16. 魔王軍特訓中 2
ここは魔王国最北となるセイサン山脈。
白く美しい山々が連なるこの場所だが魔王軍関係者には修羅場と呼ばれる場所である。
山頂付近は高度八千メートルを超え酸素濃度は地上の四分の一。気温マイナス50度の銀世界が敵を拒む誇り高き山脈。
この過酷な山脈は竜族の縄張りとなっている。
山頂には竜王の居城が聳え(そびえ)立ち侵入者に睨みをきかせる。
魔王軍における「地獄の特訓」とはこの山脈の頂上に住まう竜王に辿り着き、力試しを挑み認めさせることだ。
「ベノン軍団長。俺も悪魔王の前では自分を情けなく感じました。ですけどね?」
一歩登るたびに鋭く尖った吸魔石が脚の甲を貫く。
この山脈にはいたるところ隙間なく鋭く尖る吸魔石が突き出している。
この石はその名の通りに触れたところから魔力を吸いこむ厄介者。
本来であれば石が尖ろうが針の上を歩こうが足の裏を魔力で強化してしまえばいい。
鋼鉄の固さには刺さるものはなく痛いはずもない。
しかし踏みしめた瞬間に魔力を吸いとられ強化魔法が無効化されてしまう吸魔石だけは話が違う。
ズボリ。
ズブリ。
ズボリ。
ズブリ。
左、右、左、右・・・
足を吸魔石から引き抜いた音。
反対の足が吸魔石に突き刺さる音。
もう反対の足を吸魔石から引き抜いた音。
さらにもう反対の足を・・・以下略。
歩くたびに足には大穴があく。引き抜いた瞬間に回復させる。再び大穴が開く。
果てしなく続くまさに特訓。それでも登り続けるしかない。
別名は魔人殺しの山。
普段強靭な魔力に頼っている魔人達にはまさに特訓になる。
「悪魔王の修羅場をやっとこ生き抜いたっつーのに。その翌朝からこれはちょっと厳しくねっすか?」
副官のガストンはいつも通り減らず口を叩くが、それはこの男が強者と呼ばれるレベルにあるからだ。
ガストン以外の参加者は50名もいるが・・・声を上げることすら出来ずに今にも死にそうな顔だ。
「だからこそだ。俺達に必要なのは限界を超えることだ、それが特訓の意義だ!そうは思わないかガストン!!」
「いやいや軍団長?酒と間違えて脳みそがプロテインでも飲んだんスか?団員たちは限界超えすぎて走馬灯が見えてますよ。」
吸魔石の効果でこの山脈全体に吸魔結界が発生しており、エリアに入った途端に魔力を放出することが一切叶わない。炎を出すこともできないし飛行のスキルも使えない。
できるのは体で吸魔石に触れていない部位を魔力で回復することや寒さを感じないよう自分の感覚を麻痺させるくらいだ。
立ち尽くすだけで全身を氷像にするほど極悪な自然環境の中、頼りの魔力を発揮することも出来ない。
ほんの僅かな魔力を使って自分を回復し続けなければ足元が凍り付いていく。
武を語る前に肉体と精神の強靭さを証明しなければならないのだ。これがセイサン山脈でありこれが魔王軍の特訓なのだ。
「ぐ軍団長!後ろを付いてきてたヤツラがいねえ!戻って助けねーとマズイんじゃ!?」
ついに俺とガストンだけになったようだ。
まともな特訓メニューでココまでこれたのはガストンで二人目になる。
「この山脈も魔王国の領地だ!魔王国で俺たちが死ぬことはない。これは大魔王様との誓いだ!!よって問題なし!!!」
「ちょ、ちょ、本気で脳に筋肉詰まってポージングしてんすか!!大丈夫なワケないでしょうが!!!」
「俺が問題なしと言って破ったことはないだろう気にするな!それより前方!!」
もうそんなことを気にしている場合ではない。
魔王軍の地獄の特訓が雪山登山で終わるわけないだろう!
吹雪の先で見えずらいが黒く大きな影が何体も現れてこちらに向かってくるぞ。
俺は1度経験したことがあるからこの先の展開を知っているつもりだった。
しかしこの特訓も2回目になるとバージョン・アップするらしい。
前回とは明らかに大きさと数が違う!
さあ地獄の特訓第二段階の開始だ。
前回の俺の相手より更に厳しいことは間違いない。
もちろんそんなことをガストンにわざわざ言うワケがない。
間違いなく俺のせいなのだから!
死ぬなよガストン!




