31. 地獄の修行 4
竜王の目を通して魔王軍団長のベノンを見る。
かなり強くなっておるな、修行前とはオーラの濃さが深い。
魔力、筋力、精神力。全てが大幅に上がっておるが、一番誇らしいのは魂の器が大きくなっておることだろう。
いかに強大な力を持つ者でも、矮小な魂の器では真の意味で大成することはない。
わが直属の配下に臨むは単純なこと、未来の魔王たる種が埋まり、育つことである。
一皮むけた漢。
三日会わざれば括目してみよ、まさに体現させおるとは見事である。
さて、一皮むけたベノンがこの場をいかに裁くか?
「われは悪魔王サターン様の腹心、悪魔軍の総司令官をまかされておるベールス・ゼブブ。魔王軍団長ベノン殿とお見受けするがいかがでしょうか?」
ふむ。
悪魔王はゼブブ殿のことを「こだわりの強いタイプ」と評しておったが・・・
悪魔軍の厳格な軍服はボロボロで穴だらけ、体中も傷だらけであるな。
しかしそんなものを歯牙にもかけぬ堂々とした口上。
魔王軍の配下にある竜王宮でも、いっさいのためらいなし。
悪魔王もよい配下を持ったな。
「いかにも我が名はベノン。悪魔軍総司令官ベールス・ゼブブ殿、お会いできて光栄だ。しかし・・・」
ベノンはツカツカとゼブブ総司令官に近寄り、自分の纏うマントをはずし、やさしくゼブブにまとわせた。
「歴戦の身なりであろうそのお姿にも貴殿の美しさには優雅さが宿るが、我らには少々まぶしすぎるようだ。粗末なマントで申し訳ないが、俺の目が視界を失わぬよう、しばしその容姿を秘めていただけると助かる。」
ベノンがかけたのは、魔王軍軍団長と大魔王様だけが纏うことを許され最高級品である。
その滑らかさ、優美さはほかの追随をゆるさず、表面はビロード状で美しい光沢と高級感とやすらぎと安心感を与える。
魔王国の名工が編み出す「THE・マント」は天界や悪魔界などの他族の王族に対してのみ贈られるが、一般に出回りはしない。
悪魔国で所持しているのは唯一悪魔王のみ、それも宮廷儀式の際に侍女たちが恭しく悪魔王に捧げるマントである。
ゼブブは審美眼の高い女である。
肩からかけられたそのマントが、肌触りが、ぬくもりが、光沢が、軽く緻密で繊細なくせに安心感を感じる作りが、そしてその全てを内包した優雅さが、自分がこれまで触れることすらなかったこの世の最上級品であることを感じ取った。
このマントから、そしてマントをかけてくれたこの男から伝わる、なんという優雅さ。
自身の中からあふれ出るポワンポワンとした温かい気持ちを感じる。
自分が追及してきた優雅さが共感されたような嬉しい気持ち。
ゼブブは幸せの絶頂のなか、自分の服装を手探る。
何かミスしていないか?
"優雅さをわかっている"人の前で、下手な自分を見せられない。
髪は、お化粧は、服装は乱れていないか?
この人には自分が同じレベルで話ができると伝えたい。認められたい。
天にも昇る気持ちの中で、その手に伝わる違和感にマントの下を覗く。
「きゃああああああ!!!!!!!!!」
おいおい、なんだこれ。
どうなっているんだ?
命からがら竜王さんの城まで辿り着いたら、悪魔がいた。
しかもめっちゃ強ええ。見りゃわかる。
魔王軍の副官の俺がまるで勝てるイメージがわかない。
驚いたのはそれだけじゃない、なんだあのお色気満点の悪魔は。
チラりずむの極致のように絶妙に破れてはだけた軍服なんだ?
元がキッチリとした正装で乱れているから、余計に・・・アレだ。
えらいクールな美人さんなんだろうが、髪も乱れて傷だらけなのは置いといて、どんなヤツがあんな絶妙な破れ方させたんだ?
