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大蜘蛛は愛しの花嫁を溺愛する。  作者: 瓊紗(夕凪.com)
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大蜘蛛の初恋。


「さぁ、ここが俺とふゆはの部屋だ」


「えっと、私と、あなたの?」

ふゆはが首を傾げる。


「しずれでいい。そう呼んでくれ。ふゆは」


「あの、し、しずれさま?」


「さまは不要だ。しずれで良い」


「そ、それじゃぁ、しずれ」


「うむ」

あぁ、やはり嫁は良いものだなぁ。かわいすぎる。照れながら俺の名を呼んでくるんだぞ!?


「にゃ?」

「ん」

「ぬししゃまのへや!」

俺がふゆはに部屋の中を見せてやっていれば、付いてきたのかにゃーちゃんやゆやたちちび蜘蛛たちがとてとてと中に入っていく。


「あ、にゃーちゃんっ!?」


「構わん。ちび蜘蛛たちは元々そう言うノリだ」

部屋にいつの間にか蜘蛛がいたりするだろう?多くの人間は悲鳴をあげるのが残念なことだが。


「ノリ、なのですか」

「そうだな。ほら、おいで」

ふゆはの手をとってやり、部屋の中へ招く。


「あの、一緒の部屋、なのですか?」


「もちろんだ。夫婦なのだから」


「ふ、ふうふ」


「そうだな。まだ夫婦の契りは結んでいないが、だがふゆはは俺の花嫁だ。特別な契りを結ぶかはどうかは、答えは先でいいがな」


「特別な契りって?」

首を傾げるふゆは。え?待って。ちょっと待て。


「まさか、知らないのか!?」

俺はしれっとついて来ていた蛇を振り返る。

蛇もウチに住み着いている妖怪たちに挨拶をしているらしく、その傍には家に住み着く大蜘蛛の一匹であるタイリクユウレイグモのナガレがいた。シルバーブロンドに色素の薄いガラス玉のような瞳を持つ妖艶な青年の姿をしている。


「それは、私の義務ではなかろうに」

「長らく生きていると、当然なものだと思い込んでしまうからな」

蛇がしれっと告げれば、ナガレがこくんと頷く。


「だが、ふゆはは私のお気に入り。気に入らぬことがあれば言うが良い。私が守ってやろう」

そう、ふゆはに顔を近づけて微笑む。いや、俺の嫁だ顔近づけるな。

ぎゅむっとふゆはを腕の中におさめる。


「あ、あのっ、しずれ!?」


「そうそう。我でもよいぞ。この屋敷では古参なのだ。我に比べればしずれはまだまだ若造。説教でもなんでもしてくれよう」

続けてナガレが告げる。

こっ、このジジイコンビめがっ!!

見た目だけは若作りしすぎだが、年齢は俺の倍以上なのだ。だからこそ無下にはできない。月守家も惜しい妖怪に見捨てられたものだな。まぁ、ふゆはを冷遇していたのだからざまぁって感じだが。


「それにメスの方が強いもの」

「虐められたらいいなさいな?叩きのめしてくれる」

と、姐さんとユズリハ姉さん。

この2匹はマジでヤバいから。特に酒入ると酒豪なんて生易しい言葉では済まない酒乱である。

ほんと何する気だ。

まぁ、俺がふゆはを虐めるだなんてことしないが。


「私も、です!」

「うふふふふっっ」

ゆららは無害だからいいとして、椛姉さんの笑みが嫌にこえぇ。


「と言うかお前ら!何でついて来てるんだ!俺とふゆはの愛の巣に!」

「あ、あいの、すっ」

照れるふゆはは本当にかわいいな。蜘蛛で、愛の巣。ふふっ。結構いい表現だったな。


「いいじゃない!何でちびちゃんたちが良くて私たちがいけないのよ!」

と、いつの間にか酒瓶を持っていたユズリハ姉さん。酒持ち込んで飲もうとしてるからだよ!いくら蜘蛛女が強いとはいえ、長の部屋にこうも堂々と。


「ふゆはちゃんが襲われないか、心配、ですっ!」

ゆららの純真さが、傷に染みる。俺、別に何もやってないけどな!!


