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愚者の舞い 4−7

 意思の強そうな太く濃いまゆ毛、顔立ちは整い、筋肉は全身はち切れんばかり。

全身金属鎧のプレートメールを着ているのに身のこなしは軽く、重い大剣も軽々と扱っているように見える。

そんな大男が、よりによってダークエルフを俺のと言った際には、誰だって戸惑うだろう。

「私はお前の、物になった覚えは、ない。」

だが、苦しげな息遣いながらハッキリとそう言われ、横で聞いていたハーフエルフは苦笑いを浮かべ、大男は即座に体ごと振り返った。

「あんなに愛し合ったのに、そりゃないだろお前!?」

突然現れて斬りかかって来たと思ったら、突然無防備に背中を向けられ、ルーケ達も戸惑う。

「すまんが、どう言う事か説明してくれないか?」

一応警戒しながらルーケがそう言うと、大男はルーケ達の事を思い出したように振り向きながらダークエルフの前に飛び下がり、身構える。

「どうやら追手じゃないようね。 お騒がせしてごめんね。 私はシノン。 こっちの黒いエルフがキュエーシス、このウドの大木がハプルーンって言うの。」

「誰がウドの大木だ!?」

ニコッと笑ってシノンがそう言うと、即座にハプルーンがそう怒鳴り、途端にシノンの綺麗な顔が般若も驚く顔に変わる。

「問答無用で飛びかかる大馬鹿野郎を他にどう説明しろって言うんだ!?」

まるで町のヤクザの様にドスの利いた声で一喝され、ハプルーンは押し黙る。

その途端、またコロッと優しげな顔に変わって、ルーケ達は戸惑うばかりだ。

「まあ見ての通り、この子ダークエルフでしょ? 追手がかかって逃げてる時にこの2人が喧嘩しちゃってね。 で、この有様。 迷惑かけてごめんなさいね。」

「・・・なぜ、そのダークエルフを庇うんだい?」

「異様な組み合わせでしょ? 私もそう思うけど、仲間だからね。」

「俺は恋人だからだ。」

微笑みながらそう言うシノンに対し、絶対に意思は曲げないと言わんばかりにハプルーンはそう宣言した。

「おらも仲間だからだお。」

いつの間にか、キュエーシスの背後から口に手を回して塞いでいたポルンに、全員驚く。

シノン達どころか、そちらを注視していたフーニスでさえ気が付かなかったのだ。

「ポルン! あんた、いつの間に!?」

「たった今だお♪ おらを差し置いて、遊んでたら駄目だお。」

「遊んでないから。」

キュエーシスから殺気が放たれた瞬間には、絶妙のタイミングで飛び離れ、ポルンは平然と歩み寄ってキュエーシスの脇腹に無造作に手を伸ばし触る。

痛みに顔をしかめるキュエーシスを見て、

「肋骨が折れてるお。 シノンちゃ、いやらしいをかけるお。」

「い・や・し! まったく、あんたがいると緊張感も何も無いわね。」

「余計な事を、するな!」

呪文を唱え始めたシノンの手を掴んで止めると、シノンは再び鬼のような形相になった。

「やめんかぁ! キュエー! いい加減素直になれ!」

「私はいつも、素直だよ。 自分にな。」

「じゃあ、痛いのが気持ちいいのかお?」

そう言いながら脇腹をツンツンと突くと、キュエーは激痛に顔を歪めつつ悶える。

この隙とばかりにシノンが呪文を唱え、サクッと回復させると、言いたい事は色々あると言わんばかりに複雑な顔をし背け、それから遠慮がちにぼそりと。

「ありが・・・とう。」

世にも珍しいダークエルフの感謝の言葉を聞き、シノンは満足げに微笑む。

「すまんなお前達。 迷惑をかけた。」

「まあ、怪我も無かった事だし、それは良いのだが・・・。 これからどこへ行くんだい?」

「まだ行き先は決めてはいないし、決めていても教えられない。」

ハプルーンの答えは至極もっともだったので、ルーケは頷くだけにとどめた。

