第23話 打ち合わせ
ひなとのティックトックライブは大きな反響を呼んでいた。
お互いのSNSのフォロワーは合計で13万人の増加である。
たった、1時間と少しの配信でここまでなるのだから、このコラボは恐ろしい。
SNSのトレンドも俺とひなの名前が目立つ。
「こりゃ、すごいことになってんな」
バズることには慣れたとはいえ、この数字を目にしてしまうと流石にビビってしまうものである。
じわじわとフォロワー数を伸ばしてはいたが、ここまで一気に伸びるのは初めてバズった時以来である。
「さて、行きますか」
今日は美南さんとひなを含めた打ち合わせをすることになっていた。
どうやら、俺とひなにぜひ頼みたい仕事があるらしい。
まあ、企業からの案件が大量に持ち込まれているらしいので、その中から美南さんたちが厳選してくれている。
俺はユーキのスタイルではない。
髪を崩して、メガネとマスクをする。
完全なるインキャモードである。
この姿なら、バレることは無いだろう。
「行ってくる」
「うん、行ってらっしゃい」
今日は休日ということで、まりんは家に居るようである。
最寄り駅から電車に乗って、新宿駅で降りる。
相変わらず、昼過ぎの新宿駅は人で溢れているような状況である。
東口から出て、事務所が入っているビルに向かう。
エレベーターで事務所のフロアに行くと、自分のIDカードで入る。
「お疲れ様です」
「お、優輝くん待ってたよ。お疲れ様」
俺は美南さんと会議室に入ってひなの到着を待つ。
「今日は、そっちの姿なんだ」
前髪を重たく下ろしている俺の姿を見て美南さんが言う。
「ええ、こっちならバレませんから」
そこから、美南さんと世間話をしていた。
数分後、ひなが到着した。
「お待たせしました」
「こんにちわ。昨日はありがとう」
「ゆ、ユーキさん?」
「ユーキだよ」
そういえば、ひなにこっちの姿を見せるのは初めてな気がする。
「本当に、別人みたいですね」
「でしょ? これならほとんどバレないんだよね」
「ユーキさんのプライベートが謎な理由も納得です」
そう言うと、ひなは俺の隣の椅子に腰を下ろす。
「よし、これで全員揃ったね。打ち合わせ初めて行くよ」
ひなと美南さんの他に、ひなの担当マネージャーさんも同席している。
「前にも言ったと思うけど、2人をセットで起用したいっていう案件が増えてるのね」
「まあ、そうでしょうね」
俺とひなを起用しておけば、10代20代に大きなリーチを与えることができる。
「その中でも今回2人にやってもらいたい案件はこれよ」
美南さんが俺たちに資料を手渡してくれる。
そこには、グランピングという文字が書かれている。
「2人はグランピングって知ってる?」
「あの、キャンプをより手軽にできるみたいなやつですよね?」
ひなが資料を見ながら言った。
「ああ、聞いたことあります。最近、流行っているらしいですね」
グランピングとは、グラマラスとキャンピングを組み合わせた言葉である。
テントの設営やバーベキュー道具を準備しなくても気軽にキャンプを楽しめる体験のことだ。
「その通り! そのグランピングの会社さんからの依頼でね。2人にグランピングを体験してもらって紹介して欲しいんだって」
これからの時期は秋だ。
グランピングにはちょうどいいくらいの季節なのであろう。
最近はグランピングで女子会がトレンドになっているほどである。
ここで、俺とひなの力でブーストをかけたいといった所だろうか。
「俺はいいですよ」
「私もです! グランピングとか楽しそうですし」
ひなは資料を興味津々といった様子で眺めている。
「じゃあ、決まりね。当日は雑誌の取材も入るからよろしく」
「了解です」
雑誌も大手出版社が刊行しているものであった。
気合い入っているなと思う。
「一泊の仕事になりますから、その点だけご了承くださいね」
「わかりました」
「了解です」
日程は来週末ということになっていた。
随分と急ではあるが、急ぎでやりたい案件なのだろう。
「じゃあ、当日はよろしくお願いします」
こうして、打ち合わせは終了したのであった。




