30. いつかの友に
「大魔王様ご無沙汰しております」
廊下ですれ違った院長の念話に手をあげて返事をする。今はまだ授業中。扉をそっと開けて教室に入る。
並んだ席の後ろからいつも通りに子供たちの様子を眺める。
教師は一瞬恐縮したようだが子供たちに気取られることはない。
見学中の大魔王はいないものとして扱うルールだ。
頭をかきながら必死に計算に挑むこの子らのなんと眩しいことか。
この輝きこそ未来の魔王国を造るのだ。
皆へ約束をしよう。
必ずや「未来」を残すと。
誰にも邪魔はさせぬ。
学ぶ子供たちの素の様子をおさめるためのコッソリ授業参観であるが、いつも誓いを立てずにはおれぬ。そのためのワレなのだから。
次の授業は外に出て剣術と聞いている。
子供たちに気取られぬよう座学が終わる前にそっと教室を出る。
顔を変え、身軽な恰好となって運動場へと向かう。
剣術の授業ではワレも手伝うのが恒例だからだ。
講師をするのはもともと魔王宮の剣術指南であり旧知の達人。
ワレを見て動揺することなどあるはずがない。
目線で挨拶してくるが気づくものは他におらぬ。
「どうだ、最近は」
「みんな頑張っておるね。新しく入った子も元気がよろしい」
始めてみる助手先生が剣術先生と話してる。
素振りをつづけながら必死に聞き耳をたてた。
お、俺のこと話してくれてる。
先生の知り合いだったら魔王宮の偉い人かも。
細くてあんまり強そうに見えないけど・・・文官の人かな?
せっかく褒めてくれたんだから。ちょっとアピールするために先生のところへ走って行って、先生と助手さん?に大きな声で挨拶する。
「よろしくお願いしまっす!!」
元気なヤツと思ってくれたらいいんだけど。
アピール大事。俺は少しでも早く魔王宮か魔王軍に入りたい。
入れるならどっちでもいい。
忠誠を誓った自分の君主にお仕えしたい。
今すぐにしたい。
この小さな体がもどかしい。
挨拶を受けた助手のおじさんは俺の頭を愛おしそうに撫でてくれた。
その手のひらはどこか懐かしい感じがした。
俺が学び舎へ通うようになって半年も経つ。
魔王国の流儀にも随分慣れてきた。
魔人に生まれるとすぐに魔王国が運営する宿舎で共同生活を送る。
成体になるまで数年から十数年の間そこで過ごす。
学びたいものは学舎へ通うし目指す職があるものは見習いとして修行する。技術を学びたいものは職人に弟子入りする。
どの道でも極めれば魔王宮で働くことは可能だけど頭か腕を磨くのが一番の近道だ。
魔王様の側近となって前世で受けた大恩をお返しする。
剣や武術をきわめて魔王軍に入るか、政治や経済・外交や法律をきわめて文官として王宮につとめるか。
どちらにしても大魔王様のお役に立てるなら剣となりペンとなってみせる。
救ってもらった一族の恩を返すために。
助手先生に稽古をつけてもらう。
細い体なのに平気な顔して俺の全力を受け流して嬉しそうに笑っている。
王宮の魔人ってこんな強いの?それとも実は見た目と違って魔王軍の戦士とか?
ちょっとくらいは強いと思ってもらえたら嬉しいんだけど・・・何とか印象に残りたくて最後にもう一度名乗ってみた。
どこにチャンスがあるかわからないから。
礼を交わして汗を拭きながら。大きな声で助手先生の目を見てしゃべる。
「ありがとうございました俺の名前はゾルトです!すぐにでも大魔王様へお仕えしたいと考えてます!頑張りますので紹介してもらえる話がありましたらぜひ教えてください!いつでも結構ですよろしくお願いします!!」
ちょっと強引だったかなと思ったけど助手先生はフフフと楽しそうに笑って応えてくれた。
「あわてずにじっくりと研鑽するがいい。いずれ王宮で相まみえよう」
悪魔軍ゾルトは無事に転生したようです
がんば!