「この俺が、ふゆはを襲うはずがない。どこまでも大切に、愛でてやろう?」

「ひゃっ!?」

頬を真っ赤に染めるふゆは。あぁ、かわいいな。今夜からさっそくでろっでろに愛でてやろうか。


「ほら、襲う気よ!」

「性的に!」

姐さんとユズリハ姉さんが人聞きの悪いことを叫んでいる。でもいいのだ。人じゃないもん。いいじゃん、夫婦なんだから!


「その、ふゆはが嫌がることはしない」


「しずれ」


「俺と寝るのは、嫌か?」


「い、嫌ではっ」


ないのか?それは、まぁ良かったのかもしれない。

少しだけホッとしたのは内緒だ。


「だけど、私で、いいの?」

「ふゆはがいい。ふゆはでなくてはだめだ」

そう告げて、ふゆはの額に前髪越しで口づけを贈る。


「ひぁっ!?」


「ちょっと、いきなりちゅーとかダメじゃない!私のふゆはちゃんに何してんのよ!」

姐さんが叫ぶ。いや、誰が姐さんのふゆはだ!


「ふゆはは俺の花嫁だぞ!」


「いいじゃない!全ての女の子は私の妹なんだから!」

何その極論わああぁぁぁっ!!


「まぁまぁ、皆様方。ふゆはさまもお疲れなのですから」

そう朽葉が告げればーー


『はぁ~い』

蜘蛛女たちが一同に諦めたように返事する。

いや、何で朽葉の言うことは素直に聞くんだ、コイツら。


「何かあったら呼んでくださいね。すぐに参りますから」

そう、蛇が告げれば、しれっとそこにいたおっきな方のネコハエトリの青年が頷く。

いつの間に、いたんだ!?いや、さっきからいたんだろうが。全く、蜘蛛と言うものは。本当にいつの間にかそこにいるのだから。ま、俺もだがな。


「さて、暫くふたりでゆっくりしてようか。夕餉までは時間がある」

「は、はいっ!」

ふゆはは緊張しつつも頷けば、ようやっと夫婦の寝室に足を踏み入れ、朽葉が見送る中襖が閉じられる。


あぁ、やっと静かになった。


「にゃ?」

「ふかふか」

「ぴょーんっ!!」

あ、違う。ちび蜘蛛たちはいたのだった!


「にゃーちゃん、お友だちできたんだね」


「にゃっ!」

夫婦のためのお布団の上で遊ぶちび蜘蛛たちの中の、にゃーちゃんの側に座って微笑むふゆは。


「にゃ!」

にゃーちゃんが紹介するように示せば、他のちび蜘蛛たちが集まってくる。


先程のユカタヤマシログモのゆやと、もう一匹はオオオニグモちび蜘蛛のさゆだ。あのこはメスで、黒髪黒目である。


その他にーー


「ぴょーん」

布団の上でジャンプしながら楽しんでいるひと際小さな蜘蛛がいた。大きさは手のリサイズ。薄茶の髪に瞳を持っている。その背中からは蜘蛛の脚が見えているが、俺たちのようなもふもふではなく、細くすらりとした脚である。


「ち、ちっちゃい、蜘蛛さん!」

ふゆはが目を輝かせている。


「オキツハネグモだな。蜘蛛妖怪の中でも小さく、ちび蜘蛛だとさらに小さい。おとなでも人間の小学生くらいにしかならないから」

俺がジャンピングするオキツハネグモをキャッチして掌に乗せて見せてやれば、ふゆはが興味深そうに見つめている。


「は、初めまして!」


「う!」

ふゆはの言葉に応えるようにオキツハネグモが告げる。


「コイツの名はククリだよ」


「ククリちゃん、だね」


「う!」

ふんわりと微笑むふゆはに、ククリが嬉しそうに頬を染めている。

普段は人見知りなのに、珍しいな。


それとも先ほど蜘蛛女がぎゅむぎゅむしながらマーキングしていたせいだろうか。うぐっ。何か悔しいが、先ほど俺もぎゅっとしたぞ。マーキングしたんだからな!?


