■4 ある冬の日に××は
二本目は物語の根幹に関わるような話……みたいな?
彼女は一人街の中を歩き回っていた。特に当てもなく、ただただ気ままに慣れ始めた街並みを見て回るのだ。しかしここで注意すべきは街と言っても彼女の行動範囲は広く浅いこと。それ故、今は発展はしているものの何処となく面影を残す町にあった。
「寒いですね」
彼女は一人そう呟く。その言葉を聞いてくれる相手などいないので、当然虚空に消えていく独り言だった。
それに加えて時期も時期なので、例え近くに人が居たとしてもその言葉に耳を傾けることなどあり得ない。何故なら今日は大晦日なのだから。
師走の終わり。一年の締め括りである今日は様々な人で行き交う。
愛する家族と戯れ、安らぎにつく者。新年の挨拶を忙しなく行うため前日から神社の前に並ぶ者。己が欲求を満たすべくひた走り魂を燃やす者。あと数時間で時期にやって来る正月を境に景気を盛り上げるべく朝と涙と喉仏を捧げる者などこの時期には人の持つ様々な一面を覗かせる。
それはこの日本という国も例外ではない。昨今では世界とのグローバル化を促進させるべく大々的な改修工事。いわゆる都市開発を進めてきていた。その恩恵は少なからず私の計画や事業にも追い風となってくれていて、そのおかげで私はこうして暇を持て余していられるのだ。それは本当に暇で暇で仕方がない。
「皆さん優秀ですからね」
優秀過ぎて手に余る。そうは思わない。手に余るものを使いこなせてこそだろう。それが出来ないのであれば二流だとボヤかれるに違いない。
誰とは言わない何かに向かって彼女はそう念じる。そうやって頭上を見上げていると、黒い雲が出来ていた。これから天気が荒れる。即座に察した彼女の予想は当たり、白いふわふわしたものが舞い落ちる。
「雪ですか……」
掌の中に滑り込む白いものは人肌に触れるや否や消えてしまう。その儚さが何とも美しく、この国の自然の豊かさをより深く醸し出す。
「これからもっと寒くなるのですね」
この後、記憶はぐんと下がる。
彼女にはそれがわかっていた。このまま帰ってもいいのだが今は一人でいたい気分だった。今彼女がこの場にいる理由。それを察してくれる人は少なくともこの場にはいない。
「早く見つけなくてはいけませんね。しかしどうすれば……」
今の彼女には地位も権力もある。資産だって十分で、普通に暮らす上ではなに一つ不自由がない。それなのに彼女の心は休まるところを知らず、今日も焦り世界の行く末を見守っていた。
誰にも届かない。誰にも分からない。それが知れているにも拘らず、彼女自身それを物語の一つのように捉えるのだ。
「まあいいです。いま私がすべきことは××に慣れることとなんとしてでも××を見つけること」
彼女には目的がある。そのために彼女は今日も生き続ける。しかしその目的を果たす術がない。そのもどかしさがどうにも彼女を苦しめるのです。
「なにかいい方法は……ん?」
そこで彼女が見つけたのは子供達の話し声でした。
なんの話をしているのでしょうか。
「なあなあこれからゲームしようぜ!」
「いいよ!でもオンラインじゃないの?」
「オンラインじゃできねーやつなんだよ。とっとと行くぞ!」
「ま、待ってよ!」
たわいもない会話です。
ですがここで彼女はヒントを得ました。
「“ゲームですか”」
彼女中に何か閃きが生まれます。それは目的意識とは関係のない何か。単純な興味です。そのために行動しなくてはならない。そう思わされてしまうのには何か理由があるのでしょうか?強い思いがあるのでしょうか?それはわかりませんが、彼女はーー
「このような物語りを創作するのはどうでしょう」
彼女はデスクの上のパソコンに書かれた大量の文字群をにやけ顔で笑む。
「外は雪ですか。やはり大ぶりですね」
彼女はこの結果を最初から知っていたみたいな反応だった。天気予報ではこんなに降るとは言っていなかったはずなのに、ここ数時間で天候が大荒れした。やはり私の力はこの世界には強大すぎる。それがわかっていてもなお、彼女自身この活動をやめようとは思わない。何故なら彼女には目的があるのだから。
そのために誰か何かを犠牲にするつもりはない。しかしそのための糧となるならいくらでも身を焦がす覚悟が彼女にはあった。
そのためにも今は行動する力、休む力を養う必要がある。だから彼女は今日と言う門出を嗜むのだった。
その手には日本酒の入ったお猪口が握られていた。
「さて、新しい××を××ましょうか」
月明かり一つ見ることの出来ない曇天を見つめ返して。