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第5話 バレかかる正体

 美南さんとの通話を終え、俺はスマホを机の上に置いた。


「風呂でも入るか」


 時刻は12時手前を示している。

親父は出張で母もまた今日は帰れないそうだ。


 着替えを手に、俺は一階に降りる。


「まりん、風呂入った?」

「まだー、お兄ちゃん先入っていいよ」


 まりんがテレビを見ながら答える。


「あいよー」


 俺はお言葉に甘えて先に風呂に入る。

最近はパソコンの作業が多かったので、疲労が蓄積している気がする。

それも、湯船に浸かると疲れが流れていく。


 お風呂から出ると、俺はパジャマに着替えてリビングに移動する。


「お風呂、空いたぞ」

「う、うん」


 まりんがスマホを見て固まっている。


「まりん、どうかしたのか?」

「お兄ちゃん、やばいよ」

「何が?」

「これ見て、これ」


 まりんがスマホの画面を俺に向けてくる。


「何これ」

「うちのクラスチャット。今日投稿した動画の雰囲気がお兄ちゃんに似てるってみんな言ってるの」


 確かに、そこには色々と書かれている。


【まりんのお兄さん、ユーキさんに似てない?】

【それ、私も思った】

【あ、それ思ってたの私だけじゃなかったんだ】

【実際の所どうなの?】


「お前のクラスにもユーキは浸透していたのか……」

「今どきユーキを知らない高校生なんていないよ? お兄ちゃんは今、みんなの憧れなんだから」

「そうなんだ……」

「もっと自覚してよ」


 確かに、髪もちゃんとセットして街を歩いたら囲まれるが、最近は囲まれることもなくなっていたのでちょっとだけ意識が抜けていた部分はあるだろう。


「すまん。でも、完全にバレたってわけじゃないんだろ?」

「うん、誤魔化しといたけど、もう時間の問題かもよ?」

「そうだな。ちょっと考えてみるよ」


 卒業までは隠し通していたかったが、そんな余裕はもうないのかもしれない。

今度、美南さんに相談してみるとしよう。


「じゃあ、私もお風呂入ってくる」

「おう。俺は先寝るよ」

「おやすみ」

「うん、おやすみ」


 

 ♢



 翌日、今日は平日なのでいつもと同じように学校に行く。

もちろん、今日も髪の毛ノーセットでインキャの根暗スタイルである。


 しかし、なんか今日はいつもより視線を感じる。


「まりん、なんか見られてないか?」


 いつもと同じでまりんと共に登校している。

まりんは学校でも有名になるほどの美人なので、視線を感じることも日常的ではあった。

しかし、今日はなんだか俺が見られているように感じるのだ。


「そりゃそうでしょ。私と一緒に登校すれば目立つんだから」


 まりんはもうこれになれているらしい。

まあ、俺に近づいてくるやつも大半がまりんとお近づきになりたい連中どもだ。

俺になんか興味ないはずだ。


「昨日も言ったでしょ。今、ユーキを知らない高校生なんて居ないって」


 まりんと行動を共にすることが多かったので、俺のことも知っている人間は学校にも多い。

昨日の動画がきっかけで正体がバレかかっているという訳か。


「俺の、平穏な学校生活が……」

「もう、諦めたら?」

「俺は諦めたくないがな」


 そんなことを言いながら、今日も登校した。

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