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1. 大魔王は考える 1

世界最強の大魔王が治める魔族国家、魔王国ノスフェルノ。

その首都リンゲルの北端、首都防壁に沿って魔王城がそびえ立つ。


まだ早朝。

今日が始まるには未だ時間がかかりそうな薄闇の世界は肌寒い。

魔王城の東端にある魔王軍団の訓練場にはまだ(モヤ)が残る。


そんな暗闇の中に3万人もの大軍勢全員が緊張した面持ちで整列を続ける。これから始まる式典のを待ち続けているのだ。

いつもより1時間も早い集合時間だが、気の抜けた顔をしていたりアクビをするような魔人はいるはずもない。


もうすぐこの場所で大魔王の閲兵式が始まる。


一兵卒が大魔王様を直接見ることができる貴重な機会。

自分達へ向けられる励ましの言葉をもらえるまたとない機会。

入団した魔人達は別人のように目の色が変わり不滅の軍団の一員になる。


幹部からは「大魔王様からの祝福の儀式」と呼ばれる閲兵式が今まさに幕が開けようとしていた。



カツン、カツン、カツン。

静けさの中で訓練場へと続く通路をブーツの踵が打ち付ける音が響き渡る。

巨大な男がマントを翻し通りすぎていくのを整列した侍女が見送った。


褐色の肌に厳しい眼光、頭からは立派な角を生やす大柄な魔人。

魔王国を治める大魔王グラディウスは落ち着いた足取りで歩いていく。


「うっ、うーん、うんっ」

いきなり大勢の前で声を出して、妙に高い音がでたり調子がハズれても不味い。

軽く音を出しておかないと下手を打つことになるからな。


「大魔王様、お水をどうぞ」

侍女たちがサッと差し出すお水をグビリと飲み干して、大魔王は遠くを見つめた。

ほんの少し白くなり稜線が見え始めた遠い山々。


"何を喋ったものだ?"


なんと本日の大魔王は原稿ノー・プラン。

幹部達が勝手に「大魔王の御言葉」のハードルをガン上げするせいで厄介なイベントになってしまった感が強いこのイベント。


前回の閲兵式も前々回の閲兵式もその前の閲兵式も参加した団員達もいるのだ。

前回の原稿を大魔王が使いまわすワケにもいかない。

回を重ねる都度必死に考え抜いて作ってきたネタもついに尽きたのだ。



練兵場のお立ち台に上がり精鋭たちを見渡す。

一糸乱れず整列している隊列。微動だにしない戦士達。

神軍にも悪魔軍にも怯むことのない魔王国を守護する精鋭たち。


彼らを見た瞬間に原稿の悩みなぞ簡単に吹き飛ぶのも何時ものことだ。遠く見渡すほどズラリとならぶ兵士達。


壮観につきるこの景色をまた見るとやはりボルテージもあがる。

この歓喜と感謝と信頼と喝采の数々を、どうすれば彼らに伝わるだろうか?

心の深淵にさまざまな想いが去就する。深く深く心の奥底に刻まれた景色を思い出す。


魔王の称号すら得ていなかった若造だった自分。

神族にも悪魔族にもコテンパンに負け続けた魔王軍。

人族の勇者にすら追い立てられていた幹部達、悔し涙がベットリ顔を濡らしても顔を上げて前を向いたあの日々。

そして蹂躙(じゅうりん)され、辛酸(しんさん)をなめ続けた国民の姿。攻撃されて燃え上がった旧魔王国の首都。

ひたすら続く戦いの日々。


そんな激動の戦いを生き抜いて随分長い年月が経ち、今では世界最強ともいわれている魔王軍団が目の前に並んでいる。

心が震えないワケがない。


何千いや何万の景色(シーン)が頭の中を流れていった頃だろうか。



「・・・何時如何(いついか)なる時も大魔王様の忠実なる(しもべ) ベノンが、敬愛する大魔王様へ申し上げ奉ります」


どうやら心の奥深くへ潜りすぎてしまったようだ。


魔王国の武の(かなめ)魔王軍団長ベノンから秘匿された念話が入ったことで、現実に引き戻される。


『大魔王の右腕』と世界に知れ渡る強者が秘匿回線で緊急に知らせてきたのだ。


天軍の進行か悪魔軍の篭絡か。数百年ぶりに人間の勇者がこの魔王城へと辿り着いたのか。

あらゆる可能性が我の脳裏をよぎるが。

どんな災いが迫ってきたのであるか?


「ベノン、お主の言葉は何時如何(いついか)なる時も魔王国の為にある。遠慮は不要だ申してみよ」


ワレは大魔王である。

臣下に危険が迫るならばどんな敵も打ち砕いて見せよう。


「我が主のお言葉は・・・いつ頃始まりますでしょうか・・・?」

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