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愚者の舞い 4−9

 それなら全額負担してやる、そう言いだしそうなハプルーンの目を見返し、

「金じゃ解決になんないでしょうが。」

先に言われ、ハプルーンも開きかけた口を閉じる。

「こう言う時に頼むのは、あいつしかいないじゃん? ポルン。」

「あいつ・・・? お〜! おらもまだ、頼みごとしてないお!」

「最悪、2人で頼み込んじゃおう。」

クスクスと笑いながらそう言うと、ポルンも笑顔で頷いた。

「おい、お前ら。 もしかして、あいつって・・・。」

ハプルーンが信じたくないと言いたげにそう聞くと、2人は満面の笑顔を浮かべながら答えを叫んだ。

「「モリオン!!」」

あいつって誰の事だろう? と、気楽に構えていたルーケ達こそ度肝を抜かれた。

「呼びましたか?」

驚きに声を出すより早く、いつの間にか離れた場所に立っていた。

中背の筋肉質な冒険者、モリオンが。

「師匠!?」

「「「師匠??」」」

今度はハプルーン達の方が驚いた。

「やれやれ、この世に現存する弟子勢ぞろいですか。 おまけにきな臭い状況の様ですが・・・そちらが理由で呼んだわけではなさそうですねぇ。」

「弟子・・・って・・・師匠、この子達も?」

「貴方がその2人を子と呼ぶのもおかしな話ですけどね。 飛んだ年数を考慮しなければ、遥かに年上ですよ。 その2人は。 それで、頼みごとはなんですか? シノンさん。」

「ちょっと待ってくれ、モリオン。 シノンとポルンが弟子だと? それに、この若者も? なんなんだ、この、不思議な関係は?」

「聞かれなかったから言わなかっただけですよ。 共に冒険をした関係でもね。 恐らく、この場に集まってしまったのは、この馬鹿弟子の運命に巻き込まれたからでしょう。」

「運命に巻き込まれた・・・?」

「そうです。 信じる信じないは貴方がた次第ですが、私がルーケを弟子にしたために、世界の運命にひずみを与えてしまったようなのです。 もしこの馬鹿弟子が銀竜を倒そうとしなければ、その2人も弟子にする事は無かったでしょう。」

「え? どう言う事??」

「おら達、なんか悪い事したかお?」

「銀竜アクティースは、私の友人でもあります。 死を迎える命運を世界が変えさせまいと、貴女達に関わらせたのです。 私は普通、弟子などとりません。 まして、そこの馬鹿弟子で懲りていますから。 貴女達に関わる事で、アクティースの死を忘れさせられていたのです。 ですが、関わりは関わり。 恨むつもりはありませんが。」

「そんな小難しい事はどうでもいいお。 この子を頼みたいお。」

折角の説明を一刀両断にされ、思わずモリオンも苦笑いを浮かべる。

「ダークエルフとは珍しいですが。 どこに行きたいですか? 貴女の様子を見る限り、今までのように人里離れて暮らすのは止めた方がいいでしょうけど。」

そう言うと、キュエーシスはビクッと身を震わせ、ギョッとした顔になる。

「・・・? どう言う事だ?」

「美しい女性には秘密が多いのですよ。 貴方は王位に就いて何を成すか、そっちに専念すべきですね。 貴女には帝都の屋敷に暫く住んでいただきます。 その後は、ご自由に。 それでいいですね?」

