19. 勇者来訪Ⅱ 1
魔王宮謁見の間。
太い大理石の柱が立ち並ぶ荘厳な広間には、巨大な魔王国の紋章が掛けてある。
国家の王として宣言を行う正式な式典の場。
魔王城の幹部達が並び、大魔王様の御言葉を待つ。
「大魔王グラディウスの名のもとに宣言する。」
「今この時より人族の勇者キャサリン・ベッシリーニは我に仕える臣下であると!」
ウオオオオオオオオォォォォォ!!!!!
歓声と怒号が大きなウネリとなって大理石の床に響き渡る。
大魔王に勇者が仕える。
これを、ついに魔人族が人族を従わせたと受け取る者がいる。
歓喜に打ち震える幹部たちである。
しかしまた数千年にも及び、代々の勇者に多くの同胞を刈られた恨みの思いも継がれている。
怒りに打ち震える幹部たちである。
大音響に込められた思いは大魔王にもヒシヒシと伝わってくる。
それであるからこそ、大魔王の名で明確に宣言するのだ。
今代勇者が臣下となったことを。
「勇者の世話役としてメイド長ヴエンディを任ずる!」
ワアアアアアアアアァァァァ!!!!!
次に起こったのは純粋な歓声であった。
誰にでも気を配り微笑みを絶やさない魔王城の姉御ヴエンディ。
恋愛や悩み相談に負傷者の看護、日常の生活の知恵のアドバイス。彼女の世話にならなかった者はいないと言われるほど人望を集める。
大魔王様から任命される大仕事にみんな応援する気満々だ。
・・・秘書アンジェリカが一瞬口惜しそうな顔をしたが、知らぬフリを通させてもらう。
アンジェリカとウェンディの輝く世界は違う。
全てに応えて見せることが望まれているとは限らないのだ。
この程度の揺らめきが顔に出るとは彼女もまだまだ成長途中ということ。
アンジェリカに更なる期待をするとすれば、そのメイド長すら手の平で転がす度量を期待したいところだ。
今回の悔しさをバネにしてもっと高みに駆け上がれるかは自分次第なのである。
「謹んでお受けいたしますわ、わが親愛なる大魔王様。すべては大魔王様の御心のままに」
「うむ、手間をかける。」
美しいお辞儀で引き下がるヴエンディは、そのまま勇者ベッチーの横に控えて手を繋ぐ。
勇者とはいえまだまだ子供。
心細さに寄り添いつつ、周りには自分が勇者を庇護する者である立場を明確にする。
大魔王が宣言してもなお、心の奥底にある勇者への反感を抑えられぬ者もいるだろう。
何かあれば世話役の自分に言うように仕向けたのだ。
世話をかける。
ブスッとした勇者6歳は俯いるが握られる手を拒んではいない。
ヴエンディのことが気に入らない、というわけではないのだろう。
思い通りにならぬと顔に出している内はまだ子供。
しかし仮にも勇者、ただのお子様というわけではあるまい。
勇者の引き出しを開いて中身を確かめさせてもらう。
「当分の間は魔王軍の軍事教練にて胸を貸してもらおうぞ。勇者ベッチーよ、魔王軍では力が全て。この意味わかっていような?」
先ほどまでムクれていた子供も、勇者の名が出ると表情が変わる。
強い意思が宿る笑顔には武人の自信がみなぎっている。
「おまかせください大魔王様♡」




