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大蜘蛛は愛しの花嫁を溺愛する。  作者: 瓊紗(夕凪.com)
7/22

招かれざる客。

※お食事中相応しくない話題が含まれます

※実際に出ては来ませんが、主人公が虫系の名前を挙げてその解説をしております


「ハッアアァァ―――イッ!元気ぃ?」


いきなり、五月蠅いのが来た。


「ちっ」


「ちょっと、舌打ちは酷いんじゃない?私、蜘蛛の女王って呼ばれているの知ってる?」

盛大に舌打ちをしてやったら、目の前のダイナマイトカップのボンキュッボンの美女がぶーっと口を尖らせる。くるぶしくらいまである黒く長い髪には、金糸が混じっており、光に揺れてキラキラと揺らめく。更に瞳は金色で誰もが惹かれてしまうような妖艶な顔立ち。

因みにどうやって帯留めてんだとばかりの胸元が大胆に開き、ダイナマイトカップな代物が堂々とぷるんぷるんと揺れている。


「蜘蛛の女王なら、ナガコガネグモもだろう?」

大体が、ナガコガネグモがジョロウグモと勘違いされて呼ばれているものだが。


「そうね。そうとも言うわね」

だろう?普段はここよりも暖かい土地で旦那とバカンスしながら暮らしているはずなのだが。


「でも、だとしたらオオジョロウグモはどうなんだ」


「そこツッコんじゃダメよっ!!ん~、じゃぁ、そっちは女皇でお願い」

「え?あぁ、まぁお前らの間でそれでいいんだったら俺は何も言わんが」


「じゃ、そう言うことで。アンタの嫁を見に来たの!!」

やっぱりか。


「わざわざそれで、訪ねてきたのか」

「そうよ。当たり前じゃない。長が花嫁を迎えたとなれば、私としても見たくなるってものよ。あと、キイナからも聞いたの」

キイナとは姐さんの本名だ。金色の稲と書いてキイナ。田んぼの女王の名に相応しい名前である。

そう言えば仲良かったな。


「それに、月守家には縁があるのよ」

それも知っている。


「まぁ、そうだな。だからと言ってふゆはは月守家にっ」


「大丈夫。私も知っているわ。蜘蛛のコミュニティを舐めたらいけないわ」


「それも、そうか」

まぁ、このひとは大切な者たちに手を出されない限り、驚かすことはあっても実際に脚を出すことはない。

よくテレビで見るような、恐ろし気なことをやる蜘蛛ひとではない。執着深くて嫉妬深いのはよくあるジョロウグモっぽい特徴ではあるけれど。


「では、俺も同席しよう」


「んもぅ、過保護よ」


「普通だ。ホウセンカ姉さんもだろう?」

ついでにそれがこのジョロウグモの名前だ。

「あっ、それもそうねぇ」

そう言って、彼女は一緒に連れてきた旦那を振り返り微笑みを向ける。色素の薄い髪と瞳を持つ優し気な青年はーー昔は人間だった。

そして姉さんと長い時を生きることを選んだひとだ。


「しずれさま!大変です!」

そんな時、朽葉が飛び込んできた。


「何事だ?」

「実はっ」

朽葉が俺に耳打ちしてきた内容に、ため息がもれずにはいられない。


「分かった。俺が相手をする」


「分かりました」


「あら、何事?」

ホウセンカ姉さんが首を傾げている。


