11. 悪魔襲来Ⅱ 1
大魔王が思念をこらすと、フワフワと漂っている魂の欠片がこちらを伺っている。
魔剣のひとふりで生き残るこ強者は、この世界中に10人といないだろう。
悪魔軍でいうなら三番手四番手の実力者というところか。
「そちらにおわすは魔王国ノスフェルノの大魔王ヴァルドランド・ラ・ガルディウス・ドミラル・ガリロレッサ・グラディウス殿とお見受けする」
「いかにも我が大魔王グラディウスである!」
やはりワレ、大魔王グラディウスに伝えねばならんことがあるのだろう。
ここが魔王城であれば、いきなり話しかけた無礼により千年の拷問の後魂の消滅であるが・・・
この場は戦場である。
辞世の句を聞く情けすら持ち合わさぬようでは武人ではない。
来世では魔物に生れ落ちワレの元へと縁が続くことを願うのみ。
「われは・・・悪魔軍の魔王国方面指令官ゾルト・・・突然の襲来、非礼を詫びる・・・ただ我らにも事情が有りしこと、どうか此度のことは我のクビで見逃してもらえぬか・・・」
疑問は深まるばかりだ。
いきなり攻めてあっさり全滅。
コヤツの言葉通りならば今回の攻撃は悪魔軍の総意ではない。
自分たちの先走りだと伝えている。
それを詫びた上で自分のクビを差し出し、悪魔軍との間に大戦が起こらぬように願っている。
勝手に魔王国に攻め入っておいて何を言うか、と突っぱねることは簡単だ。
しかし行動と言動がなぜこんなにも矛盾するのか、ひっかかり続けるのだよ。
消滅する直前まで国を慮りワレに嘆願するその姿勢。
自らは口に出して言えぬことがあるのだろう。
「お主ほどの男が何故このような事を引き起こしたかわからんな。いつくか尋ねよう」
「・・・命続くかぎり何なりと」
指で文様をなぞる。
手の甲に魔法陣が薄く輝いた。
数百年に一度も使わない魔法が発動した証。
これからの説明次第では悪魔軍との大戦を開く話となるのだ。
やるのであれば憂い無く当たりたいからな。
「まず簡単な事をひとつ。お主はなぜワレに気付かれるように仕向けた。魂の欠片が残っておるのならば、そのまま息を潜めてこの場をやり過ごすのが上策だろう。」
今にも消え入りそうな魂魄だが、魔剣から生き残るほどの強者だ。
うまく人間にでも憑りつくければ10年もかからずに元通りになれるハズ。
「・・・恐れ多くも、われは司令官・・・部下を無理に率いて全滅させ、自分だけオメオメと生き延びるなど、出来ようはずもありませぬ・・・それに」
「それに?」
「われがこのまま姿を隠しては・・・大魔王殿のお慈悲にすがることが出来ませぬ・・・・どうか、どうか・・・」
では何がこやつを動かす?
「では次に尋ねたい。お主は、何故こうなる事が分かっておりながら魔王国を攻めてきたのだ?
強者であるお主ならばわかるだろう。何の策もない兵が五千では、大魔王の前に全滅する以外に道が無いことを。」
大魔王は敵対するものを許さない。
これは世界中に知れ渡っている常識なのだから。
もっとも悪魔どもはワレの魔剣の覇気にすら太刀打ちできていなかった。
それでどうやって大魔王を討ち取るつもりなのだ?
そのくせ逃げ出す者もいない。
これではまるで滅せられるために魔王国を襲ったとしか思えぬ。
「われら魔王国方面隊は・・・ここ五十年ほども、何の成果をあげることなく・・・このままではわれら隊員のみならず、その系譜に連なる全ての悪魔達が無能として滅せられてしまう・・・」
このしばらく悪魔軍とはつかず離れず小競り合いと小和平の繰返すのがお約束になっていたハズなのだが。
悪魔王もワレが治める魔王国を本気で狙ってはおらんし、こちらも悪魔軍を壊滅させようとは考えておらん。もちろん今のところはお互い様だが。
これまでの戦乱の歴史が様々に恨みを生んでおるからいきなり休戦にはできない事情もある。
そのため互いにそれなりの恰好を付けておったと思ったがな。
今回の件は、そんな国家間の微妙なバランスがわからぬ上役から現場の失態として追及されたということか。
その上自分に連なる者すらも罰せられようとする。
こうなっては引くに引けず。
わかっていない者にこの微妙な関係維持を口に出すこともできないのだから。
魔王国が敵であると盲信している者からすれば、この関係性は日和っているとしか見えないのだろう。
間違えば悪魔王への反発を生む。
わかっている者からすれば世界最強の大魔王がいる魔王国と大戦をするわけにはいかない。
強者は強者を知る。
しかし自分達では敵わないとは口に出せない。
そんな下衆どもに悪魔軍で最強を謳う第一部隊の総司令官が口に出せるわけハズもない。それでは悪魔王の意に反する。
それがわからない好戦派閥からは矢のような督促を受ける。
悪魔軍の精鋭達は選んだのだろう。
自分たちの独断にしかならぬように戦いそして全滅する道を。
大魔王と戦い死ぬことで、少なくとも自分たちに連なる者が手をかけられぬことを信じて。
・・・愚者は賢者を駆逐するのだ。
「現場で命を懸けるものに対して価値がわかっていない小物が言いそうなことだ。悪魔に情けを求めるのも酷かもしれんが、己の命を懸けて国を背負うお主達に随分の不条理を突き付けるものだ。」
これが悪魔王が望んだ結末か?