あんなにボディラインのいいところを絶妙に見えるか見えないか、偶然が生み出すとはとても思えない匠の技だ。
双丘もしたち・・・下部からいいところまでやぶれて、しかしその女神の蕾を絶妙に隠す憎い布きれ。
腰、脚、胸、臍、背中・・・なぜだ、なぜそこまで、サービス過剰だろう。
エロい、絶妙すぎる!
乱れてるところも傷だらけのところも、コスか?あれはコスプレなのか?
いやわかった、俺は魔王軍の副官ガストン、まだ焦る時間じゃない。
あれこそ、悪魔の"魅了"に違いない。
もし、仮にこの悪魔もセイサン山脈を登ってきてボロボロなんだとしたら、
もしそうなら、この雪山の試練自体がエロいとしか思えねえ。
いや、竜王様がエロいとしか思えねえ。
狙ってできるもんじゃない。
あきらかにワザとだ。
しかし竜にそんな感覚あんのか・・・?
チラリと竜王様を見上げると、目が言っていた。
"んなわけねーだろボケ!お前、誰にたしいてそれ言ってんのかわかってんだろうな?死ぬぞ?"
見なかったことにしよう。
しっかし、ベノン団長は随分格好良くなったよなー。
山登る前の、俺には力がねーとかいってヘロヘロだったはずなのに、なんか顔の表情もキリッと精悍で余裕のある男って感じを漂よわせている。
うーん、できる男?アピール?勘違い野郎?
一皮むけたような、なんちゃってなような、格好よく抜けきらない微妙なところがあの人のいいところだ。
間違ってもガッチリ2枚目、のタイプじゃない。よくて2.5枚目だ。
ベノン団長がやさしく悪魔にマントをかけてあげている。
なんか勘違いしてない?自分に?
3枚目よりの2枚目ってわかってんのか?
だいたいあのマント、あれってそういうことしちゃダメなヤツでしょ?
たしか大魔王様と団長しか使っちゃダメだったよね?
それがなくても、おっさんが山登ってちょー汗臭いマントを体に巻き付けられたら、俺が女だったら、引く。絶叫もの。
または泣く。
いくら高級品でも気持ち悪すぎて。
ふつうに誰かに何かもってこさせりゃいいだけじゃねーの?
だいたい、敵の将に正面からマントかけるなんてそのまんま刺されても文句いえねし。
このあいだ悪魔王とはいったん手打ちになったけど、普通に敵だし。
さらにくっせーマントかけられて。
普通に刺されると思うけど。
ズボッとか抜き手で。
ホラ悪魔、いっちまえ、こんなくせえマントかけやがって、とか言ってズボッと。
なんかこのおっさん妙な自信ついてるみたいだから、頭冷まさせろって。
たぶんだけど死なねーから。
やった方が本人のためだから。
ほら、ブスッと。
やーれ、さーせ、ぬーきて、さーせ。
俺の応援は届いていないようだが、悪魔は悪魔で気に入らないようだ。
ベノン団長をガッチリ睨みつけている。
悪魔団長、本気でベノン団長に魅了かけようとしていないか?
団長を見つめるまなざし、熱くない?
熱い瞳で見つめてくるボロボロになっているいい女。
シチュエーションはバッチリだが・・・なんだか悪魔は指をモジモジさせている。
かと思えば髪の毛をさわったり服を気にしたり・・・
あれ?
まさかの魅了されたのは悪魔の方か?
恋か?恋が生まれたのか?悪魔と魔人の恋か?
ちょっと待て、ベノン団長はそういうタイプじゃないんだ、勘違いしてズッコけるタイプなんだ!キャラじゃないからやめてやってくれ!
「きゃああああああ!!!!!!!!!」
自分のセクシーコスチュームに気づいてない方だったか・・・それはないと思ってたけど。
あんだけ・・・ナニだし。
普通気付くと思うけど、思い込み?強い方?・・・みたいな?
気づけばやっぱり叫びだすよなー、羞恥心で。
絶妙すぎだもんなー破れ方が。
こりゃやっぱり竜王さまのしゅ・・・しゅ、しゅ、しゅっぽっぽー!!!
に、睨むなよな・・・竜が睨むと迫力あんだからよ。




