魔法少女やってるんですが、相方が熱血過ぎて困ってます。
私、阿久亜 海。中学ニ年生で世界の平和を守る魔法少女やってます。
クマのぬいぐるみみたいな妖精グリオにスカウトされ、最初は一人で魔界の魔物達と戦ってたんだけど。最近二人目の魔法少女が現れて、その子とコンビを組むことになったの。でもその子が変わった子でして。
「紅蓮 花蓮だ。以後よろしく。」
・・・ふぅ。
はい、私の相棒の花蓮ちゃんの何が問題かというと、とにかく熱すぎる。授業中も筋トレしてるし、腹筋バキバキ、顔は割りかし綺麗なのに、鼻のところに一文字傷があって、本人に聞いたところによると熊と戦った時に出来た傷らしい。
なんでも物心ついた時から、有名な格闘家である祖父に拉致同然で山籠りの修行をさせられ、学校にも行かず日々鍛錬の日々だったらしい。そんな驚きの経歴の彼女が何故魔法少女になったかというと、私が魔物と戦って苦戦している時に、丁度山籠りを終えた花蓮ちゃんが颯爽と現れ、生身で魔物と戦い始めたのがキッカケである。驚きの戦闘力で魔物と互角以上の戦いを繰り広げた彼女だったんだけど、魔物は魔法力を使わないと退治出来ないので、グリオが仕方なく彼女を魔法少女にしたわけ。仕方なくというのは、彼女の魔法力がほとんどなく、本当なら魔法少女として相応しくなかったんだけど、私も戦えない程ダメージを負っていたので、緊急措置として彼女を魔法少女にしたってわけ。いやぁ、でも最初に動き辛いって理由で、花蓮ちゃんが衣装のフリフリスカートをビリっと破ったのはビックリしたわ。
こうして花蓮ちゃんは魔法少女となり、私の相棒になり、次いでに私の中学校に通うことになった。偶然にも私と同い年で、同じクラスになり、隣の席になったのは、私にとって不幸でしかない。
「海殿、足し算を教えて下さい。」
はい、出た。休み時間に分からないところ聞いてくるやつ。
しかも、足し算である。初歩の初歩である。
「た、足し算ならこの間教えたじゃないですか。」
「はい、それは分かったんですが、今度は十の位の足し算を教えて下さい。」
もちろん私は先生じゃない。生徒よ。なんでこんな初歩の初歩を教えないといけないのよ。
でも花蓮ちゃんの困り果てた子犬の様な顔を見ていると、教えないわけにもいかなかった。
「分かりました。教えます。」
「おぉ、海殿。ありがとうございます!!」
彼女は包帯の巻かれた両手で、私の右手をギュッと握って、ニカッと笑った。不意の笑顔が可愛いじゃねぇか。
「た、大変だクマ!!」
急に私のバックの中から甲高い声が聞こえてきた。やれやれまたか。
バックのファスナーを開けると、熊のぬいぐるみ、もといグリオが飛び出して来た。
「大変だクマ!!」
うるさいなぁ、まぁ、皆にはグリオの声は聞こえてないし、姿も見えてないから良いけど。
「どうしました。グリオ殿。」
「どうしたもこうしたもないクマ!!魔物が出たクマ!!魔法少女出動クマ!!」
はぁ~~~、どうやら十の位の足し算を教えるのは後回しらしい。
「いやぁ、二人揃って大便となると皆が怪しんでましたな。はっははは♪」
現場に急行しながら笑いながら喋る花蓮ちゃん。
教室から出る際に、彼女がクラス皆に「私と海殿は今から厠に行ってくる。大だから遅くなる。」と言ったもんだから、私は泣きそうである。登校拒否になる勢いである。
「まぁ、誰だって糞ぐらいするクマ。気にするなクマ。」
このクソぬいぐるみ。中の綿抜いたろか?
