第26話 道中の車内
「今日はセットアップじゃ無いんですね」
ひなが俺の服装を見て言う。
「そうだね。グランピングなのにセットアップってのはどうかと思ってさ」
ひなと会う時はいつもセットアップを着ていた。
基本的に、衣装が指定されていない仕事では俺はセットアップを着ることが多い。
「そうなんですね。似合ってますよ。今日もかっこいいですから」
笑みを浮かべながらひなは言う。
そんな姿、見せられたら可愛いしか出て来ないではないか。
「ひなも今日も可愛いね。その服似合ってるよ」
「本当ですか!? 色々、迷ったのですが変じゃ無いですか?」
「全然そんなことないよ。大人っぽくて可愛い」
いつものひなとも少し違う感じだ。
今日はいつもより、大人ぽい印象を受ける。
いわゆる、お嬢様というのかこういう感じなのだろうか。
「私、バーベキューというものが初めてで、楽しみすぎて昨日はあまり寝れかったんです……」
ひなは小さくあくびをする。
「別に寝ててもいいんじゃないか? まだ着くまでだいぶ時間がありそうだし」
「いや、いけません! せっかくの優輝くんとの小旅行なのですから!」
張り切っている。
いや、仕事だけどね。
まあ、そんな野暮なことは置いて置こう。
俺もこの仕事はシンプルに楽しみだったのだ。
「そういえば、ホームページで確認したけど、ビーチもあるらしいぞ。この時期は寒いかもだけどな」
グランピングの会場が千葉の海沿いなので、ビーチもあるとうことらしい。
流石にこの時期は寒すぎて入れないだろうが、見るくらいはできるだろう。
夏時期なら入れるらしいが、虫が嫌いな俺に取っては、このくらいの時期がありがたい。
「いいですね。海、見にいきたいです!」
「じゃあ、いきますか」
車を走らせること、1時間ほどが経過した。
ひなが急に静かになったと思ったら、スースーと寝息を立てている。
すっと、俺の肩に寄りかかってきた。
女の子の頭というのは、さほど重たくないらしい。
寝顔も可愛いとか、もはや反則ではないのだろうか。
神様というのは、二物を与えないというが、どうやらそれは嘘らしい。
「ひなさん、寝ちゃいましたね」
バックミラーで後ろ確認しながら美南さんが言う。
「ええ、よほど楽しみだったんでしょうね」
「それにしても、優輝くんとひなさんカップルみたいですよね。いっそカップルチャンネルとかやっちゃいます?」
最近は、ビジネスカップルというものが増えてきている気がする。
ビジネスカップルとは、恋愛以外のビジネスライクな理由により、あたかも恋人同士であるかのように仲睦まじく連れあっている男女のことである。
「それは、僕の意志だけじゃ決められませんよ。ひなが何て言うか」
「そんなの、決まってるじゃないでうか……」
美南さんが小さな声で言った。
トラックが隣を通り過ぎたその音でよく聞こえなかった。
「え? 何て言いました?」
「優輝くんの鈍い所、嫌いじゃないけど好きでもありません」
美南さんに言われてしまった。
一体、何だったのだろう。
「美南さんはずっと運転してますけど、大丈夫なんですか?」
かれこれ1時間半ほどは運転している。
「ご心配ありがとうございます。でも、大丈夫です! 運転は好きですし、京都までなら車で行ったことありますから」
都内から京都だと、高速を使っても8時間くらいはかかる距離だ。
それを、運転して行ったというのだからすごいな。
そのまま、約30分の道のりを美南さんは運転しきったのであった。




