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愚者の舞い 4−6

 南の王国は、実は大陸一面積が広い国である。

温暖な地域で、独特の特産物も多い。

口紅、香水など、優れた装飾品が多いのも特徴だろう。

また、ファレーズの方面は急峻な山岳地帯なのだが、それ以外はほぼ平地と言う、かなり恵まれた地域でもある。

そう言った好条件のため、小さな国がひしめき合って存在する。

王国の中に国と言うと不思議に思えるが、元々小国の群立する地域をまとめた国が南の王国であり、それぞれ攻め滅ぼしたわけではなく、傘下に収めているに過ぎない。

それゆえ、統治する法律はまとめる国王が定めるが、統治はそれぞれの王族が行っているのだ。

国民としてはそれで争いや戦争が無くなるのだから、満足しているが。

それに、1つの大国としてまとまっているおかげで魔物もつけ入り難く、各国の通行も特に制限なく出入りできるし、隣国が近いので行き来も楽なのだ。

「で、誰だっけ? ギルドに入るなり仕事なんて貰えないとか言ってたの。」

ラテルが不満げにそう言うと、フーニスは無言で髪をかきあげた。

「まあいいじゃないかラテル。 これが無手当てなら問題だけどさ。」

「そりゃそうだけどよ。 ドラゴンスレイヤーが隣町までお使いかよ。 嬉しくって泣けてくらぁ。」

ラテルの不満も分からないではないので、ルーケとロスカは苦笑いを浮かべるしかない。

素直に勧められるまま、シーフギルドに入会しようとボットに教えられた酒場に赴き、紹介された旨を伝えるなり、

「おお、ボットさんの言っていた冒険者か。 丁度良い、お前達に依頼したい。」

ボットがどのように伝えたか知らないが、それなりに伝えてくれて、優遇されるかと思ったが。

「この手紙を隣の国に届けてくれ。」

拍子抜けも良いところだ。

明言はしていないが、曲がりなりにもドラゴンスレイヤー、しかも世界に1匹しかいない、最強クラスの銀竜を倒したのである。

この扱いは、非常に悲しいのは確かだ。

ちなみに、隣国へ手紙を届けるなどの簡単な仕事は、新人の仕事である。

「ですが、私達はその程度の仕事でも貰えるだけありがたいではありませんか。 本来なら、山賊にでもなるしかなかったのですから。」

「そりゃそうだけどよぉ。」

「ところで、今日はこの辺で休みませんか? 夜になれば、門が閉じると言っていましたし。」

平地だけに、ロスカも歩くのがきつくはないのだろうが、時間は既に夕方である。

このまま進んでも、ノウムにたどり着くのは深夜だ。

「そうだな・・・その辺を、少し奥に入って休もうか。」

ルーケがそう決めると、フーニスがササッと入って行き、すぐに寝やすそうな場所を探して来る。

国と国の間は林や森で埋め尽くされているため、燃やす材料を探して来やすいし、荒野と違って食料も探せば手に入る。

何気に旅のし易い地域だな、と、ルーケは思った。

「それじゃ、ロスカとフーニスで食事の準備を頼む。 ラテル、一緒に枝でも拾いに行こう。」

そんなに離れていない国と国の間だけに、オオカミなどの肉食獣が出る事は無いと思うが、やはり煮炊きにも火は欲しい。

一行は手分けして野営の準備を進め、それぞれが拾い集めて集まって来た時、なにやら嬉しそうなフーニスに気が付いた。

「どうかしたのかい?」

「ウフフ♪ 綺麗な小川を見つけちゃった♪」

なるほど、と、理解した。

冒険者に限らず、宿に宿泊しても、体を拭くだけの水を買うだけでかなり高値だ。

その点、水浴びは心ゆくまで寛げるし、体を洗って綺麗になれる。

女性である以上、フーニスだって綺麗になりたいし、髪だって洗いたいだろう。

もっとも、自然の小川にはヒルなどもいるため、長く浸かっていると後が大変だし、当然水だけに体が冷えるため、風邪などひきやすいが。

それに、綺麗な水は食事にも欠かせない。

全員、水を入れた筒を持参してはいるが、生温くなった水より新鮮な水の方がやはり料理も美味くなる。

それを聞いた途端、機嫌を直してたラテルとルーケが共に火を起こし始め、フーニスが鍋に水を入れに行っている間にロスカが捕獲したウサギを解体したりと、下準備を進める。

火を起こし、手頃な石で周りを囲み、水を汲んで来た鍋を載せた瞬間、ガサガサっと樹上から何か落ちて来たと思ったら、1人のエルフが少し離れた所に落ちた。

あまりに意外な出来事にルーケ達は思わず動きを止め、それからすぐに各々の武器を抜き身構える。

「なんでこんな所にダークエルフが!?」

珍しくロスカが驚きの声を上げ、それだけにさらに全員の警戒心が高まる。

ダークエルフは魔界の住民で、魔物と同じく魔界以外に住む生物に害を与える事で有名だ。

元は同じエルフだったが、聖魔戦争の時に魔界側に付き、戦いに敗れた後に魔界に適した浅黒い体になったと言うのが定説であり、概ね間違ってはいない。

しかし、問答無用で戦うのも気が引けて、ルーケ達はどう対処したものか悩めた。

そんなルーケ達の見詰める先で、ダークエルフは荒い息をつきながらも何とか立ち上がり、ルーケ達を睨みつけながら身構える。

「おい、どうする?」

魔物にしろ、ダークエルフにしろ、出来るなら退治するのが一般的な常識だ。

それが出来ないなら、速やかに近隣の国に報告しなければならない。

魔物は害を成しこそすれ、益をもたらす存在ではないからだ。

だが、何かから逃げて来たのであろう、弱っている相手を問答無用で退治するのもやはり気が引けるというものだ。

かと言って、いつまでも睨めっこしていてもらちが明かず、ルーケはリーダーとして決断しなければならないのだが。

「・・・おま」

「キュエーシス!! 逃げてどうすんのよぉ!!」

ルーケが口を開いた途端、今度は肌の白い、ハーフエルフが慌てた様子で飛び出して来た。

「ダークエルフとハーフエルフ!? なんだぁ!?」

「こりゃ驚いた。 天敵同士が・・・?」

ラテルが驚き、フーニスが呆れた声を上げると、ハーフエルフはそこで初めてルーケ達に気が付き、ダークエルフを庇うように前に立って腰のレイピアを抜いて身構えた。

「何あなた達!? 敵!? 味方!?」

「いや、敵も味方も無いよ。 俺達はここで、野営をしようとしてたら、その・・・エルフが落ちて来たんだ。」

なんとなく、ダークエルフと言うのが憚られ、控え目にルーケがそう言うと、ハーフエルフは真偽を確かめるようにルーケを見詰めた後に、警戒しながらダークエルフの横に周る。

「動ける? キュエー。」

「当たり前だ。 私をっ。」

平然と言おうとしたが、やはり木から落ちて来て無事ではなかったようだ。

言葉を止めて、グッと苦痛に顔を歪める。

「まったく、エルフの癖に木から落ちるなんて! ハプと合流したら治してあげるから、そこまで頑張ってよね。」

「余計な、お世話だ。 私は、あいつから」

「キュエー!! 無事か!! 貴様らか、キュエーを!!」

そこへ更に大剣を抜き身で持った大男が飛び込んで来て、素早く状況を見回すなりルーケに上段から斬りかかって来た。

「うおっ!? ちょっと待った!!」

ガキィッ! と、大剣をなんとか受け止め、そう言うが。

「問答無用!! 俺のキュエーを害する者に手加減はせんっ!!」

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