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大蜘蛛は愛しの花嫁を溺愛する。  作者: 瓊紗(夕凪.com)
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花嫁と一緒に。


「ひっ!ば、化け物!近づかないで!わ、私は鬼に選ばれた花嫁なのに!」

小娘め。脅してやったのにまだ吠えるか。


『だから何だ?』

それがどうしたとばかりに嗤ってやれば、後妻ファミリーがまとめてがくがくと震えだす。そうだよなぁ?後妻はそれほど霊力が強くない様子。小娘と息子は人間としては高い方だが大妖怪相手に渡り合えるほどの実力はない。


当主はーーまだましなようだが。


それに、俺に借りがあるのは鬼の方だ。

ここまで待ってやったのだから。

それに力は鬼の方が強くとも、蜘蛛妖怪おれたちを敵に回して困るのは鬼の方だと知らないのか?


「わ、わわ、私は鬼の長の花嫁なの!ひれ伏しなさい!」


『は?』

何を言っているんだ?この小娘は。


「お、お、鬼さまが知ったら、ただじゃおかないわ!」


『安心しろ、それはない。だが長の顔に免じて、殺さないでやるだけだ。そう、生きていればそれでいい』

蜘蛛の腕の先の鋭い爪を構えれば、

『その薄汚い口をまずは引き裂こうか。』

そうほくそ笑み、小娘に向けて一気に振り下ろす。


「きゃあああぁぁぁぁぁ―――――っっ!!!」

小娘が涙と鼻水をだらだらと流しながら、泣き叫ぶ。


「や、やめてください!」

それは、意外な反応だった。


花嫁が、ふゆはがっ!俺のふゆはが俺の人間型の腕に抱き着いていた―――っ!?

え、なにこれ。ふゆはが俺に自ら、だと!?蜘蛛の脚まで出して邪魔者どもを脅している最中なのに。なにこれ萌える。


小娘どもよりも、もちろんふゆはの方が優先だ。俺は爪を止めて優しくふゆはを見降ろす。

「ふゆは」

そっとふゆはの名を呼んでやれば、一瞬驚いた顔をしつつも、ふゆはが再び口を開く。


「あの、もう、やめてください」


「何故だ?ふゆはもあれらが憎くはないのか?」

長年に渡り、ふゆはを虐げ、無視してきた連中だ。


「それは、そのっ。それでも、ダメです!鬼との争いになってしまいます!あなたに、怪我をしてほしくありませんっ!」

いや何このかわいい嫁ぇ―――っ!!!


必死に訴えてくるとか、上目遣いとか最高なんだが。ほんと最高なんだがマジで。

う~ん、鬼との争いね。

確かに長の方が強いが、そもそも長がそんな争いを許さない。

だから鬼との争いになることはないんだが。

でも俺の怪我の心配までしてくれるとは。


「俺が恐くはないのか」

普通なら、あの鼻水垂らし女のように脅えてもおかしくはないのだが。


「あなたは、優しいから!本当は、優しいから。だから、やめてください」

う~む。


「我が花嫁が懇願するのなら、この場はおさめてやろうか」


そう言うと、ささっと蜘蛛の脚を背中に収納する。


「あっ」

しかしふゆはは、何だか名残惜しそうに俺の背中を見つめていた。


「どうした?」


「もふもふ」

いや、確かに俺の蜘蛛脚はもふもふだが!?蜘蛛の中でもそう言う種類だからな!だが、そこなのか。


「ほ、ほら」

ふゆはがかわいいので、1本だけもふりと出してやる。


「ふわわっ」

そして俺の人間の腕から腕を放し、俺の蜘蛛脚にぎゅむっと抱き着くふゆは。


やっべ。かわいすぎんだろぉ、この嫁ぇ―――っ!


「まぁ、いい。このまま行こうか。ふゆは、荷物は」


「あの、あちらに」

ふゆはが示したのは、旅行鞄ひとつだけだ。

嫁入りすると言うのに、持たされるものが旅行鞄ひとつって。つくづくくずなやつらだ。


妖怪は花嫁を迎えられるまで、花嫁が安心して快適に過ごせるよう支援をするものだ。俺の場合ーー本来受け取るべき奴らには渡しておいた。コイツラにもはした金はやっておいた。妖怪としてのメンツもあるから。

けれどそれも自分たちで使っていたのだろう。鬼からもたくさんもらっているだろうに。


俺が本来受け取るべきやつらにやった時、その金がふゆはに使われた形跡はなかったと報告を受けた。全く、返金させてやってもいいのだがーーそこは長が色々とやる時に任せよう。


「では、お持ちいたします」

朽葉がさっとそれを持ち上げれば、それと同時にそろそろと妖怪たちが付いてくる。


彼らは一般の家屋にも住まう家妖怪たちだ。

霊力の高い者を輩出する名家とは言えど、家は家。彼らも普通に生活していたようだが。


「にゃーちゃんたち!」

彼らを見て、ふゆははそう呟く。

名前を、つけていたのか?


「にゃっ!」

と、まるで猫妖怪のように鳴く、猫耳のような三角の突起を頭につけたちびっ子。幼稚園児くらいの大きさで、薄茶色にこげ茶色のメッシュの髪をしている。金色のぱっちりとした目はかわいらしく、瞳孔は縦長。

そして彼と同じ髪と目の色だが、20代くらいの青年の姿をしている妖怪も一緒だ。青年も頭に猫耳のような三角の突起をつけている。


「ねこさん」

ねこさん?


