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大魔王様ついてきます! ~ 最強の部下は大変なのです ~  作者: 水砲


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18. 勇者来訪Ⅰ 2 (side:ジルベスト)

魔王宮謁見の間。


大魔王様と勇者が退出した後、秘書アンジェリカは宰相ジルベストに耳打ちする。


「あんたアレどうするのさ?」


秘書アンジェリカにとってこの宰相はいつまでたっても信頼できない男だ。

自分に一般常識から魔術そして秘書業務まで教え込んでくれた師匠ともいえる存在なはずなのだけれど・・・


たまにポカをする。

今回のように。


秘書アンジェリカにとって大魔王様の手を煩わせる者はたとえ親であろうと師匠であろうと関係ないのだ。

宰相として全てを皆が納得できるよう収めるなぞ難しい・・なんてことも彼女には関係ないのだった。

しかもこの宰相は年寄りのくせに一皮むくと案外ガキ臭い。


「短気な魔人宰相が怒りに任せて人族の代表団に下らない難題をふっかけた。するとアレが来たで間違いないな?」

アンジェリカは親指で勇者が退出した方を指し示す。


「間違ってはおらん、かな?」



ワシは魔王国の宰相ジルベスト。


齢千二百年のヨボヨボの魔人じゃイジメてくれるな。


老人は大切にと魔人教育の教本基礎3に載っとるじゃろうが。


確かに言った。

魔王国との協定を望むなら人族の最強者である勇者を我が大魔王に仕えさせてみよと。


確かに言ったが。あれば一発カマシただけなんじゃが。


「まさか本当に勇者を差し出してくるとはな。人族のやつら何考えておるんじゃ」


有り得んわい。


ワシが行ったのは「勇者が魔王国を訪れる」ではないのじゃぞ?

「勇者が大魔王様に仕る」そこんとこ分っておるのかの?


大魔王様があのガキンチョに「人族を攻めろ」と命令したらどうするつもりなんじゃ。

人間どもには考える頭がついておらん。



「自分が蒔いた種だ、きっちり刈り取れ。あのガキが一瞬でも大魔王様を不快にさせたら」


アンジェリカの袖から極細い金属がスルリと落ちて彼女の右手に収まる。

蝋燭の光が一瞬鈍く反射したのは魔人の眼でも認識することが難しい暗器だ。


「殺す。大魔王様の行く道を邪魔すればアタシが許すことはない」



魔王国の魔人全ては忠誠な大魔王様の臣下。


ワシですら大魔王様が望まれるならば、喜んでこの老いぼれの命を差し出すくらいにな。

疑うまでもなく魔王国民は全て同じ行動をするじゃろうが、アンジェリカの大魔王様愛は度を越し過ぎておる。


人族の領地に入り込んでしまい先々代の勇者に殺されかけたコヤツを救ったのが大魔王様。

ワシにコヤツの教育を指示して一人前にさせたのも大魔王様。

秘書に任じたのも大魔王様。


アンジェリカにとって大魔王様は命の恩人であり、生きる術を与えた存在であり、生きる意味までも賜った存在になる。

コヤツの中の大魔王様への想いは忠誠や敬愛では足りないのじゃろう。

自分の存在そのものが完全に大魔王様に賜ったもの。

大魔王様愛が濃くなりすぎてブラック・ホールのような強力磁場を発しておる。


ワシはコヤツに深入りはせんようににしておるんじゃよ。

触らぬ狂魔人に祟りなし。くわばらくわばら。


「おお怖い怖い。老人に鞭うつとバチがあたるぞい」


「せいぜい気いつけな。脳天に固い刃が突き刺さらないようにな」


美人で超優秀の「できる秘書」へ教育したつもりじゃったんじゃが。どこで間違ったか。

レディが顔をゆがめて舌打ちするなど教えておらんわ。


「ガキでも勇者でしかも女。何考えてんだかな」


これでも一応はワシに忠告をしに来たんじゃろう。


アンジェリカは言いたいことを言って立ち去りやっとワシも頭を整理できる。



人族が何の企らみもなしに勇者を差し出すわけがない。


大魔王様に罠をしかける?闇に乗じる?不意を打つ?

そんなことで何とかなる大魔王様なら100年も前に戦は終わっておる。


何を狙うておるか。

単に大魔王様のご機嫌取りも有り得るじゃろいが・・・なにせ最強すぎるからの大魔王様は。



そんな深い思考の中。


ちょん、ちょん、とワシの衣を引っぱる気配ひとつ。

先程退出したはずの人族の勇者がいつの間にか気配一つ立てずにワシを引っ張ておる。


「ねえねえ」


そうじゃった。こやつの身の振りをどうするか考えねばならんな。

いきなり人族へ送り返すのもなあ。ワシが人族に切った啖呵じゃし。

誰かに任せたい所じゃが、ベノンもガストンも特訓中で居らんし。


「わたし、今日から大魔王様と一緒に住むんでしょ!!荷物を大魔王様のお部屋に入れてもいいのかな?」



遠くに去り寄った狂魔人の気配が、ダン・ダン・ダン、と激しい足音と共に戻って来おった。


ギ・ギ・ギ・・先ほどアンジェリカが出ていった扉が細く開く。


存在を主張するようワザとらしく古めかしい音を立てながら・・。

そこからモワモワとおびただしい暗黒の怒気が流れてくるわ。


隙間からコチラを覗く両目が赤く灯り光っておるのはまるで悪魔王のようじゃ、やめんかアンジェリカ。


「今日から湯あみで大魔王様のお背中流すんだ。お手て届くかな!?」


扉からバキンと大きな破壊音がする。

ついに取っ手が握り潰されたようじゃ。


このガキンチョもさすがは勇者、その称号をはダテではない。


なにせ大魔法使いのワシに気配一つさせず近づいた体さばきに魔力操作の腕前。

当然扉の向こうで怒り狂うアンジェリカの気配にも気づいておる。


浴びるとブルって動けなくなる程の怒気を感じておるはずじゃが。ツンとおかまいなし。


究極の完全スルー。アンジェリカにとっては宣戦布告じゃこれ。

今日着いたばかりの6歳児が魔王城の裏番と呼ばれる狂魔人アンジェリカに宣戦布告しておる!


勇者よお主は一体何を望む?

秘書アンジェリカによる魔王宮の破壊がお望みなら確実に進行しておるがな!


「いい子にするからいろいろ教えてちょーだいね、ジルベスト様!!」


・・・ワシを巻き込まんでくれ。

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