丁度グリオに対する殺意が水増しされた頃、現場であるショッピングセンターに到着した。ショッピングセンターは閑散としており、ボロボロで荒廃している。
「これは酷いですな。許すまじ魔物め!!」
熱い熱い、花蓮ちゃんは目の中に炎が見えるぐらい怒っている。私は現代っ子だからあまり怒りは湧いてこないけどねぇ。
「待っていたぞ、マジカルエレメントガールズ。」
不意にショッピングセンターの奥の方から声が聞こえて、声のした方を見ると、のっしのっしと黒い鎧を着た、巨体の豚人間みたいな奴が歩いて来た。おそらくコイツがショッピングセンターを襲った魔物だろう。
「海殿、変身しましょう。マジィカル!!エレェメェントォ!!チャァアアアアアジィィィイイイ!!」
声がデカいし熱い、萎える。私が言うの恥ずかしくなるじゃん。
「ま、マジカルエレメントチャージ。」
我々、魔法少女隊マジカルエレメントガールズが「マジカルエレメントチャージ」と言うと、腰にハートがあしらったベルトが巻かれて、戦闘服のフリフリ衣装を着た状態になる。こうしてマジカルエレメントガールとして戦うことにが出来るってわけ。
「流れる水は止められないわよ!!エレメントウォーター!!」
あっ、これ私の名乗りです。変身した私の名前エレメントウォーターなんで良かったら覚えていってね。
「うぉおおおおお!!悪を滅する正義の炎!!エレメントファイヤーーーーー!!参上!!」
花蓮ちゃん相変わらず熱いし中二だし、やっぱりスカート破いてるし、破ったからパンツちょっと見えてるし、色々アウトだよ花蓮ちゃん。
「ふっ、マジカルエレメントガールズ、ここが貴様らの墓場になる。何故なら十二神将の一人のこの私、ブータンさまが相手だからな。」
名前ブータンとかダサッ!!こんな奴はさっさと早く倒さないと、クラスの皆に便秘気味だと思われるわ。
「ブータン!!相手にとって不足なし!!ドォオオオオオリャァ!!」
先手必勝で花蓮ちゃんが正拳突きをブータンの腹にズドンッ!!と炸裂させた。花蓮は魔法力は少ないけど、戦闘衣装に着替えることで、元から高い身体能力が更に向上されてるので、格闘戦において無類の強さを誇る。魔法のステッキ使ってるの見たことないし。
「フンッ、効かぬわぁ!!」
ボヨンと花蓮の拳を跳ね返すブータン。あれ?これはヤバいかも。
「一発で駄目なら何発でもぉおおおおおおお!!」
拳を連続で突き出す花蓮ちゃんだけど、その度にブータンの体はボヨンボヨンと彼女の拳を跳ね返す。
「ふははははは!!無駄だ!!貴様の攻撃は私には効かん!!この弾性の体には格闘攻撃の類は効かんのだぁ!!」
なんと相性最悪じゃん。これは不味い。
その内にブータンは右手に持った鉄槌で、花蓮ちゃんの体を容赦無くぶっ叩いた。
"ドガァ!!"
「ぐぁああああ!!」
体を殴られショッピングセンターの柱にぶつかる花蓮ちゃん。
"ドォオオオオオン!!"
轟音を立ててショッピングセンター自体が揺れる。ヤバイヤバイ。
立て続けにブータンは、鉄槌を次々に花蓮ちゃんに向かって投擲し始める。魔法力を使って鉄槌を次々に召喚して投げるブータンを私はただ呆然と見ていた。だって今までの敵とレベルが違うんだもん。正直、足がすくんで動けない。
ブータンの攻撃で砂埃が巻き起こり花蓮ちゃんが見えなくなり、それから暫くしてショッピングセンターが倒壊した。
私は情けないことにその場から逃げ出してしまった。
あんなの勝てっこない。
私は逃げて逃げて、大きな橋の河川敷の高架下に逃げ込んだ。
そこで仲間を見捨てて逃げた自分が情けなくて体育座りでシクシクと泣いていた。
「全く、情けない奴クマ!!この駄目魔法少女!!」
こんな時に容赦ないグリオ。まぁ、優しい言葉言われても自己嫌悪の気持ちが消えるわけじゃないけど。
もう時刻はすっかり夕方。いつもは綺麗な夕焼けも、今日ばかりは違ったふうに見えるわ。
「逃げても敵は追ってくるクマよ!!どうするクマ!?」
「知るもんか!!」
私はうるさいグリオを掴んで川に投げ込んだ。
"ジャポーーーン!!"
