第6話 波乱の1日
教室に入ってからも好奇の目は続いていた。
今は、まりんと別れている。
通常であれば、まりんと一緒に居ない俺に興味を持つ人間などそうは居ない。
「やっぱり、昨日の動画は失敗だったかなぁ」
俺は少し後悔していた。
「まあ、バズったしいいか」
それでも俺に話しかけてくる人間は居なかった。
ただ、ずっと視線を感じている。
そんな感じである。
ちなみに、昨日の動画でティックトックのフォロワーは10万人増えた。
ティックトックは、今一番バズりやすいSNSと言われている。
そのため、一つ動画がバズってしまえば、急激にフォロワーも伸びるのである。
今も順調にフォロワーが増え続けている。
そして、昼休み。
ようやく俺に休息の時間が訪れる。
俺は中庭のベンチに座って弁当を広げる。
周りには俺の他にもチラホラと生徒がベンチに座っているが、こちらには興味が無いようだ。
弁当を口に運ぼうとしたその時、俺の前に影が落ちた。
俺はふと顔を上げる。
そこには、1人の女子生徒が立っていた。
「山川さん……?」
山川愛莉、アイドルとしてデビューを果たした有名人だ。
この学校は芸能活動にも寛容なので、そっちの芸能界にいる人間も珍しくは無いのだが、彼女は別格のような存在だ。
溢れ出るオーラ、正統派美人といえる顔立ち。
お嬢様のような雰囲気がある彼女は、学校の男子憧れの的である。
「こんにちは」
山川さんがにこりとした笑みを浮かべる。
「何か用ですか? 僕みたいなインキャに」
「君、ユーキくんだよね? 本物の」
いきなりぶっ込んで来やがった。
「さぁ、なんのことだか」
「そうやって誤魔化してもダメ! 私の目は誤魔化せないんだから!」
「違うもんは違いますから」
俺がそう言うが、彼女は俺の顔をグッと覗き込んでくる。
「ほら、やっぱりそうだ! なんで前髪下ろしてるの?」
「だから、人違いだって」
「いいよ。誰にも君の正体は言わないから」
彼女の言葉はなぜか重みがある。
この人なら、喋ってもいいのではないか。
そんな風に思ってしまう。
「あんまり、目立ちたく無いんだよ」
「ふーん。まあ、気持ちはわかるけどね」
山川さんもまた、有名人だ。
そのまま人混みに出れば、一瞬でバレてしまうことだろう。
「じゃあ、黙ってる代わりに連絡先教えてよ。私、ユーキくんのことフォローしてるんだよ!」
そう言って、山川さんは俺にスマホの画面を見せてくる。
そこには、俺のティックトックアカウントがフォロー中とされていた。
そして、彼女もまた70万人のティックトックフォロワーがいる大手だ。
本業のアイドルの宣伝を目的として運営しているのであろう。
「フォローありがとう。俺も返しておくよ」
俺はポケットからスマホを取り出し、操作する。
山川愛莉のアカウントを探してフォローを出す。
「もっと、早くフォローしても良くない? 私、それなりに有名だと思っていたんだけどなぁ」
「山川さんは有名だよ。気づかなくてごめん」
「愛莉」
「え?」
「愛莉って呼んで」
呼び方が気に食わなかったらしい。
「じゃあ、愛莉さん?」
「まあ、今はそれで許してあげる。それで、連絡先教えてくれるの?」
「教えるよ。教えなかったらバラすんでしょ?」
「ええ、まあ、そうね」
俺はメッセージアプリのQRコードを表示させる。
「はい、読み込んで」
「ありがとう!!」
愛莉さんは嬉しそうな表情を浮かべていた。
「やった! みんなが喉から手が出るほど欲しいユーキくんの連絡先だぁ! じゃあね!」
そう言って、愛莉さんは去っていく。
そして、放課後。
またクラスメイトたちが矢継ぎ早に質問してくる。
他のクラスからもギャラリーが来ている。
「お兄ちゃーん! 帰ろ!」
まりんが教室まで迎えに来てくれた。
「おう」
俺はなんとか教室から抜け出すことが出来た。
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