「少々厄介な客人が来たんだ。姉さんはウチの姐さんたちと一緒に、ふゆはの相手をしてやってくれ」


「ふぅん?しょうがないわねぇ。いいわよ、もちろん!」

ホウセンカ姉さんが頷くと、姐さんたちが迎えに来てくれて、早速ホウセンカ姉さんたちをふゆはの元へ案内する。


「ふゆはは、姐さんたちが付いているから心配ないな」


「えぇ」

朽葉が頷く。


「では、行ってやろうか」

「はい、しずれさま」


さて、厄介な客人たちをどうもてなしてやろうか?やつらが案内された客間を訪れた。襖を開けると、耳がキンキンとするような声が早速響き渡る。


「ちょっと、結納金はいつ入るの!?」

何を勘違いしたのか、俺に噛みつくかのように叫ぶのは、例の後妻だった。


「私を誰だと思ってるの!?私の旦那さまにかかれば、蜘蛛なんてあっという間に屠ってくれるのを分からないの!?」

続けて叫んだのは、その小娘。月守ヒメだった。


全く。いつか来るかもとは思っていたが。ま、俺を呼びつけようと不躾にも月守が手紙をよこしているのは知っている。全て無視していたが。

だがさすがに余裕がなくなったのか、直接後妻とその娘が乗り込んできたのだ。


当主は今頃、金策に走り回っているのだろう。この場にはいない。むしろ当主なら、この場に乗り込むことは許さないだろう。それがもたらす破滅を知っているから。


それに、蜘蛛を屠る?何てことを言いやがる。こう見えても俺は高位の大妖怪。この俺にかなうのは鬼の長くらいだ。普通の鬼なら捻りつぶせる。長の顔に免じてそうしてないだけで。


無論、力のない蜘蛛どうほうを狙って手を出せば容赦はしない。


長もそうだ。それくらいは分かっている。そしてそうしなければ、ーー長が最愛の花嫁にビンタでも喰らうんじゃないかな?長にとって、一番苦しむ罰である。


「はぁ、何の用かと思えば。結納金ならもう支払った」


「いつよ!?私は受け取っていないわよ!」

後妻が吠える。


「は?何故お前に渡さねばならない」


「主人も受け取ってないって言っているわ!妖怪ならば、花嫁を提供した見返りに結納金を払うのは当然でしょう!」

提供、て。花嫁を何だと思っているのだ、この後妻おんなは。それだと自分が溺愛している娘も同じ扱いになると言うのに。それとも自分の娘だけが特別だと思っているのだろうか。


「結納金と言うのは、見返りではない。花嫁を迎える妖怪が花嫁を娶るまで大切に守り育てた花嫁の家族に支払うものだ」


「そうよ!ここまでふゆはを育ててやったじゃない!」


「離れに追いやって冷遇することが、育てた、だと?」


「そ、れはっ!あの子がヒメを虐めるからっ!」


「逆だろう?それに、俺は貴様も共に嫌がらせに加担していたことを知っている」


「どこにその証拠が」


「今、呼んでやろうか?蜘蛛は人間が暮らしている周りにごまんといる。更には小さな虫やらその類の生き物もな。知っているか?俺たちは総じて虫系妖怪と呼ばれ、俺は彼らのトップであり、彼らを通じて色々な生物に呼びかけ証拠を揃えられる。俺が呼びかければすぐさまこの部屋に湧くぞ」

蜘蛛は正確には虫ではないのだが、蜘蛛を始め百足むかで妖怪、ヤスデ妖怪たちも総じてその類に入る。まぁ自然界では蜘蛛の天敵や捕食類もいるのだが、虫系妖怪たちは団結している。