「や、八つ当たりはやめろクマ!!」
そうだ、八つ当たりなんかしても更に惨めになるだけだ。
「見つけたぞ!!」
怒号のような声が聞こえて振り向くと、そこには恐ろしいブータンの姿が、私は思わず悲鳴を上げた。
「ひぃいいいいいいい!!」
腰が抜けて走って逃げることも出来ずに後退りする私。怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!
「仲間を見捨てて逃げるなど戦士の風上にも置けない奴だ。その頭かち割ってくれるわ!!」
どうやら私が花蓮ちゃんを見捨てて逃げたのが気に入らなかったらしい。勘弁してくれ、私は中学2年生の女の子よ。戦士の心得とか知ったこっちゃない。
命乞いをしようとして土下座でもしようかと思ったけど、その時、とあるメロディが聞こえた。
「〜♪〜♪〜♪」
口笛のメロディが橋の上の方から聞こえ、上を見上げるとそこにはボロボロで、頭から血を流している魔法少女の姿があった。
「か、花蓮ちゃん!!」
良かった生きててくれたんだ。見捨てておいてなんだが嬉しくて涙が出てきた。ごめんね花蓮ちゃん。あとメチャクチャ格好良いよ。
「き、貴様!!生きていたのか!!」
「この世に悪がある限り、私は不滅だ!!」
熱い、でもその熱さが今は心強い。
「海殿!!」
「は、はい!!すいません!!」
名前を呼ばれて反射的に謝ってしまった。やっぱり怒ってるよね。
「無事で何よりです!!お手数かけますが、早急にブータンを冷やして貰えませんか!!」
「わ、分かりました!!ウォーターブリザード!!」
私は一度は見捨てた彼女に報いる為に、全身全霊の吹雪魔法をブータンにぶつけた。幸いにも水辺なので私の魔法は使い放題である。
「むっ、こんな攻撃で私が倒せるものかよ!!」
ブータンは平気そうだけど、私は構わず吹雪魔法を撃ち続けた。相方のことを信じて。
「この一撃に私の全てをかける!!トォォオオオオオ!!」
橋の上から飛び降りて、真下のブータンに向かって一直線の花蓮ちゃん。そして右手を突き出して、更に人差し指を突き出し、その指に炎を灯した。魔法力の少ない彼女にとって指に炎を5秒灯すのが精一杯の魔法だったが、前にそれだけあれは充分だと彼女は笑っていた。
「急激に冷やされた体を炎で熱せば!!ドォオオオリャアアア!!紅蓮空手術・一指集中突きぃいいいいい!!」
"グサァアアア!!"
彼女の指の突きはブータンの頭に突き刺さった。そして、無敵を誇ったブータンの弾性の体がボロボロと崩れ始めた。
「ば、バカなぁああああああああ!!」
断末魔の悲鳴を上げ、ブータンはパァン!!と、とうとう全て砕け散ってしまった。これって花蓮ちゃんの勝ちよね?
全ての力を使い果たした彼女は、バタッとその場に倒れた。すかさず私は彼女に駆け寄る。
「やったね!!花蓮ちゃん!!」
「いや、これは二人の勝利ですよ。海殿、よくやってくれました。」
「そ、そんな私。途中で逃げちゃったし。」
私は褒められる様な女じゃない。
「いえいえ逃げるのも一つの手であります。ほら、おかげで強敵を倒せたのですから、結果オーライですよ!!」
「か、花蓮ちゃーーーん!!」
私は思わず彼女を抱きしめた。この人良い人すぎるでしょ。
「お前らよくやったクマ!!信じてたクマ!!」
うるせぇ、腹黒クマ。水指すな。
というわけで、今回は熱すぎる相方のおかげで強敵を倒すことが出来たわけで、次からは私も少しは彼女を見習って熱さを見せて、逃げないように努めたい。
ちなみに次の日、学校で私達に付いたあだ名は【大便サボりガールズ】で不名誉極まりないものであったとさ。