「し、しずれ」


「ん?」

ふとして顔をあげれば、ふゆはが不思議そうにこちらを見ていた。


「あの、私は何をすれば?」


「くつろいでくれていい」


「でも、お仕事は」

あぁ、そう言えばねこさんと呼ばれていた大きなネコハエトリが知らせてきたな。あの家の者どもはふゆはに雑用を押し付けていたと。もちろん、ふゆはのために蜘蛛たちや蛇が陰ながら力を貸していたのだろうが、ふゆはは多分気付いていない。彼らもそれでいいそうだから、俺は何も言わない。


「この家では、そのようなものは不要だ。好きに過ごせ」


「好きに、ですか」


「そうだ」


「何、しよう」


「・・・」


「・・・」


そうして、10分が過ぎた。


えええぇぇぇ――――っっ!!!ど、どうするべきだったんだ、俺は!?ありったけの口づけをあげようか。それとも、人間の社会で流行っていると言う壁ドンでもキメるべきなのか?


「あの」


「ど、どうした」


「特別な契りって、何ですか?」


「あぁ、そうだったな。それはーー」



俺と長い時を共に生きるか。


それとも、生涯を預け先に逝くか。


その選択のことだと教えた。


「それはっ」


「まだ、時ではない。ゆっくり、決めていい」


「あの、私がとの契りを結ばなかったら、しずれはどうなるの?」


「・・・そうだな。その時も、俺はすっとふゆはを思っている」


「どうして、私なんですか?」


「妖怪とは、一途なものなのだ。好きになったら、もう止められない。俺はふゆはに惚れた。だからこそ、俺の愛を捧げる」


「それは、あの時」


「覚えて、いるのか?」


「・・・はい。私は霊力がないから。見えたのは、不思議だった」


「そうだな。だが、ここでは普通に見えるだろう?」

普通はククリほどの小さな蜘蛛ならば、見えないはずだ。


「はい」

ふゆはも頷く。


「それはもう既に、ふゆはがこちら側に来ているからだ。妖怪が囲いこんだのだ。もう戻れない。こちら側のいろんなことが見えるだろう。だが、人間としての生を終えることはできる」


「それが、さっきの」


「そうだな。俺の花嫁に選ばれたことを辛く思うか?」


「そんなことはっ!私は、その。家を出たかった」

あの家を、か。まぁ、そうだな。できることならば、さっさと攫ってしまいたかった。


「だから、感謝しています」


「俺の方こそ」

この優しい少女はーー


「昔、我が同胞を助けてくれたこと、感謝している」

「は、はいっ」

この少女は、霊力がなく微弱な妖怪など見えぬはずなのに。ふとした瞬間にその目に映った異形を恐れず手を差し伸べた。妖怪の中でも、嫌悪感を抱かれることの多い種類なのに。


それに最大限の謝意を述べた。そしてこの少女が欲しいと思った。

だからこそ、花嫁に選んだ。


「あのこは、元気ですか?」

昔ふゆはが助けてくれた、まだ小さくヒト型もとれなかった蜘蛛の妖怪。

普通に見れば、ジャングルの奥にいそうな巨大なもふもふ蜘蛛の姿をしていた。


「それなら、ここにいるが」

俺がさゆの頭に手を当てれば、さゆが嬉しそうにふゆはのスカートをぎゅっと掴む。


「えっ!?でも、あの、蜘蛛の姿でっ」


「あの頃はそうだったな。だが今はヒト型もとれるようになった」


「そう、だったんだ。おっきくなってくれて、嬉しい」

ふゆはがさゆを抱き上げ、そっと抱きしめる。


「ん、しゅきっ!」

「私もだよ、さゆちゃん。また出会えて良かった」

いい、シーンだな。

そしてさゆがふゆはに告った件だが・・・いや、いくら何でもメスの、それもちび蜘蛛に嫉妬なんてしないからな!?

ただ懐いてるだけだから!そう信じてるから!


「ん」

何か、ゆやにぽふっと腕を撫でられた。


やめてぇっ!何か惨めな気分になるぅっ!!




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