第2話 超人気TikToker
俺は家に帰って自分のベッドで横になる。
ただ、ぼーっと天井を眺めている。
今日は何もやる気が起きない。
それでも、ティックトックには動画を投稿する。
毎日投稿というのは、フォロワーを伸ばすために大切なことになる。
ティックトックの仕様として、おすすめ欄とフォロー欄に分かれている。
ほとんどのユーザーがおすすめ欄を見ているので、このおすすめに載るという事がかなり大事になってくる。
動画投稿時から、短時間でいいねやコメント、リンクコピーされたかなどをAIが判断しておすすめに載るという仕組みらしい。
ありがたいことに、俺の投稿する動画はほとんどがおすすめに載ってくれているようである。
「お兄ちゃん、ご飯できたよー」
リビングの方から声が飛んでくる。
俺の妹、戸張まりんである。
「いつも悪いな」
「全然! 気にしないで。お兄ちゃん、お仕事で忙しいでしょ」
両親が共働きで帰ってくるのは遅い。
なので、いつもまりんが夕食を作ってくれている。
「お兄ちゃん、なんか元気ないね。大丈夫?」
「ああ、平気だよ」
俺はまりんが作ってくれた夕食を食べ始める。
「今日の動画、もう結構バズってるよ」
「え、そうなの?」
まだ、投稿してから1時間ちょっとしか経っていない。
「ほら」
そう言って、自分のスマホを俺の方に向けてくれる。
そこに俺の今日投稿した動画が映し出されていた。
いいね数は1万、再生回数は25万を超えている。
「おお、今回は当たったな」
毎日投稿するように心がけているが、どの動画も均等には伸びる。
しかし、稀にそこから突き抜ける動画が生まれるのである。
「お兄ちゃん、いつも前髪上げていればいいのに」
今日の動画はボサボサのインキャスタイルからイケメンに変身するというものだ。
ちょっと前に流行った楽曲だったので、今やっても伸びるか微妙だとは思ったが、見事に当たったらしい。
「なんで、いつもそんなに根暗演じてるの?」
「だって、バレるの面倒じゃん。前髪下ろしてたらまずバレないし」
以前、前髪を上げてきちんとセットした状態で街に出たら、とんでもない数のファンにバレて囲まれたことがあったのだ。
それ以来、外を歩く時は前髪を下ろしている。
「でも、私はかっこいいお兄ちゃんが好きだけどなぁ」
「まあ、卒業まではこのまま行きたいもんだね」
少なくとも、高校卒業までは俺の正体については伏せておきたかった。
俺がTikTokerのユーキだと分かったら、妹のまりんにまで迷惑がかかることは容易に想像ができる。
食事を終えた俺は、ベッドに横になりながらティックトックを眺めている。
これも、今の流行りを抑えるのに大切なことになる。
「この子、最近よく上がってるなぁ」
俺は佐藤ひなという子の投稿を見ていいねを押す。
ティックトックというのは何かのきっかけで、一気にバズることが多い。
この子はここ数ヶ月でそのルックスとダンスで一気にフォロワーを伸ばしている。
「やっぱり可愛い女の子ってのは強いなぁ」
そんな事を思いながら、俺は動画をスクロールした。