第29話 夜の海
バーベキューが終わると、外は完全に暗くなっていた。
出版社の人たちも、一通りの取材を終えたので東京に戻るようである。
しかし、俺とひなはあくまでもグランピングを楽しんで発信するのが仕事である。
今日はここんに泊まることになっている。
美南さんたちは隣のロッジに泊まるようだ。
「ねえ、私、海見に行きたいんだけど」
ひなが言った。
「別にいいけど、暗くてよく見えないかもよ?」
「それでもいいから、一緒に行かない?」
「いいよ」
俺は、マウンテンパーカーを羽織る。
ひなもまた、厚手のコートを羽織っていた。
日が落ちたこの時間は一気に冷え込む。
気温は10度らしいが、体幹はそれ以上に寒く感じてしまう。
海は歩いてすぐだった。
「綺麗……」
水面に月の光が反射して、綺麗に映っている。
「確かにそうだな」
俺は、マウンテンパーカーのポケットに手を突っ込んだまま言った。
「優輝くんってさ、この仕事いつまで続けるとかって決めてる?」
ひながちょとくらい表情をして尋ねてきた。
「いや、特に決めてはないかな。急にどうして?」
「私さ、親が厳しくてね……」
「ああ、資産家だっけ?」
そういえば、ひなの両親は資産家だった。
凄い高級マンションに住んでいるのだ。
「そうなの。だから、ティックトックで生計を立てるってこともよく思っていなくて……」
世間的に見たら、TikTokerのイメージはあまりよくはないのかもしれない。
特に、俺たちの親世代からは理解されにくいコンテンツであろう。
最近、YouTuberという言葉がやっと浸透してきたくらいである。
「それで、早く結果出そうって焦ってて……」
「ひなはもう既に結果出しているんじゃないか?」
それは数字が証明されている。
ティックトックのフォロワー90万人、動画投稿サイトの登録者65万人、その他SNSフォロワー50万人。
これは、結果を出していると言っていい数値であろう。
ティックトックに関しては、出す動画の再生回数が常にミリオンを超えている。
「確かに、あまりまだ理解されない職業かもしれない。でも、だからこそ俺たち見たいな人がちゃんとしないといけないと思うんだ。そうやって、今は地道に信用を勝ち取って行くことが必要だと思うんだ」
数字を出している人間が、信用を失うような行動をしてはならない。
それが、そのプラットホームの全体的なイメージへとつながってしまうからだ。
「そうだよね。ありがとう。私、もっと頑張って親を説得してみる!」
「おう、一緒に頑張ろうな」
これから、ティックトック出身のクリエーターは増え続けるだろう。
今はショート動画戦国時代だ。
俺たちはそこに先陣を切ったに過ぎない。
油断していたら、忘れ去られる。
それが、俺たちの仕事なんだ。
「そろそろ、戻るか。寒すぎる。また、朝にでも来よう」
「そうですね」
俺たちは海を後にした。
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