32. 地獄の修行 5
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竜王の目を通してみる悪魔軍総司令官は、叫び声をあげた後はわんわんと大きな声を響かせ赤子のように大粒の涙をこぼし続ける姿が続く。
年を経て、立場を得て、自分を磨き続けたヒトカドの者がここまで感情露わにする。
誰にでもわかりることだ。
自分の魂が震え鳴いているのだ。
在りたいと願う姿と今の自分の格差。
心中察するばかりである。
「・・・で、ベノン団長どうするんすか」
副官ガストン、なぜお前はいつも面倒ごとを俺に丸投げしてくるんだ?
いや、確かに流れ的に俺がマントをかけたせいで泣いてる感じだが、なぜ泣かれている?
もしかしてハラスメント的なあれか?
え?俺、やっちゃった?
「・・・ワシも尋ねよう。どうするんじゃ?」
竜王殿までなげてきたよ、やっぱり俺?俺なの?
わかんねーよこんなの、俺は普段からガチ筋肉で汗臭えゴリ男しか相手してねーっつーのに、こんな細くてキレイでちょっといい匂いがしてちょびっと触れた肩や腕もやわらかくてなんだかポワポワした気持ちになるようなの、どうすりゃいいのよ!
「・・・なあガストン、どうしたらいいと思う?」
ガストン、たまには副官らしく俺をサポートしてくれ。
どうすりゃいいんだ?
「とりあえず・・・」
「むっ?」
「やさしく包み込むように抱きしめればいいんじゃねーっすか?」
はっ?
・・・・・
何言ってんの?
これはあれか、彼女がハラスメントに怒髪天ぶち切れて俺を刺そうとしてくるのを拘束して止めるってことか?
刺されるのか俺?抜き手か?ブスッとか?
「それでさっきみたいな歯の浮くセリフで決めればいいさ、木っ端みじんになればいい!」
おいおいガストン。
刺されるんじゃなくて爆発?
超至近距離から爆裂魔法を受けろ、そういうことか?
俺もしかしておまえから嫌われてる?
俺が頼りにしているガストン、こういうときに下らない感情を差し込む男ではない!・・・ハズ・・・だ・・・。
いや、割と面白ければそっちへ流れる的な・・・いや、それはふざけているときだけ、なハズ・・・。
聞いておきながら信じられんようでは友ではない、やるよやってみせるよ見とけよ男の散り花を!
でも、何かあったらお前も共犯だからな、ちゃんと助けてね、お願いしたよホント。
泣きしぐれるゼブブさんを、俺はできるだけ優しく抱き留めた。
もう、赤ん坊や鳥のひなを抱き上げるがごとく。
びっくりして俺を見上げるゼブブさん。
「大丈夫だ、(俺に悪意はない、あなたを害することはないから)大丈夫だ」
幼子をあやすように。自分を見失いかけた小動物をなだめるように。
しかし俺の言葉のせいか、きれいな瞳にまたもやジワアと涙がたまる。
泣きそうになりながら見上げてくるきれいな顔は、まるで幼子のようだ。
守らねばならぬ。
か弱き者は、守らねばならぬ。
それは、大人の役目、軍人の役目。いや、俺の役目。
大切なものを守ること、これは俺の使命だ。
いつまでも泣くでない。
ゆっくり気づ付けぬよう、頭をなでる。
泣くな、俺がそばにいる。
「大丈夫だ、大丈夫だ。」
声を出さず、しかし透き通る瞳から流れ続ける涙が美しく輝いていた。
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