手の甲からホログラム(投射映像)が浮き出る。
本人に直接訪ねるより他に確かなことはあるまい。
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【大魔王ズ・ホットライン】
大魔王の固有スキル。
天界、悪魔界、人間界の各界の代表者と大魔王をつない直接会話ができる。
投射映像により相手の姿を映し出すことも可能。
世界の危機に瀕するとそれを回避するために使用が可能となる。
ただし神界の天主は使用法がわからず、人間界は代表者が定着しない為この2種族に対して使われたことはない。
実質的には大魔王と悪魔王をつなぐ緊急回線となっている。
なお使用条件となっている「世界の破滅の危機」は受け取り方次第であり条件がゆるいことがバレはじめている。
悪魔王が昼寝から目覚めた際についていた寝ぐせに苛立ち「人間界、滅ぼしちゃう?」と語っても使用が可能だったことが知られている。
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「大魔王ヴァルドランド・ラ・ガルディウス・ドミラル・ガリロレッサ・グラディウスの名にて悪魔王サターンに問おう。」
ブウンと音がしてフードを真深くかぶった老人が映し出される。
その姿は人族がイメージする大悪魔ではなく人間界の魔導士然としていた。
悪魔とは闇に潜み相手を謀存在であり、悪魔王ともなればどのような容姿でも現れることができる。
女形もあれば男形もある。老人もあれば幼子もある。神のごとく輝き現れ、悪魔として恐怖と怨念の翼を広げる。獣の姿でも怪鳥の姿でも現れる。
「魔王国へ攻め込んだ悪魔軍の兵五千。これはワレに対する宣戦布告であるか?」
今にも消えそうな魂の欠片が慌てているがワレの手中に握りしめる。
黙るがよい。無礼を許すのはここまでだ。
これから会話するのは王のみ、何人たりとも邪魔立ては不要なり。
「ヌシを仇としたことはないがの」
悪魔王が深くかぶったフードをめくり上げた瞬間。
ゴオオオ!!
魔眼から強烈な呪いの術式が放たれる。
呪いの楔が大魔王を取り巻き、その奔流がいっせいに大魔王の身に迫る。
常人がその禍々しい呪いに近づけば、あっという間に神経が捩じ切られ廃人となるだろう。魂が深い闇へと呪い落とされる。
しかし強烈な呪詛が大魔王まで辿り着くことはない。
呪詛は魔鎧に触れると火花がスパークし消えていくのだった。
魔鎧ヴァルディウス。
大魔王を守護するこの鎧は魔法も魔術も呪詛もあらゆる攻撃を跳ね返す。魔剣と同様に意志を持った鎧。
大魔王様を守ることがこの武具の存在意義であり宿命。
今日も絶好調、役に立てた歓喜の声が大魔王の心核に響きわたりコダマする。
うむ、今ワレは悪魔王と大事な話をしておるので後で頼む・・・
悪魔王は悪びれもせずにニヤニヤと笑う。
"おっと、溢れる呪いがソッチに行っちゃったけど大丈夫だよね?”
という程の気安さだ。
世界三強の二人にとってこの程度はご愛敬にしかならない。
久しぶりに会った宿敵への挨拶である。
「大した返しは出来ぬが受け取るがよい」
大魔王が腕を伸ばし、ホット・ラインで繋がる異次元の通路を辿る。
その腕は悪魔城の宮廷に座る悪魔王の首を掴み、グキリと捻り捩じ切ってしまう。
悪魔王の部下が近くで見ていたならば突然起こった惨劇に悲鳴を上げたかもしれない。
突然巨大な大魔王の腕が現れ、悪魔王の首を掴んでグキリと捻り落してしまったのだから。
突然の魔王の襲来に慌てて戦闘態勢を取るか。歴戦の強者達は"またいつものことだ"と呆れるか・・・。
ポトリと落ちた頭部を両腕でキャッチした悪魔王は、呪いを放出していた両の目をゆっくりと閉じる。
挨拶はここまでということか。
ワレらでなければ致命傷となるであろう一撃の交換。
数百年の時が経とうともお互いの宿命に変わりはない。




