22. 魔王軍の演習Ⅰ 2 (side:ベッチー)
「うん、惜しいわね。」
勇者ベッチー、魔王軍の型稽古を見た一言目の感想だ。
幼いころから武術を学んだベッチーにとって、彼らの訓練は"大変よくできました"には程遠い。
"もう少しです"寄りの「よくできました」くらい、少しサービスして。
幼い頃から武術剣術魔法訓練に明け暮れたベッチー、しかし彼女に求められるのは勇者の役割。
身体能力、特に力は劣ってしまう。
幼女の体で肉体を鍛えるのは限界がある。
マッスル・マニアの世界にドップリ浸かるには早すぎる。体の成長にも影響する。
そこでベッチーが選択したのは、合理の追及だ。
最も効果的に体を使い、筋肉を使い、力の向きと性質を操る。
捻り、回転し、相手の力を利用する。
筋力をつけながらも合理に特化し技を極限まで追求した結晶が今のベッチーだ。
魔人たちは一人一人を見ると良く体を鍛えてるし、運動能力も筋力も高い。
愚直でまじめ、鍛錬に妥協なし。限界まで自分をイジメ抜く。ちょっとM気質。でも悪い意味では力まかせ。
人族が魔族と戦うのであれば、そこが付け入るスキなのだけど。
同じ武人としては、宝の持ち腐れね。
そして見た目が幼女でも勇者な彼女には、真面目で実直に生きる者にはその生を謳歌して欲しいくらいの気持ちはある。
型どおりに振ろうとしている武人達の崩れている部分や改善した方がいい部分をその場その場で教えて回る。
魔王軍を鍛える勇者、ってどうなの?とも思うけど、この程度は有りでしょう。
大魔王様から信頼を頂かなきゃの立場だし。
どうせこの魔人たち鬼マジメだから、私が教えるくらい放っといても自分で気づくでしょう。
それ位だったら大魔王様から私が信頼して貰う為に近道させたって問題なし。
体の使い方や理屈を教えると、みんな目に見えて振りが良くなっていく。
強くなることに貪欲、なのかも。
これまでは理を教えてくれる人がいなかったからね・・・これは教えがいがあるね。
元々が毎日限界まで振り込んで基本が出来てるから、教えれば早い。
風を切り裂く音が変わってくるからスグわかる。
教わった魔人達は微妙な表情。
敵から教えられていいのか、内容は正しいのか。どうしていいのかわからないって顔に書いてある。
不安もあるのでしょう、なにせ宿敵の勇者から教わってるんだから。
やっぱり、私の立ち位置をはっきりさせる必要があるわね!
「勇者殿、私と一手お手合わせを願いたい!」
ちょっと偉い感じの騎士さんが、怖い顔をして私のところに来て試合を申し出る。
ナイスタイミング!
大魔王様が教えて下さったわ。
魔人は力が全てだって。
「えええ?大魔王様はいいのかな?」
騎士さんが大魔王様に合図を送ると、大魔王様は頷いているわね。
「大魔王様も許可して下さった、尋常に勝負を!」
望むところだけど、勝負って暑苦しい。
一番強そうだからハッキリさせるのには丁度いいけど、勝負って言ったって教練で殺し合いするわけにもいかないしね。
「わたしは魔王軍の師団長ダン。現在は教練の指揮を軍団長から任されている!!」
名乗ったダンちゃんはムッとした顔でこちらを睨んでいた。
あらら。
勝手に指導しちゃったから腹立てた?
あーーーーー、そういうやつか。
ぶっ飛ばして終わりならいいけど、そうもいかないところね。
認めさせる & 魔人たちの懐にも入る、どっちもやるのが私の流儀よ。
そんな時のために、私は小さな女の子なのよ!
「ごめんなさい・・・勝手に教えちゃって・・・」
俯くと、足元の砂にポタリポタリと涙が吸い込まれる。
「みんな頑張ってるから・・・わたしが知ってること教えたげたいって思って・・・」
下を向いているけど、ダンと名乗った魔人は随分慌てている。
涙は乙女の武器よ。
「・・・ゆるす?」
「う、うむ、許す、許すから泣くのはやめてくれ!泣き止んでからでいいから、ちょっと私と手合わせしてくれ、頼む!」
そう、それでいいのよ。
尋常に勝負なんて、殺し合いじゃないんだから。
殺し合っちゃったら、ここまで来たのがムダになるじゃない。
「・・・うん。でも優しくして」
涙をぬぐって、泣き笑いの顔でお願いしてみた。
ダンちゃんはまわりから嘲笑されて真っ赤になっていた。
師団長って聞いたから、ダンちゃんの顔を立てるために言ったんだけどな。




