29. 勇者とメイドと日常と
「メイド長にして勇者のお世話係ヴエンディよ。その後の勇者はどうだ?」
魔王宮謁見の間。
勇者キャサリン・ベッシリーニの世話係を任命したヴエンディに問いかける。
かの勇者がワレに仕えて早1か月経つ。
人族が勇者に託したやも知れぬ悪だくみも今のところ表に出てはこない。
むしろ勇者は凝り固まった魔王軍に異質な風を吹かせ、それが凝り固まった軍部へ良い刺激となっている。
「勇者殿は大変魔王軍に溶け込んでいらっしゃいます」
ワレの掴んでいる情報通りである。
「軍部の技術向上心と職務に対する意欲。勇者殿が刺激となり大変旺盛であるかと」
良い傾向である。
「また見方次第では軍部の多くが勇者殿に誑し込まれております。」
・・・
感情を差し込むことなく笑顔で行う報告が見事である。
プロ・フェッショナルとはこうでないとな。
「よい。軍部の忠臣をワレが疑うことなどあり得ぬ」
王がその臣民を想い信ずることは当然のことだ。
そんな報告があった日の夕方のこと。
「勇者殿。教練でお疲れでしょうが着ていた服をポイポイ脱ぎ捨てるのはお止めください」
「えーーーーーいいじゃん!疲れてんだもんわたし」
今日も魔王軍に稽古をつけてあげたんだから十分働いているでしょう?
ブリッコしながら教練につきあうのは身も心も疲れんのよ。
「履物もそこらに放り出して・・・ああ、ドロだらけでベットに入らないでください!先に湯あみなさってください!!」
うー。
うるさい。
わたし、勇者だし。まだ6歳の女の子だし、美少女だし。
どのポジからでもチヤホヤされていいと思うんだけど全く問答無用。
こんなにうるさいのって、
「まるでハハ・・・」
しまったと思って顔をあげると、バッチリと女中のヴエンディと目があった。
ニッコリ笑う笑顔が感情を見せないこのメイド頭。今も「そんな年に見えるかしらこの私が?」なのか「ずいぶんと懐いてくださって嬉しいですわ」なのかもわからないのよね。
どうせなら実家の母親を思い出してしまった寂しんぼ美少女で母性本能をくすぐってみようかしら。
「マ、ママ~」
泣きまねしながらスカートに抱き着こうとしたところ、頭をペチンとはたかれた。
だから女って苦手なのよ。
思った通りに動かないし。利用しようとしてくるし。
男の方がよっぽど単純で扱いやすいわ。
「勇者殿。今のお考えに対する初見を述べさせていただきます。」
「な、なに」
え?わたし何も言ってないんだけど。
「ひとつ、私は勇者殿の世話係を大魔王様より任じられておりますので、お世話をすることが私の職務となります。この中にはレディとしての・・・というより社会生活を行う上での常識、に関する教育も含まれています。私は勇者殿を教育する責務がありますので、勇者殿が立派な淑女とならない限りあなたの思ったとおりになりません」
げっ。
そんなの聞いてないんだけど。
「むしろ私の思い描く立派な淑女へ成長しなさい」
おい。
女中がマウントとりはじめたぞ。
「もうひとつ。私が勇者殿を利用する必要がありません。わが身も心も大魔王様のもの。忠実なる僕であることが我が望み。大魔王様から与えられた職務を全うするのみです」
だったら私が問題起こしたら困るかな?
「いいえ?勇者殿の行いと私が行った対応の全てをつまびらかに大魔王様に報告するのみです。私の力が及ばなければ違うものがお世話係となるかもしれません。そうなれば所詮私はその程度ということです」
「うまく役割を果たせなければ経験を糧に努力するのみですし、大魔王様にお褒めいただける栄誉を賜れば更なる結果を求めてさらに精進するのみです」
・・・・
なんかいろいろ怖いんだけど。
あと長い。6歳児に話す長さじゃない。
そんなことより一番怖いのはココよ。
「なんで私が思ってることがわかるわけ?」
口に出す前に答えるのやめて。
「うーん、勇者殿がわかりやすい?」
ほっぺに指をあてて首をかしげるメイド・・・それは幼女がやるから許されんのよ!
き、キモいからやめた方がいいわよ!
「へー、そうですか」
冷めた虫けらを見るような目でわたしをみるな、立てた指で私のほっぺをグリグリすんなっ!
「幼女のほっぺなら許されるらしいですからね」
「いや、違うし」
危険人物ヴァイオレット。
用心した方がよさそうね。
「そんなことありませんよ~」
くっ。
いい笑顔だわ。
「さっさとお片付けして湯あみしてくださいね~。もちろん勇者殿がなんでも脱ぎっぱなし、放りっぱなしでレディとはとてもいえないガキっ子だというのは大魔王様に報告済ですから~」
「ぎゃ、ぎゃああああああああ!!!!!!!」
は、母・・・ほんとにこの人なんとかして・・・・