「一緒に来てくれるの?」


「にゃっ」

「ん」

ふたりは頷く。

因みにおっきいほうは霊力のないふゆはの目にも普通に映るし、ちび妖怪ではあるにゃーちゃんの方も、家では力を持つ妖怪であることと、おっきい方がいる影響で目に映っているのだろう。


「でも、蜘蛛さんのお家にねこちゃんは、大丈夫?」

ふゆはがこてんと首を傾げる。

萌える!萌えるからそう言うの!・・・最高だからもっとやって欲しい。

それにしても、そこを心配するとは。


「ふゆは、彼らは猫妖怪ではないぞ」


「えっ」

ふゆはは驚いたように俺を見る。


「しっぽがないだろう」


「そう、言えば?」

ふゆはが彼らの背後をまじまじと見る。


「彼らはネコハエトリ。ハエトリグモという種類の蜘蛛妖怪だ」


「えぇーっ!?」

驚いたふゆはも、尊い。

うん、やはり花嫁は最高だ。こうして自分の手の中に抱え込めばこうも様々な表情を見せてくれる。


「あの、では蛇さんも!?」

ふゆはが示した先には、俺のように白い髪を持つ者の、妖怪としては全く別物の好青年がいた。赤い瞳に、色の抜けたような透明感を持つ肌を持つ奴はーー


「蛇は、蛇だ」


「私は蛇妖怪ですよ」


「蛇さんは、そのまま蛇妖怪でよかったんだ」


「えぇ、家にとりつく種類の蛇妖怪です」


「蛇さんも来てくれるの?」


「もちろん。家にとりつくとは言え、気に入った家人がいればついていきます」

蛇が頷く。


「ま、待て!」

その時、声をあげたのは当主であり、ふゆはの父親だった。ふゆはは気まずそうに視線を逸らす。

くっ。今までの冷遇が思いのほかふゆはの心の傷になっていると言うことか。一応、ネコハエトリたちも背中からもっふもふ脚を出せる種類の蜘蛛妖怪。

もしもの時はもふもふさせてやっていたのだろう。それでは埋めきれないほどの傷。

やはりとっちめてやりたかった。ふゆはが望まぬからこれ以上はやらんが。


「その方に、去られては困る!それに、蜘蛛も!」


「アナタ何言ってるの!?あの化け物の仲間なら、とっとと出て行かせなさいよ!」

後妻が叫ぶ。


「そうよ!蛇なんて気持ち悪いわ!何でウチに蛇なんて取りついてるのよ!追い出して!」

小娘が続いて叫ぶ。


「や、やめるんだ!そんなことをしたら月守家がっ!」


『あんな化け物どもは月守家から追い出さないと!!』

母娘おやこ2人が息を合わせたかのように叫ぶ。


「も、もうやめろ!これ以上あの方の機嫌を損ねるな!」

当主が冷や汗を垂らしながらわめく。


「別に、言いたいのなら言うといい」

ふわりと、蛇が纏う空気が変わる。あれは妖力でも霊力でもない。どこか神気に似たものを帯びている。


「お前たちがどんなに私の機嫌を損ねようと、もう私がここにとどまることはない。長らく栄えさせてやったというに、化け物などと呼ばれてはな。それにそなたらは長年に渡り私のお気に入りを虐げたではないか。我らがいなければ、今頃大蜘蛛がこの家ごと滅ぼしていただろうな。鬼の長の制止も振り切って、花嫁を手にしていただろう」


「な、お気に入り?それはまさかっ」

当主が目を見開き、ふゆはを睨む。


「ひっ」


「大丈夫だ」

もふ脚に抱きつかせたままそっとふゆはを抱きしめてやれば、安心したように俺の胸元に身を委ねてくる。何これやっぱかわいいっ!嫁がかわいすぎるだろうがっ!!


「何故、何故仰っていただけなかったのですか!」

当主が蛇に向かって叫ぶ。


「何故?私のせいにする気か?愚か者め。私はふゆはを気に入ったから側にいた。それだけだ。私の加護を受けていると慢心し、そんなことにも気づかずふゆはを冷遇するとはな。それに蜘蛛たちも、その長を化け物と蔑む家になど、滞在しまい。彼らもまた、ふゆはを気に入っているようだ」


「にゃっ!」

「んだな」

ふたりも頷く。


「今後、この俺を敵に回したこの家には、蜘蛛はいつかないだろう」

「無論、蛇もな」


「その方がいいじゃない!蜘蛛なんて気持ち悪い!」

「そうよ!蛇だって!」

「お父さまはどうしてしまったのですか!」

後妻と娘息子が叫ぶ。


「お前たちは何ひとつ分かっていない!彼らに去られたら、我が家は!」

当主が頭を抱えて崩れ落ちる。


うむ。そうだな。蛇がいなくなれば今まで栄えていたこの名家も一気に落ちぶれるだろう。この蛇が金運やら商売繁盛やらいろんな加護を授けていたのだ。しかも神気すら帯びる蛇の気配で悪い妖怪が寄ってこない。更には潜り込んだとしても蜘蛛妖怪がいれば悪いモノは狩って退治してくれるし、寄せ付けなくもできる。


家に置いておけばそんなメリットも招く2種類の妖怪が去り、今後も来ないとなればーー


もう、終わったようなものだな。


「では、行こうか」

花嫁を連れて、彼らも、連れて。


無論、彼らには褒美を遣わそう。我が花嫁を守り育てた、な。それが結納金と言うものである。

俺は妖力を使いみなを一気に転移させた。


大蜘蛛の住まう屋敷。


大蜘蛛の長の屋敷にな。




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