10. 悪魔襲来Ⅰ 2 (side:ベノン)
悪魔の大群に対峙した大魔王様が愛剣を抜き放つ。
魔剣ギリザストゥースから禍々しい覇気が噴き出てあたり一面の空を染め上る。
「ベノン軍団長、ちょっとやばくないっすか!」
副官のガストンから念話が入った。
さすがは俺の副官だ。
ちょうど今の俺も同じことを考えていたところだ。
俺は悪魔の大群なぞ端から気にしちゃいない。
世界最強の大魔王様がいらっしゃるのだ、恐れるものなどありはしない。
もし大変なことになるとしたら大魔王様が加減を間違えた時くらいだが、そんなそんな。
大魔王様もご自分の力をわかっていらっしゃるはずだ。
・・・なんて考えた俺の甘さよ。
神世の魔剣が大魔王様に自分の忠義を訴えているのだから予想外の危険信号だ。
いやわかるぞ俺だってそんな気持ちくらい。
久しぶりに大魔王様のお手に握られ、自分の役割が果たせる瞬間がきたんだ。
大魔王様に尽くすために待ちわびたこの長い時間がやっと報われると思えばちょっとくらいハッチャケても大魔王様は笑って許してくださる。
活躍したいのだ、大魔王様に認められたいのだ、褒められたいのだ。
それはわかる、逆の立場なら俺だってそうだだがしかし!!
魔剣は意志があっても所詮は剣。
あいつに"やり過ぎ"という概念はない。
むしろ下手に意志があるから返って危険なのだこの駄剣は!
大魔王様は魔剣ギリザストゥースの心意気を汲まれたのだろう。剣の構えが変わり俺の心の中でパトランプが激しく回転する。
俺が敬愛する偉大な上司にとっては、部下の想いは汲んで当然のこと。
世界中から恐れられる大魔王でありながら、ほんのちっぽけな俺達の思いを汲み上げてくださる。
それが俺であっても魔剣であっても、大魔王様は臣下の忠義を無下にされることなんてないのだ・・
「ギリザストゥースの覇気で、魔王国の結界が割れ始めてるっスよ、ヤバヤバのヤバっす!!」
くっくっく。
ガストンよ、まだ若いな。
なぜ俺達がこの場にいると思っているんだ?
最強の大魔王様に俺達が御供する理由がココにあるのだよ。
「大魔王様と街の間に最強の結界を張れい大至急だ!自分の割り当ての結界が抜かれれば、その分で百万の民が屍になると知るがいい!!!」
精鋭全員の心の声が揃った瞬間だった。
「ま、マジっすかッ!!!!!!!!」
見事にシンクロ心はひとつ。まるで精鋭30人がひとつの魂であるかのように絶叫したのだが、誰の心にも刺さることはなかった。
その前に大魔王様の声が空に響いたから。
「天・割・殺!!!!!」
魔剣が振られ、天が割れ、宙がムキ出しとなる。
辺り一帯の大気が、木々が、山がこの星から引き剥がされて、轟音とともに暗黒の宙へと吸い込まれていく。
巻き込まれまいと歯を食いしばりながら、自分の結界を張り続ける団員達。
魔王軍団長ベノン、3人分の結界を張りながら崩れそうな団員のフォローもして余裕しゃくしゃく。
彼は苦闘する団員を微笑ましく眺めながら、その心の中で彼らの成長を祈る。
何事も経験だ!
民の命を背負うその重圧、限界まで使う魔力。
この経験が必ずお前達の糧となる!
しかもお前達には頼れる仲間がいるんだから、耐えられるに違いない!
前回まで大魔王様の出撃に付き従っていたのはベノン一人。
今回は親衛隊30人で分割した責任も全て一人で担当してきたのだ。
自分の弱さに泣きそうになり、責任の重さに押しつぶされそうになりながら。
そんな彼は軍団長という役職に就いてからズッと思っていたことがある。
「魔王軍よ早く力つけて俺と一緒に出撃してくれ」
・・・そうだ、俺はお前たちを巻き込んださ!!
全てはお前たちの成長のため、俺の負担を減らすためでは決してない!!!
ガストンが恨みがましい顔で念話を送ってくるが、余裕で受けて立つ。
「軍団長やけに余裕しゃくしゃくっすね・・・・俺たちゃもうボロボロっすよ・・・」
「何を言っている、俺はお前たちの何倍もの結界を張っていただろう!後は休むがいい。この後は俺が引き受けてやるっ!」
いい笑顔でサムズアップする伊達男ベノン。
口元ではキラリと白い歯が光る。
頼りがいのある逞しい背中は・・・語らない。
彼の心中では親衛隊を巻き込めたことに大満足の高笑いをカマしていることを。
正しく考えるなら、いざという時に全ての帳尻を合わせなければいけないのは軍団長の役目だ。
団員は全力を尽くせばいい、だが団長は結果が求められる。
自分もさんざん大魔王様に迷惑をかけ続けたくせに、そんなことは心の棚の上に見えないように置いてしまうベノン。
そんなツケはすぐに回収されるのに。
油断した彼の心は上滑りを続けるのだ。
魔王軍精鋭でもさすがにショックが大きかったようだな。
後は安心して俺にまかせておくがいい。
なにせ後は撤収だけで何も起こるはずもないからな!!!
テンションハイである。
仲間を地獄に引きずりこんだ男ベノン。
彼はフラグを立てることを忘れない。