追手がかかっているのに、行き先を教えて行く馬鹿もおるまい。

ハプルーンはそう言いながら背負っていた鞘に剣を収めようとして、急に振り向いたと思うと、ポルン目掛けて剣を振り下ろした。

「うのぉお!?」

ポルンが咄嗟に後ろに転がると同時に、真っ二つにへし折られた矢が落ちる。

「追い着いて来おったか。」

そう言いながらハプルーンが睨み付ける先には、1人のアーチャーが次の矢を番え直しているところだった。

「助けるぞ!」

そう言いながら駆け出したルーケに、仲間達は戸惑いつつも続き、キュエーシスを中心に、ルーケとラテル、それにハプルーンが前面に壁のように立ち、右脇にシノン、左脇にフーニス、後ろにロスカが立つ。

「お前達?」

「話は後だ。 とりあえず、種族だけで討伐するなど間違っている。」

「うちのリーダーは若くて無鉄砲で頑固だからな。 何を言っても無駄さ。」

「そうそう。 女絡みってのがちょっと納得いかないけどね、いつもいつも。」

ラテルとフーニスの言い分には苦笑いを浮かべるしかないが、確かにハルマといいアクティースといい、女性タイプである事は間違いはない。

とにかく、今は手助けはありがたいため、ハプルーンは襲撃者に集中する事にした。

「いい加減にしろ! 俺はたとえ誰がなんと言おうと、キュエーシスを渡しはしない!!」

「しかし! 我々も引くわけにはまいりません!! 陛下!!」

「「「陛下!?」」」

アーチャーの言い分に、ルーケ達はまたも驚愕し、シノンは苦笑いを浮かべた。

「陛下って・・・。 どう言う事だ??」

ハプルーンにそう聞くが、中心に立つ横顔からは返答は無い。

「こうなったら、全部説明するしかないようね。 巻き込んじゃったんだし。」

「いや、私が消えれば済む事。 何故それが分からんのだ、お前は。」

「俺はお前を愛している。 ただ、それだけだ。」

自然にそう言うハプルーンに、照れも恥ずかしさも微塵も無い。

ただ、当然の事実だけを言っていると、その姿が言っていた。

「迷惑だ。」

だが、その答えは冷たく即答だった。

「迷惑だろうが邪魔だろうが、俺の気持ちは変わらん。 お前がなんと言おうと、俺はお前を愛し守る。」

「ふん。 馬鹿な者達よ。 私が何だか忘れたのか。 騙されているとも知らず、律儀なものだな。」

「そんな虚言には惑わされん。 バーゴ!! 貴様もいる筈だ!! 俺は帝位を辞退したのだぞ! いい加減にしろ!!」

「そうはまいりません。 陛下。」

そう言いながら、1人の騎士が木陰から姿を現した。

30代に見えるハプルーンと同い年くらいだろうか、その騎士は狡猾そうな眼差しで全員を見回しながら歩み寄り、ハプルーンの前に片膝を付いた。

「私の使命は貴方様をお連れ帰り、帝位について頂く事。 さもなければ、我らが帝国は主を失い、崩壊するでしょう。 多くの人民が命を失い、路頭に迷い、魔の軍勢に滅ぼされるかもしれません。 その方が宜しいのですか?」

「たとえ兄が死んだと言えど、俺の他に親類などもいる。 そいつらに任せればよいではないか? 何故俺に固執する!」

「貴方様にもお分かりになっておられる筈。 もしそうなれば、宮廷内での権力争いから帝国は支離滅裂に分散、弱体化し、結果は同じ事に成るでしょう。 直系である貴方様以外、帝位に着く事はできません。 今は国内で争っている場合ではないのです。」

そう言ってから、バーゴはキュエーシスに目を転じ。

「ダークエルフは魔の象徴、本来なら倒さねばならぬ相手です。 しかし、貴方様個人で守るよりも、帝位につけば庇護下に置き、さらに安全を保つ事も可能ではありませんか。 いつまでも逃亡の生活を続けさせるおつもりですか?」

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