―――なかなか人間にモテない、と言う悲しい現実故に。ぐすん。まぁ、それは今はいい。

今はとにかく、


「わ、わくって?」


「はぁ?決まっているだろう。広大な月守の屋敷に生息している・・・昆虫、蜘蛛、ミミズやヤスデとか、色々」


『きゃあああぁぁぁぁぁっっ!!!』


まだ湧かせてもいないのにな。息ぴったりな悲鳴をあげて抱き合い泣き叫ぶ毒母娘おやこ

うむ、傑作だな。


「心配するな。結納金ならば、ふゆはを真に守り育てたものたちに渡してある」

それぞれ、欲しい褒美を聞いて蛇は酒を。ネコハエトリ(大)は花の苗を。にゃーちゃんはお菓子を与えた。ただ金が欲しいとほざくコイツらとは雲泥の差だな。


「私たちにも渡しなさいよ!」


「その資格はない」


「そんなことってないじゃない!金づるの蛇まで奪って行って!」

神気さえ纏う蛇を金づるとは、酷いいいようだな。あの爺さんが月守を見限ったのも分かる。

ぶっちゃけ、コイツらは金がないのだ。

今まで蛇が長年の付き合いだとして月守の金運をあげていた。あの家が落ちぶれればふゆはにどんな危害が及ぶか分からない。金が潤っているからこそ離れを与え、放置した。


金がなくなってふゆはがその皺寄せを喰らうだなんて、耐えられぬ。蛇も同じ気持ちで、ふゆはが月守にいる間はかろうじてその力を使っていたのだ。


妖怪と古くから親交のある人間の家は、妖怪の力のおこぼれをもらって繁栄してきた。妖怪たちにとってもそれは、時に良い隠れ蓑になるから。


月守もまた、そんな縁起のいい蛇の力を借りて繁栄してきた。

それがなくなったなら、一気に落ちぶれる。その蛇の力で成り上がって来た部分が、一気に。それも、蛇に盛大に嫌われて出ていかれたとなれば、その被害は甚大じゃない。


いや、待てよ?


「むしろ、それが結納金じゃないか。今までふゆはを冷遇し、虐めた分を今、返しているんじゃないのか?」

それも、蛇が残した一種の結納金だと思うがな。


「何ですって!?鬼の長も黙っていないわ!娘は鬼の長に嫁ぐ花嫁よ!?」

は?だから何を言っているんだ、母娘おやこ揃って。鬼の長が聞けば激怒しそうだな。あのひとは花嫁大好きだからな。もちろん俺も、他の妖怪たちだって、花嫁は大切な存在なのだ。それを知らず、何を勘違いしているのか。


「そうよ!言いつけてやるんだから!」

小娘が吠える。


「勝手にしてみたらどうだ?そもそも、鬼の一族からの支援金も入っているだろうに」

普通に暮らしても贅沢ができるような金が、振り込まれているはずだが?


「足りるわけないじゃない!」

そうだな。体裁を保つためにウチから送金していたふゆはのための金にも手を付けていたからな。尤も、それは表向きのもの。必要な経費はしっかりと蛇たちに握らせていたから、ふゆはが日常生活に於いて苦労しないようにしてくれた。

もちろんこの小娘が欲しい欲しいコールをして奪わないような、最低限のものしか用意できなかったが、それでもふゆは蛇や蜘蛛たちに守られて優しく育ってくれた。


ふゆはとは、雲泥の差だ。

一体どこで分かれてしまったのか。ふゆはは月守の血を引きつつも、多分あのひとの血を受け継いでいるのだろう。


「だったら、鬼に強請ったらどうだ?」

ウチにゆすりに来たことも、チクっておいてやろう。それでも鬼は、支援金を増やすことはないだろう。この小娘は、そこまでの存在なのだから。


「出ていくが良い」

万が一ふゆはに手を出されては困るからな。


「何でよ!」

「結納金をもらうまで帰らないわ!」


「では、ここに湧かせる。貴様らが悲鳴をあげるほど盛り上がる虫妖怪ズの同胞たちの眷属をな」

ニヤリ。


『ぎゃああぁぁぁぁぁ――――っっ!!!』

だから、湧いてもいないのにそこまでか?全く醜いやつらだ。


「では、出て行け」


「うぐっ」


後妻と小娘は渋々立ち上がり、朽葉が開け放った襖から出ていく。


「このままじゃ、終われないわよ!」

後妻がぽかんとしている隙に、小娘が玄関とは逆方向に走りだす。


一体、何をする気だ!?


「いた!ふゆはああああぁぁぁぁっっ!!」


何っ!?ふゆはが、ここに!?


小娘が疾走していく先には、蜘蛛女たちに囲まれながら歩いているふゆはがいたのだ。


「あの小娘っ!」

そして、ふゆはもまた、その声に身をこわばらせて小娘を見た。





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