33. ゼブブの想い
悪魔の骨格である優雅さをわかって下さる殿方を前にして。
なんなのこの体たらくは!?
ホホをさわると傷だらけ。血の塊がこびりついてお化粧もボロボロ。
髪をさわる。時間をかけてきれいに束ねた髪がクシャクシャ血のりでガチガチ。
首筋、腕、全身が同じくボロボロのドロドロのベトベト。
軍総司令官のプライドだった軍服は・・・最強の軍服はもうただのボロ切れ。
乙女の柔肌が際ど過ぎるところまで露出している。これじゃ優雅な淑女どころかアバズレの露出狂。
なぜ?なぜ今までこれで平気だったの?
脳の血管切れそう。
これは私じゃない!
こんなの私じゃない、私であるはずがない、
でもこれが今の私じゃない!!!!!!!
「きゃああああああ!!!!!!!!!」
頭の中が真っ白になって遠くに自分の叫び声が響いた気がした。
・・・なんで?
いつも私は頑張ってきたじゃない。
誰よりも遅くまで訓練して。誰よりも早く起きてスキンケアして。お化粧して。髪を整えて。
礼儀作法も流行も絶えずアップ・デートして。
総司令官としての激務だって優雅に見せながら必死でこなしたわ。
どんなに疲れていてもどんなに眠くても一切顔に出さなかった。
勝手に出てくる目の下のクマも荒れるお肌だって必死でお化粧でごまかしてきた。
睡眠だって仕事。無駄な時間は1秒もない過密スケジュール。
小さいから女だからってなめられることないように。
総司令官として頼れる私、怖い私、冷酷な私、強い私。
完璧に演じてここまできたのに。
いつか私の心の同士と出会う日のために。
私のすべてを笑顔で受け止めてくれる運命の相手と出会う日のために。
なのに。
なのに。
なんで?
なんで今日に限って私は完璧な私じゃないの・・・?
一番大事な日なのに。ずっと待ってた日なのに。
幼いころから一切気をゆるめることなく張り詰めた緊張の日々。
これまで数十年も頑張り続けた私。
周りが遊びまわっていてもひたすら優雅を求め続けた私。
あの小さかった私の頑張りを今の私が裏切っちゃったの?
ポロリ。
優雅に涙は似合わない。
ポロリポロリ。
眼がはれる、お化粧が落ちるじゃない。
ポロリポロリポロリ。
数十年ぶりに私のお目目からしょっぱいお水がポタポタと流れて落ちていく。
「うわあああああああんんんんんん!!!!!!!」
口惜しくって哀しくって。
今の私がくやしがってる。
昔のわたしが泣いてる。
いままでの全てが無駄になった。
なんにも考えられない頭のなかで自分の泣き声だけが響き続けた。
「大丈夫だ、大丈夫だ」
優しい声で我に返る。
あたたかい・・・抱きしめられた。
包まれる。やさしい気持ち。
嬉しい。うれしい。
あの時の子供の私も、今の私も。途中の私も。
「大丈夫だ、大丈夫だ」
もう一度いってくれた。
頭なでてくれた。
優しさがジンワリと染み渡る。
頑張ってきたワタシ。
頑張ってるワタシ。
今日にかぎってうまくできなかったワタシ。
全部全部受け止めてくれた。
嬉しい。
嬉しい。
嬉しい。
嬉しい。嬉しい。嬉しい。嬉しい。嬉しい。
あげる。
ささげる。
私の全て。
身も心も。
愛も忠誠も。
誰よりもあなたに尽くし
誰よりもあなたを守る。
誰にも侵させない。
誰にも邪魔させない。
あなたが死ぬまで。
わたしが死んでも。
あなたを困らせるすべてから私が。
亡霊であろうと怨霊になろうと。
あなたの敵の前に現れて。
守って見せる。
屠って見せる。
私のこの愛を優雅に貫いてみせる!!!
「ガストン、ガストーーーン!!」
竜王様から念話が入ってるけどなぜこんな時にくそったれめ。さすがに竜王様はシカトできねえけど。
「ちょ、今いーとこなんすから邪魔しないでくださいよ」
「いやそうじゃないだろ!いいのか?これ?」
まったくの想定外な流れっすけどね。
「ワシが大魔王様から聞いていた話と随分違うぞ!悪魔軍の総司令官がベノンに決闘を申し込みにくるって話だったが。なんかぜんぜん違くねえか?」
いやいや竜王様。この展開を始めから読めるヤツなんて存在しませんって。
「だいたいあいつらさっき出会ったばかりだろうが!?なんの花咲くことがあるんだよ!」
世の中ほんとに一目ぼれってあるんすねー。
「そんな感じかなとは思ってたんすけど。よくわかんないっすけど歯車がいっこはじけて飛んで、しかも偶然違うところにピッタリはまって全体が逆回転始めたっつーか。うまくいえないんすけどね」
「ベノン殿は大丈夫か?悪魔の愛憎は全種族の中でも一番深くて怖いヤツだぞ?多分いまあの悪魔すっげー怖いこと考えてるぞ!間違いない!!」
いやそう言われても。俺はただの部下っすから。団長の。
魔王軍団長と悪魔軍総司令なんて雲の上っす。
今ココで何か出来るのは竜王さまだけっすよ?
ここはしかるべき立場からバシッとやっちゃってもらうしかないんじゃないすか?
「ワシ竜ぞ?わかるわけないだろ何をすりゃいいのか教えてみろ!その通りにやってやるから!」
恨みがましい言い方しないでくださいよ。だいたいなんで皆さん俺に聞くんスか。
そんなの聞かれたら俺が言うことなんて決まってるでしょうに。俺ただの下っ端なのわかってないですよね?
「・・・大丈夫っすよ!ベノン団長は大物なんで!」
俺ができるのは竜王様に気休めをいうことだけだっての。




