幼稚園のお遊戯会で西部劇をやろうとしたら、カサカサ役が人気ありすぎて全員カサカサ役になってしまった
それなりのお金を頂戴している為か、不開催で済ますわけにも行かず、保護者無しのお遊戯会はDVDに焼いて配られる事となった。
「一昨年の西部劇の衣装がありますので、それで……良いですよね?」
職員会議における無言の相槌により、演目がすぐに決まると、翌日に園児を集めて配役が話し合われた。
一昨年の配役は主役のガンマンが二人、バーテンダーが二人、姫役が二人、保安官が三人、荒くれ者が四人、サボテン役が四人、馬役が四人だった。
「えーっと……今年はクラスのお友達も多いので、新しい役を作ります」
さくら組を持つ麻倉花江(42)は、得意気に丸い衣装を園児達に向かって掲げた。
「カサカサでーす♪」
五歳六歳の園児達にタンブルウィードと言っても通じる訳もなく、一先ず西部劇の映画を見せ、カサカサが出て来た瞬間に一時停止を押して見せた。
「これを着て転がって下さ~い」
タンブルウィードの衣装を夜通しで仕上げた花江(42)は、徹夜による疲労でテンションが少しおかしくなっており、やたら元気が良かった。
「やりたいひとー!」
花江(42)が手を上げると、ハナ垂れ小僧達がワッと手を上げた。予想外の反響だった。
「はーい!」「はいはーい!」
「やりたいやりたい!」「やるー!」
「ずるいぞー!」「わたしもー!」
引っ切り無しに上がり続ける小さな掌に、花江(42)は苦笑し、そして一番地味で目立たない子どもを指名した。
夕方、さくら組の保護者からクレームの電話が入った。普段から何かと面倒な、神経質ママからの文句だった。
「何故ウチの子がカサカサじゃないんです!?」
「えーっと……それはですね……えー……」
「ウチの子もカサカサにして下さい!!」
「は、はぁ……」
花江(42)は、まさかのクレームに返す言葉も見付からず、受話器を下ろす瞬間に更なる徹夜を覚悟した。
材料はまだある。型紙もある。二作目はそこまで時間はかからなかった。
「カサカサ役を太郎くんにもお願いします」
「えーっ?」「なんでー?」
「ずるーい!」「わたしもー!」
当然の如く注がれる批難の木枯らし。
花江(42)はそれを諫める気力も無く、とりあえず「ごめんね」とだけ謝った。
残りの役も適当に当てはめ、小道具の確認が終わり次第、体育館で練習をするだけとなった。
「ウチの子もカサカサ役がいいってずーっと言ってるんですけど!?」
「ウチの子もカサカサがいいと……」
「一人くらいカサカサ増えても大丈夫ですよねぇ?」
三件、全てのクレームが例によって例の如くカサカサ役を申し出る物だった。
花江は何故そこまで園児達がタンブルウィードに執着するのかがよく分からなかったが、衣装の作成に時間を取られることだけが気掛かりだった。
「……眠い」
花江(43)は連日に及ぶ睡魔との戦いに打ち勝ち、タンブルウィードの追加衣装を全て取り揃えた。
四人が衣装を着てクルクルと転がる。
他の園児達から羨望の的となったカサカサ役を見て、花江(43)は幼稚園を早退した。
「ごめん、手伝って」
土日を利用して夫に衣装作りを手伝わせた花江(43)は、クラス全員分、タンブルウィードの衣装を作り終えた。
お遊戯会の撮影は無事に終わり、DVDが配られた。
ガンマンに扮した先生二人が、距離を取り腰のホルスターに手をかけようとしている。
そこへタンブルウィード衣装を身に着けた園児達が、順番に右から左へ、左から右へと転がり始める。
全ての園児達が転がり終えた瞬間、銃を抜き、銃声が鳴った。
悪役ガンマン役の先生が倒れると、保安官役の先生がやって来て、悪役ガンマンを引っ捕らえ幕が下りた。
翌日、カサカサが多すぎると幼稚園に21件のクレームが入った。
花江(43)が「こちとら不眠不休で衣装作ったんじゃい!! 次からご家庭で衣装を準備なさいますか?」と凄んで見せると、保護者は誰一人文句を言わなくなった。