キュエーシスは何か言いたそうだったが、魔の存在だけに、敏感にモリオンの正体を察知し、渋々頷く。

「では、そのように。」

そう言うなり、モリオンとキュエーシスは姿が消えた。

あっけなく姿を消され、最後の別れの言葉も言えず、呆然とするハプルーン達であった。


 そっと水に足を付けると、氷のような冷たさが即座に伝わる。

霊峰から流れて来る水は、温暖な地域にも関わらずかなり冷たい。

フーニスは一旦足を上げると、衣服を脱いで一糸纏わぬ姿になった。

良く分からないゴタゴタに巻き込まれ入りそびれていたが、皆が寝静まってから何とか入りに来れた。

冷たい水は眠気を綺麗に吹き飛ばし、疲労も癒してくれるような気がした。

だが、いつまでもそんな感覚に浸ってはいられない。

冷たい水は体力を奪うし、ヒルなどの危険もある。

何より、皆から離れている上に全裸では、何かに襲われた時に対処できない。

手にした手拭いを水に浸し、腕から丹念に、それでも素早く、全身を拭いてゆく。

鍛え上げた自らの裸体だが、綺麗になればなるほど虚しくなって来た。

綺麗になって、誰に見てもらうのか?

綺麗になったところで、あいつは振り向いてくれるのか?

知り合った時、まるで何も知らない乙女のように心が引かれた。

一目惚れと言ったら大げさかもしれないが、とにかく気に成る存在になった。

だから、一緒に行こうと言われた時、内心小躍りするほど嬉しかった。

だが、その結果は?

あいつが欲しかったのは、シーフとしてのスキルであって、私自身ではない。

同等の腕前か、それ以上の腕があるシーフなら、喜んで入れ替えるのではないか?

そんな不安が、心をよぎる。

「結局、惚れた者の負けなんだよね・・・。」

フーニスはそう呟くと、不安を振り切るように頭を強く振った。

「人が人に恋するのは、自然な事じゃなくて?」

不意に岸からそう言われ、フーニスは驚いて振り返った。

「驚かせてごめんね。 私も元々シーフだから、忍び足と尾行はそれなりに出来るのよ。」

そう言いながらシノンも衣服を脱ぎ、川に入って来る。

「ん〜・・・つめたっ! やっぱり、川の水は冷たいね。」

「あんた・・・元シーフ? 精霊魔法使いじゃなくて?」

ハーフエルフだけに、シノンもほっそりとした体形だ。

だが、本物のエルフとは違って、普通の人間平均には多少劣るものの、出る所は出ている。

「一人で逸れてどっかに行くからさ。 着いてきちゃった。 私は元々、ギルドに所属しないで独りで生きてたんだけどね。 幼い子供じゃ限界があるじゃない。 そんな時、ポルンのお母さんに助けられてね。 それ以来、あの子と付き合ってるのよ。 ま、あの物怖じしない性格に引っ張られて、モリオンの弟子にもなったけどね。」

朗らかにそう答えるシノンに、フーニスは疑問に思った。

もしかして、あいつの正体を知らない・・・?

そんなフーニスの疑問に気が付かず、シノンも手拭いで体を拭きながら、

「恋って、しようとしてするんじゃなくて、いつの間にかしてるのよね〜。 私もね、あの突進馬鹿を一時でも好きになったのを後悔するのよ。 でも、想いは消えないのよねぇ。」

突進馬鹿と言うのが誰を指すか、すぐに気が付き、吹き出しそうになる。

「おっかしぃでしょぉ? しかも人の事、俺も好きだとか言って抱いておきながら、もっと好きな相手が出来たって。 まあ、相手があの子じゃ仕方が無いなぁとか想ってはいるんだけど、それでも酷過ぎるじゃないあいつ。」

「抱いてくれるだけマシじゃない。 あたしなんて、女とさえ見てくれてないんだよあいつ。 こんなに魅力的なのにさ。」

そう言いながら、自慢の胸を両手で持ち上げて見せる。

時に邪魔に思うほど、人並み外れて突き出した胸。

あいつを好きになる前までは、邪魔にしか思っていなかったのに。

いや、邪魔どころか、嫌悪さえ抱いていた。

そもそも、女に生まれた事を嫌悪していたのに。

今は、女であって良かったとさえ、時に思う。

「お〜、見事に育ってるね。 おかぁさんは嬉しいよ。」

そう言いながら、シノンは自慢そうに頷く。

「育てられた覚えはないよ。」

そう言って、2人は笑った。

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