしとベノン様は同じ魂を分かち合いし者、出会ったが最後離れることはありえません!!!」
互いに引くことのない問答の衝撃にガストンは自分の心が裏返っていくことを自覚する。片時も見落とすことがないよう見開いた瞳はいつぞや以来のカピカピである。
すげえ。それしかない。
俺は団長と魂を分け合ったらしい悪魔を驚嘆の思いで観察する。
なぜだ?
世界最強の大魔王様と世界最恐の悪魔王なんだぞ?
なぜこの女は大魔王様と悪魔王に一歩もひかずに啖呵を切り続けられるんだ?
驚きを通り越して敵である彼女を尊敬してしまう俺がいる。
ベノン団長の副官として数々の修羅場を乗り越えてきた。
そんな俺が同じことをヤレと言われるならスッパリと断らせてもらう。ムリなやつだ。
秒もかからず脊髄反射で断りを入れた後、二度と口にするなと相手を叱るに違いない。
悪魔王が魔王国を滅ぼしにきて俺一人が対峙しているとか。そういう特殊な状況ならそれは有り得るかもしれない。
魔王国を守るために自分の命を使う時だ。
俺は1000%敵わないとビビリちらかしても時間を稼ぐために啖呵をきるかもしれない。あるとするならそんな状況だけだ。
だが今目の前で広がる光景はそんなのじゃない。
あの悪魔は自分が愛する男のために全てをすっぽかすと宣言しているだけだ!
言いたくはないがこの女は悪魔王に自分のわがままを押し通す気まんまんだすごすぎる!
しかもなんとなく”愛に殉ずる定め”みたいな恰好いいことを宣言し続ける、おかげでお二人の怒りを絶妙にすり抜ける。
どれだけの計算と度胸と実行力なんだスゲエ悪魔軍総司令官!!
誰も気づいていないのか?
ベノン団長はこの悪魔に愛を誓っていない。
悪魔は二人の深い愛を当然のように語っているがこれは全て彼女の妄想だ!
団長がこの展開を全く理解できていないことをいいことに、悪魔の思いこみが深すぎる!
「それな!!!!」
団長から強烈な念話が入った。
でもちょっとだけ情けなくないですか?呆れてますよ俺は。
お相手は世界の王様たちに啖呵切り続けてるのに団長ときたらこっそり俺に念話ですか?
「そうなんだよな、それな・・・」
わりーんすけど俺あの悪魔そんけーしちゃってるんで。
ハートの強さと度胸と機転はもうワールドクラス、いや大魔王様と悪魔王に啖呵きってんすから世界トップクラス。尻にひかれる団長が目に浮かびますよ。
「だよなー・・・」
団長からはやっぱりそだよな、なんでこうなってんのかよくわかんないんだよな、とため息交じりの嘆きが入る。
あなたもイヤじゃないくせに。
「ああ。初めて会った際に守らねばならんと思ったな」
ホラやっぱり。だったらいいじゃないっすか。
っつーか今この瞬間姉さんを守ってやらなくていいんすか?
「あ、姉さん?お前いつの間にそんな呼び方になったのだ??」
俺の「守らなくていいのか」は華麗にスルー。
そこは触れちゃいけないところ、わかりますわかりますから俺もスルーですけど。
ここで何かするのはステージ上の名演技に素人が客席からチャチャ入れるようなもんですしね。
あなたはサッサと腹をくくるしかないですよ。
なにせあの悪魔は大王二人を説得しちゃってるんですから!
「え?そうなの?」
そりゃそうでしょう。
大魔王様と悪魔王が認めたのに逃げられると本気で思いますか?
「だよなぁ。なんでここまできたかはわからんけど、きちゃってんだよなー。」
むしろよかったんじゃないっすか、あんなに美人でかわいくって団長のことがほんっきで大好きで、超一途でそのくせ頭がよくて度胸があって。マジで最高の女性ですよ。
「・・・だよな?」
間違いなし!
「だよな・・・・・」
それっきり団長からの念話はプツリと切れた。
いやはやラッキーだ。
もうここまできたら止めるのムリ。どう考えてもムリ。
いまさら「おまえが抱きしめろっていったから」とか団長が言い始めたらどうしようかとドキマギした。
分かりずらい部分はガストンが説明してくれてます
そういう役回りになってしまいました
ありがとございます




